絡まれるのはお断り
「案外美味いなこれ」
「ええ、私もお気に入りです」
幼虫を囓りながら談笑する2人に近寄るものが居た。わざとらしく音をさせながら歩く様子はとても友好的ではない。
「よう、新顔」
「なんだ、腹が減っているのか。食いかけでよければ食うか?」
「気前の良い兄ちゃんは好きだぜ。でもな、今は違うんだなこれが」
全身を鎧で固めた男がヨーヘイを睨みつける。すぐさま動きそうなヒルデは今回は静観している。ヨーヘイはこれだけで何かあると察した。つまり、この男は何かの通過儀礼でヨーヘイを試そうとしているのだと。
「そうか、じゃあ用はなんだ?」
「お前がどんな奴か知っておきたいと思ってな、ちょっとこっちに来てもらおうか」
「断ると言ったら」
「おいおい、早まるなよ。俺がどんな奴かも知らないでそんなことしても良いのか? もしかしたらここの権力者かもしれないぜ?」
鎧の胸の部分にあるマークを叩いてみせる男、マークは木を象っておりこの街で一定の立場があることを暗に示しているようだ。
「なるほど」
「で、どうする?」
「とりあえず名乗ってもらえるか、そうしたら俺も応える」
「俺が? どうしてお前に名乗らなきゃいけない? 名前を使った呪術でも使う気か?」
「オーケー、分かった。俺から名乗ろう、名前はヨーヘイ。ゴーレムだ」
「ゴーレム? 嘘をつくな、お前のようなゴーレムが居てたまるか」
「これを見ても?」
ヨーヘイは我者髑髏を起動させた、乗り込んでいなくともある程度の操作は可能なのである。そして目の前で乗り込んで見せた。
「これが俺の本体だ。さっきのは目立たないようにしていただけさ。で、何か質問は?」
「驚いたな……まさか本当に意思あるゴーレムとは……これならば土地神というのも頷ける。先ほどの音はあなた様の声でよろしいですか?」
ヨーヘイの我者髑髏を見た途端に態度を改めた男を見てヨーヘイは確信した。この場所では自分のことをゴーレムだと言えば問題ないと。
「音? ああこれか」
もう一度小型銃を空撃ちする。ズキューンという音が辺りに響いた。
「左様で。異常な音ゆえに駆けつけた次第です」
「そうだな、これは俺の声のようなものだ。ただしくは銃声だがね」
「ジューセイ? あの音はジューセイと言うのですね。音のみで攻撃ではないと思ってよろしいですか」
「ああ、町中で聞こえるときはそうだ。外で聞こえたときはもう遅いかもしれないが」
「と、言いますと?」
「こういうことだ」
空へ向かって本当に撃ってみせる、撃ち出されたビームが辺りを一瞬だけ照らす。近距離では同時に音もなっているように思えるが、少し離れたところでは撃たれてから音が聞こえるという現象が発生していた。つまりは音よりも早いということである。
「なるほど、聞こえたときには遅いとはそういうことですか」
「分かってもらえてなにより。それで、そろそろ名乗ってもらえるかな?」
「その前に1つ約束していただけますか」
「なんだ、よっぽど酷いものでなければ約束しよう」
「この町に仇なす事をしないと誓っていただけますか」
「誓おう、それで信用が買えるなら安いもんだ」
そう言った瞬間に空から光の柱がヨーヘイに降り注いだ。攻撃ではないようで我者髑髏にダメージはない。
「なっ!?」
すぐさまに我者髑髏の武装を展開する。今回選んだのは近接用の小刀で銘は「菜切」と言う。
「てめえ!!」
「ヨーヘイ様、これは攻撃ではありません」
斬りかかる寸前でヨーヘイの腕が止まった。鎧の男は喉もとに刃が迫っても微動だにしていなかった。まるで刃が止められることが分かっていたかのように。
「じゃあなんだこれは」
「神の契約です、ヨーヘイ様が大樹都市に攻撃できないようにするための。ここに入った者の中で特に力ある者はこの契約を結ぶのです」
「神……? 契約……?」
「先ほど誓われたことを契約の神が承認なされたのです。気分を害されたのならば謝罪いたします、ですがこれがこの町のルールですので」
「俺に不利益はないのか」
「ありません、この町を破壊する意思がなければですが」
「……そんな意思はなかった」
「あなた様の力は危険でした、必要な措置なのです」
「はぁ……分かった、そういうルールなら仕方がない」
「ご理解いただけてなによりです。それでは改めて名乗りましょう」
鎧の男が兜を取る、顔が露わになった。美しい金髪の女性である、兜に変声機能でもあったのか兜を取ってからは女性の声であった。
「女だったのか……」
「大樹都市の治安維持隊の隊長を務めております。グレゴリアです、立場上最初は男のように振る舞っておりました。謀ったことを重ねて謝罪いたします」
「もう良い、終わったことだ」
「恐れ入ります、それでは大樹都市をお楽しみください。私に用がある時は聖堂に起こしくださいね」
「聖堂?」
「ええ。私はこの町の要女でもありますから」
「かなめ……ね」
「では、ごきげんよう」
グレゴリアはそう言って踵を返した。その方向に見えるのは木の幹に埋め込まれたような荘厳な建物である。グレゴリアの言う聖堂であろう。
「はぁ、なんだったんだ今の」
「流石はヨーヘイ様ですね……まさかグレゴリア本人が出張ってくるなんて……」
「なあヒルデ、さっきの奴はすごいのか?」
「え、ええ。グレゴリアは大樹都市で2番目でしょう」
「2番目? じゃあ1番は誰なんだ?」
「もちろんヨーヘイ様です」
「は、嬉しいこと言ってくれるね。つまりはここで1番偉いやつが直々に出迎えに来たわけか」
「そうなります」
「熱烈な歓迎で嬉しい限りだな。で、次はどこに行こうか」
「依頼の報酬を受け取りに行きたいと思いますので聖堂へと向かいましょう」
「げ、あいつにすぐに会いに行ったみたいになっちまうな」
「仕方ありません、大体の元締めは聖堂なので」
「そうか……んじゃ行こう」
2人の次の目的地が聖堂に決まった。