51話:底へ*4
さて。
籠に乗り込む、となると、問題になるのが『どの組み合わせで行くか』である。
「……まあ、下で合流できるんでしょうから、あんまり考えなくてもいいとは思うんだけれど……ええと、グレイとアイオンが一緒になると、ちょっときつそう、よね」
「そうだな」
早速、『グレイとアイオンの2人乗りは難しそう』ということだけは、決まった。……グレイとしては、非常にありがたい。自分もそう小柄な方ではないし、アイオンもそうである。そもそも、アイオンもグレイ自身も、鎧だの何だのでかさばるのだ。スファルと大して変わらないのである。
「ええと……私、できればグレイと一緒がいいわ」
そして、ローズがそう申し出たため、あっさりと2人組の話は終わった。……アイオンが、『そんなに私が嫌かね……?』と、少しばかり傷ついたような顔をしていたが……。
そうして、グレイとローズが籠に乗り込んだ。
「すまないな、狭いだろ」
「そうね。狭いわ!」
ローズは、グレイの隙間にむぎゅうと収まるようにして、なんとか籠に収まった。……ルイナほどではないが、ローズにも中々の無理をさせている。
「グレイこそ、その、大丈夫?」
「こっちは大丈夫だ」
一方、グレイはというとこちらも限界ぎりぎりまで籠の側面に張り付くようにして、できるだけローズに場所を空け渡せるようにしている。が、限度というものはあるので、グレイの気遣いはあまり役立っていない。
「じゃあいってらっしゃーい」
「向こうで落ち合おう!」
……ということで、グレイとローズが乗った籠が降りていく。エメディアとアイオンに見送られつつ、グレイとローズは降下していく籠の中、少々緊張しつつ、籠の到着を待ち……。
がこん、と大きく籠が揺れ、止まる。どうやら、目的の箇所に到着したらしい。
ということで、グレイとローズは籠の外に出てみるのだが……。
「……スファルとルイナが居ないな」
何故か、そこで待っているはずのスファルやルイナの姿が見当たらないのだった。
これはまずい、と瞬時に判断したグレイであったが、空になった籠は既にゆっくりと上昇を始めている。
「……くそっ」
流石に、スファルほどの声量は無いグレイは、ここから声で全てを伝えられる自信が無い。となれば……去り行く籠だけが、唯一、アイオンとエメディアに何かを伝えられる可能性となる。
グレイはすぐさま判断し、ナイフを抜いた。そして、携行食のビスケットを2つに割って、ナイフと共に籠へ放り込む。
……そうして、2つに分かれたビスケットと1本のナイフとを載せて、籠は上へ消えていった。
「これで伝わればいいが……」
「『分かれちゃいました』っていうことよね。大丈夫よ。きっと、伝わるわ。だって向こうには……あー、その、アイオンが居るもの」
「……そうだな。アイオンが居るから、何とかなるだろう」
言葉に拠らない伝言ではあるが、アイオンのことだ、きっと読み解いてくれることだろう。余計なことまで読み解かなければいいが、まあ、それをアイオンに期待するのは難しいので……アイオンの読解を丁度いいところで止める役割は、エメディアに期待することにする。
「じゃあ、進んでみる?ここで待っていてもしょうがないでしょうし……」
「いや……一旦、ここで待とう。エメディアとアイオンが、ここへ来ないとも限らない」
ローズの提案にそう返しつつ、グレイはこの場で待つことにした。とはいえ……ローズの言う通り、『ここで待っていてもしょうがない』であろうことは、なんとなく、察していた。
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「ほう……。2つに割れたビスケット。そしてビスケットを割ったかのような、ナイフ。これはつまり……」
アイオンは、エメディアの目の前で籠の中に残されていたもの……割れたビスケットとナイフを見て、何やら唸り……そして、結論を出した。
「脅威がグレイ達を襲い、そして、グレイは今、ローズ嬢と分かれてしまっている!そういうことなのでは!?」
「或いは、スファル達と別のところに運ばれちゃった、っていうことかもね。ローズと分かれちゃった、っていうことなら、グレイ1人だけ籠に乗って戻ってきそうだし……」
「両方、とも考えられるか。スファル達とも、ローズ嬢とも分かれてしまった、と……その場合、グレイはどうなっているのだろうな……」
「攫われちゃった、ってことかしら……?でも、このナイフ、グレイのだわ。ということはやっぱり、グレイがこういう伝言を残す余裕を持っていた、っていう訳だから……それでいて、文字を書き残すほどの余裕は無かった、っていうことだから……」
エメディアは、考える。
アイオンの言う通りかもしれないし、そうではないかもしれない。だが、『何かあった』ということだけは、確かだろう。
……ここで待つこともできる。だが、そもそもスファルとルイナは、グレイとローズに何かがあったことを知らないかもしれないのだ。ならば、2人に不要な待ちぼうけをさせることになる。そしてその結果、2人に危険が及ぶかもしれない。
「……先へ進みましょう」
「おや、素晴らしい。勇猛果敢ではないか、エメディア姫!」
エメディアはアイオンのエスコートで籠に乗り込むと、『ちょっとアイオンそっち詰めて』『ううむ、これ以上は厳しいぞ。義肢を外せば話は別だが……』などとやりとりしつつ、早速動き出した籠に乗って、そのまま下降していくのであった。
がこん、と籠が揺れ、恐らくここが目的地であろう、という場所に到着した。
アイオンが先に降りて、周囲に危険が無いことを確認してから、『どうぞ』とエメディアに手を差し出してくる。エメディアは『アイオンってこういう風に妙に紳士的なのよねえ』などと思いつつ、手を借りて籠から降りた。
「さて、エメディア姫。困ったことに、グレイ達もスファル達も居ないようだ」
「そうね……。まさか、昇降機でこんな風に分断されちゃうとは思わなかったわ」
アイオンと揃ってため息を吐きつつ、エメディアは考える。
……これが、この地下神殿の狙いであったのだろう。複数名で訪れた者達を分断することこそが、昇降機を設置した目的なのだ。
そして、分断したい理由を考えていけば……緊張が走る。
「……アイオン。私から、絶対に、離れないでね」
「おお、熱烈なことだ。お望みならば仰せのままにしようではないか。今だけは、私が『王女エメディアの盾』だな」
軽口を叩くアイオンであったが、エメディアの意図するところは十分に分かっているのだろう。アイオンはエメディアの前に出て武器を構えたまま、慎重に進み始めた。
エメディアがアイオンと共に進んでいくと……やがて、うぃん、と、機械の動く音が聞こえてくるようになる。
機械仕掛けの迷路のような、重い駆動音ではない。もっと小さく軽い……『人間くらいの大きさのものが動く音』だ。それも、無数に。
「……アイオン」
エメディアが緊張しながらそっとアイオンに声を掛ければ、アイオンも小さく頷いた。
「ふむ……まあ、私にもグレイの真似事をやってやれないということは無いだろう」
アイオンはそう言いつつ、モーニングスターを手に肩を竦めて見せた。
「だが、彼のようには上手くやれまい。……エメディア姫。稼ぐ時間は、30秒でいいのだったかな?」
「……いえ」
アイオンが覚悟を決めているというのなら、エメディアもそうしないわけにはいかない。
エメディアは、杖を構えて、言った。
「10秒よ」
「いやはや、本当に大したものだ!一体、この細い体のどこにあのような力が眠っているのやら!」
……そうして。
アイオンが呵々として笑い、拍手を送ってくる中……エメディアは、部屋の中のメカニジア兵を全て一気に片付けて、深く息を吐いた。
「ありがとう、アイオン。あなたが居たからだわ」
「何、騎士として当然のことだ。……まあ、私もこれでグレイに胸を張って報告ができるというものだな」
アイオンは、流石に無傷とはいかなかった。鎧のあちこちに凹みが生じている他、恐らく、義肢や生身の部分にもいくらか損傷がある。
だが、軽微だ。あれだけの数のメカニジア兵を相手にしたにしては、あまりにも軽微。それは勿論、アイオン自身が上手く立ち回ったからでもあったが……それ以上に、エメディアが『10秒で』魔法を仕上げたからである。
「それにしても、あれほどの速さで、あれほどの魔法を放つとは。やれやれ、エメディア姫はローザテイル随一の宝にして、ローザテイル随一の武器でもある、ということか……」
「ああ、それなら、そう難しい話でもないわ。メカニジア兵って、全部同じように作ってあるでしょ?だから、魔力を共振させるにしても、全部一気に片付けられるのよね。だから10秒で済んだのよ」
「成程、そういうことだったか。……いや、それにしても私には理解し難い話だがな……」
……エメディアとて、変化せずに居るわけではない。
魔力を増やし、そして、技術を磨いてきている。相手に魔力を注ぎこんで魔力器官を破裂させるようなやり方のみならず、相手の魔力器官を共振させてその部分だけ破壊するような、そんなやり方もできるようになった。
そしてそれを、できる限り急いでやれるようにも、なったのだ。
……それは、『必要だから』である。
「ふふふ、10秒、か。……これならば、グレイが傷を負うことも無いだろうな」
「……そうね。そうしなきゃいけないわ」
エメディアが手間取れば、エメディアを守る者達が……盾役が、傷つく。それが分かっているからこそ、エメディアは、自分の魔法をより素早く放てるようにならなければならないのだ。
「グレイも果報者だな」
「そうかしら……」
「そうだとも。……さあ、彼らを探しに行こう。グレイとローズ嬢のみならず、ルイナ嬢とあの無骨者の方も行方が分かっていないことだ。まあ、スファルの心配はあまり必要ないだろうが……」
アイオンがまた歩き出したのを追いかけつつ、エメディアもまた、前を向く。
……どうか、大切な仲間達が無事であるように、と祈りながら。
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