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陶芸部の日常  作者: もち
三大義務
29/33

〈12〉



「ぐっ……!」


腹に衝撃を受け真野の体は後方に吹き飛ばされる。数本の木をぶち抜き硬い岩に打ち当たり、ようやく止まった彼女の姿は、血だらけどころではなかった。



"そういえば"そんな風に彼女は思い出す。


そういえば、玄龍が言っていた。何かあれば俺を頼れと。ふーちゃんも言っていた。一人で勝手に行くなと。その他にもいろんな人が、自分にはたくさん言葉をかけてくれていた。



それでも彼女は一人で来たことに何の後悔も覚えていなかった。思っていたのは、また心配とか迷惑とか掛けちゃうなぁ、くらいである。



「そろそろ飽きてきちゃったなぁ。」


相変わらず虫で出来た玉座のような椅子に腰掛ける彼は、爪をいじりながら言い放った。


「人の中では強いほうかもしれないけど、一人で来たって勝てるわけ無いじゃんねー。早く僕のお腹に収まれば良いのに。悪いようにはしないよ?」



「………でよ」



「ん、なっにー?まだなんかあるの?今更命乞……え?」



ゆらりと立ち上がった真野。その顔には、見るものに恐怖を与える、凶悪な笑みが浮かべられていた。


そう、カミサマでさえも、恐怖し冷や汗を流すような…。



「な、なんだその顔は!?や、や、やめろ!!近寄るな!喰うぞ!!!」



じわりじわりと近寄る一人の少女を前にして、虫王子は両手を振るう。その動きに合わせて、先程までと同様、牙を向いた大小様々な虫が真野へと向かいゆく。



すぐに彼女の姿は黒い影に覆われた。


しかしその歩は止まらない。



「やめろやめろやめろ!!!来るなぁ!!」


自身が放った数多の虫により姿こそ見えないものの、虫王子には分かった。


その中で彼女は笑っている。



それはもう楽しそうに。



遂に王子は彼女の間合いに入ってしまった。本能的にそれがわかるものの、彼の足は弱々しくそこにあるだけで、自由に動かすことができない。


そんな彼が編み出した、いつも彼を守ってくれていた障壁でさえ、今は心もとなく感じてしまう。



遂に、彼は障壁を越えた。



完全な守りの姿勢から飛び出し、以前振るっていた剣を手に取り、放った虫ごと彼女に斬りかかる。



それは捨て身の一撃。その一撃で彼女は笑いを止め、ぴくりとも動かなくなる。



筈だった。




グォォォオオォオオオオオ!!!!!!



大地が揺れるような雄叫び。


襲い来る圧倒的な力の波。



「嗚呼、なんと神々しいのだ…」



神を名乗るものの呟きは少女の耳にのみ聞こえ、静かに消えた。



死していく王子の目には、美しい大蛇の姿が映っていた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━



ばらりばらり。


そんな音を立てて自分から虫が剥がれ落ちていく。

そんなゆっくりじゃなくてもっと迅速に離れていって欲しい。


気持ち悪い。手ではたき落としたいが怪我が酷く手を動かすこともできない。



漸く大体の虫が地に落ち倒れ伏した頃、真野はゆっくりと地面に座り込んだ。



彼女の手にはいつの間にか、例の剣が握られていた。



「もっくんお疲れさまー」


『……いい加減他の呼び名はないのか』


彼女の声に応じるように、剣からは低く良く通る声が響く。


「いいじゃんもっくん。私気に入っちゃったし。」


『……構わん。』


「やった。…王子さまの、お味はどうだった?」



黒い笑みを浮かべる真野。その白い頬は泥や血で染まり、顔色もすこぶる悪い。


しかし彼女は知らぬ存ぜぬ、ただ状況を楽しんでいるように見える。



『不味かった。マガイモノでは腹は満たせぬ』


「そっか。残念」



剣を一撫ですると、いよいよ耐え切れなくなったのか、糸が切れたように彼女の体は崩れた。



「わたし、死ぬ…かな?」


弱々しくも呟いたが、相変わらずその顔には笑みが浮かんでいる。



『…聞こえているのであろう。騒々しい奴が向かっておる。奴が主を死なせはせぬだろうよ』




耳を澄ますと遠くから、聞き覚えのあるバイクの音が聞こえた。



真野は静かに目を閉じた。




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