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鉄拳式回想法

 グレゴリアとヒルデの両名が起きたのは日が暮れてからであった。我者髑髏による拳骨が相当のダメージだったのか、それともそういう風になる世界だったのか、とりあえず頭にでっっっかいタンコブができている。


「あ、頭が、ガンガンする……」


 身体を先に起こしたのはヒルデ、遅れてグレゴリアがよろよろと立ち上がる。


「あー、その、なんだ、やり過ぎた。すまん」


 そして正面には頭を下げるヨーヘイである。気絶するほどの威力で殴っておいて一言謝って済むかは相手次第であるが、今回に限れば大丈夫であったようだ。


「いえ、やり過ぎたのはこちらです。お手数おかけしました」


 ここで今まで人形のごとく黙っていたグレゴリアが起動する。何をするのかと思いきや、ヨーヘイに向かって走り、そして抱きついた。


「パパ!!」


 空気が凍りつく。


「(待て、ここの方言という線がある、それにどう考えても俺はグレゴリアの父親じゃない。聞き違えのはずだ)」

「ねえ、良いでしょ!! パパになって!!」

「聞き間違いであれという願いは脆く崩れたか……無理だ。グレゴリアのパパにはなれない」

「えー、やぁーだぁー!! 私のこと叱ってくれる人はパパだもん!!」

「どんな基準だ。頭殴られたせいで幼児退行したか」

「ヨーヘイ様はお前の父親ではない!!」


 空気が凍りつく(物理)。ヒルデから放たれた冷気が真っ直ぐにグレゴリアに向かっていた。流石に姉妹喧嘩をもう一度起こされてはかなわないのでヨーヘイがそれを散らす。


「なっ!? まさかヨーヘイ様はグレゴリアの味方をするのですか!?」

「いや、そうじゃねえけど」

「へっへーん!! パパはグレゴリアのパパだもーん」

「話をややこしくすんな」

「いてっ!?」


 今度は手加減したデコピンである、痛々しい音はしたが気絶するほどの威力はない。食らった当人は額をさすりながらニコニコとしている。


「また叱られちゃった……えへへ」

「ヨーヘイ様、その女は頭がおかしくなったようなのでこちらへ渡してください。知り合いのよしみで引導を渡します」

「物騒なこと言うなよ、姉妹だろうが」

「ど、どどどど、どうしてそれを!? 私の最大の汚点をなぜ」

「ま、お見通しってやつだな」


 このヨーヘイは説明するのが面倒なので適当に丸め込みにかかっているだけである。しかしヒルデにはそれが通用する。


「お見それしました……確かにグレゴリアは私の腹違いの妹です。要女になったというのにこんな有様でほとほと困り果てています」

「一応言っとくけどな、お前も結構受付さんとか困らせてるから程々にしとけよ?」

「ははは、ヨーヘイ様はご冗談がお上手です。私が? まさか?」


 ヨーヘイは真顔である。それが全てを表していた。


「本当、なのですか」

「ヌルさんが言ってた。お前が来るとここは防衛体制に入るってな」

「しかし、それはグレゴリアが」

「いい歳して喧嘩なんてするなって事だな、強い分だけたちが悪いって言われてたぞ」

「何という事だ……」


 がっくりと項垂れるヒルデ、全身から負のオーラが吹き出している。


「ねえパパ」

「パパじゃねえ、何で俺がパパなんだ。あと何度か聞いてるけど要女ってなんだ」

「要女っていうのはね、生贄だよ。悪いものに栓をするために選ばれる女の子。その代わりに街で1番偉いし、強い力もあるの。一生ここから離れられないけどね」

「……生贄か」

「そう、生贄なの。大樹都市の真下にはね、こわーい蛇が埋まってるんだよ」

「木の下に蛇ね、それじゃあ名前はニーズヘックか? まさかそんな事はないだろうが」


 1つの神話体系にある木の下に居る蛇の名前である。北欧の強化外骨格にそんなのあったなと思いながら冗談で言った言葉だった。


「え」

「え?」


 心底驚いたという風にグレゴリアの目が見開かれる。さっきまでにポワポワした感じが吹き飛び、使命を背負う目に変わっていた。


「あまたの月、あまたの太陽、それら全てが死に絶えし時、堅牢なるもの降り立つ、彼の者は忌み名を知り、そして」


 グレゴリアの手がヨーヘイの手をがっちりと掴む。


「忌み名を滅ぼし、新たなる世界を開く」

「ちょっと待てよ。それもしかして要女に伝わる予言とかなんかじゃねえだろうな」

「そこまで知っているんですか、ならばもう語る事はありません」

「いや語ってくれよ!? なにが何だか全然分かんないだが!?」

「良かった……実はそろそろ限界が来るころ……こっそりヒルデガリアに押しつけようと思ってたのに」

「は?」

「んんっ!! 今のはナシで。ですが、時間が来るのは本当です。私の代で忌み名を解放してしまうのは心苦しかったのですが。これで安心です」


 バキリ、バキリ、音が鳴る。それは何かが崩れる音、それは閉じ込められた蛇が暴れる音、バキリ、バキリ、これは人の形が崩れる音、人だった要女が忌み名に変わる音、バキリ、バキリ、あれは聖堂が壊れる音、封印が解かれた音。


「シャアアアアアアア」


 大樹を喰らう蛇ニーズヘッグ、グレゴリアの身に封じられていた大蛇。されど、大蛇の正体は蛇にあらず。極めて長い体躯は確かに蛇のように見えるだろう、擦れる音は蛇の威嚇に聞こえるだろう。だが違う、こんなものが蛇な訳がない、なぜなら、ヨーヘイはそれを知っている。世界に崩壊をもたらしたそれを知っている。


「ありゃあ……機械仕掛けの悪魔(クチナワ)じゃねぇか……!?」








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