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大樹都市

「こちらです」

「マジか」


 溶岩湖を見た時かそれ以上の衝撃をヨーヘイは受けていた。ヒルデに案内されながら溶岩湖を出てしばらく歩いて見えてきたのは巨大な木であった。しかもただの木ではない、その木に沿って枝と幹に街がある。どう考えても重さに耐えられない筈の規模の街である。しかし、この現実は違う、超巨大な木に街が成立している。


「マジカとかどういう意味でしょうか。何か無礼だったのならば治しますが」

「あー、なんというか驚いたときに出る声だ。気にするな」

「分かりました。僭越ながら説明しますと、ここは大樹都市と呼ばれています。立場としては中立です、王国、帝国、空中園、海底宮、神聖壁のどれにも属していません」

「オーケー、まずは全部受け入れることにした。とりあえず良いか?」

「なんでしょうヨーヘイ様」

「さっきのは国だよな?」

「はい、王族と貴族による統治が行われるのが王国。帝王の独裁が行われるのが帝国、空中大陸に住む部族の長の連合が空中園、海に住む者達が世襲制の君主をいただくのが海底宮、神を奉る1点のみで結びつく神聖壁です」

「最後の神聖壁なんだが、壁に国があるのか?」

「違います、神聖壁は壁に囲まれた国です」

「なるほど……?」


 ここで高らかにヨーヘイの腹が鳴る。


「……まずは食事ですね、ヨーヘイ様は何をお食べになるのでしょうか」

「なんでも食える、とは言い難いな。できれば加熱された肉か野菜が望ましいな、芋や穀物があれば尚更良い」

「なんと、我々と食べるものは変わらないのですね」

「そうだと良いが」

「では、私がよく使う食堂へお連れします」

「頼む」


 大樹の根元にはゴンドラのようなものが設置されている、それに乗って大樹の枝の上まで行くのだが、そこには当然門番の役割を果たす者がいる。木製の防具を纏って弓を背負い、剣を腰に差した男であった。


「お前はヒルデガリアだな?」

「そうだ、通りたいのだが」

「お前は問題ない、通れ。だが、そこのゴーレムは別だ」


 ゴーレムとは無機物に仮初の命を吹き込んでつくる人形である、ごく稀に自由意志を持つ天然のゴーレムも存在するが滅多に発生しない。


「決まりでな、使い魔の類も入れることができん。術を解くか預けてくれ」

「っ!? この方を使い魔だと!!」


 ヨーヘイを使い魔だと言った男に詰め寄るヒルデ。


「この方は!! 溶岩湖の精霊を一撃で鎮めた土地神だ!! それを、言うに事欠いて使い魔だと!!」

「待て、こいつは仕事をしているだけだろ? 怪しい奴を入れないのは当然だ」


 今にも武器を抜きそうなヒルデを止めながら、ヨーヘイは門番の方を向く。


「申し訳ねえ、俺はいきなりここに来ちまったんだ。この上に行くためにはどうしたら良い? そっちのルールには従う」

「喋った……!? すまない、君は確かに使い魔ではない。とすれば、別にここで止める必要もない。意思を持つゴーレムは初めてだが、暴れるような真似をしなければ問題ない」

「だから!! この方は!!」

「ヒルデ、少し静かにな」

「っ!? 申し訳……ありません」


 これ以上こじれると本当に街に入れなくなると判断したヨーヘイは強引にヒルデを黙らせた。


「驚いたな、あのヒルデガリアが言うことを聞くとは」

「ちょっとしたことがあってな、それで通してもらえるのか?」

「ああ、これを持て」


 門番が手渡したのは木を削って作ったらしい板である。


「これがここでの身分証明となる。ではようこそ大樹都市へ」

「ああ、騒がせてごめんな」


 ゴンドラに乗るとヒルデが深々と頭を下げる。


「申し訳ございませんでした、ヨーヘイ様をゴーレムなどと言うものですからつい」

「ゴーレムか、俺はそんなにゴーレムに見えるのか?」

「似ても似つかぬとは言えません、ゴーレムの造型は自由ですから」

「なるほど、俺をゴーレムということにすれば楽に説明ができるってことだな?」

「っ!? いけません!! ヨーヘイ様はゴーレムなどでは」

「いやいや、それを相手に信じさせるのにどれくらい時間がかかるか分からん。これから俺はゴーレムってことにする」

「しかし……」

「良いんだよ、面倒は避けた方が良い」

「分かり……ました」


 渋々という風を隠そうともしない、誠に遺憾であると顔に書いているような感じであった。


「そろそろです」


 ゴンドラが上がりきる、すると木と街の融合という幻想的な光景が広がった。見たことのない特徴を持つ人間や見たことのない動物、その他諸々言い出せばキリが無いほどの新鮮さがヨーヘイに叩きつけられた。崩れた建物や砂の舞う荒野といった光景しか見たことのないヨーヘイには涙が出るほどの感動をもたらした。


「すごいな……」

「そうですか? 街はそこまで美しいというわけでは」

「いや、良いんだ。見慣れない光景でな」


 何に感動しているのか分からないというヒルデをよそに辺りを見渡すヨーヘイ、音も香りもなにもかも生き生きとしているのを全身で感じていた。が、見た目は強化外骨格のままなので奇異の視線を集めてしまっている。


「当初の目的を果たしましょう、食事はあちらで」

「そうだった、忘れてた」


 枝をくりぬいた空間に食堂が開店している。どちらかと言えば店舗というより屋台という方が近い形態である。


「これが大樹都市の名物です、どうぞご賞味ください」

「……なるほど」


 ドンと出されたのはソースのかかった巨大な白い塊である、一見して何かは分からないのだがよく見れば何にソースがかかっているのか分かる。それは、虫の幼虫であった。


「美味しいですよ」

「受け入れるって言ったもんな、郷に入っては郷に従う、か」


 食事のために我者髑髏を脱ぐ準備に入る、待機の姿勢を取りながら排熱を行う。蒸気を上げながら背面が開き我者髑髏の中からヨーヘイが出てくる。


「さあ、食べようかね」

「誰だ貴様!!」

「え?」


 あっと言う間にヒルデに取り押さえられるヨーヘイ。


「ヨーヘイ様に何をした!!」

「あー、説明してなかったな」


 首にナイフを突きつけられながらも頭をぽりぽりと掻くヨーヘイ。


「俺がアレに入ってた、分かるかヒルデ」

「戯言を!!」


 首を切られようとする瞬間、ヨーヘイの首に金属の装甲が浮かび上がった。刃は装甲に弾かれ、突然のことにヒルデに隙が生まれる。


「動揺するな、こんなことで動揺してたら死んじまうぞ?」

「くっ!? 放せ!!」


 隙をついて抜け出したヨーヘイが今度はヒルデを押さえる。


「貴様がヨーヘイ様だと言うのならば証拠を示せ!!」

「え? そうだなあ」


 腰にある小型のビーム兵器、群がりよりも小さなものであるが空砲を撃つには十分であった。特徴的な音が響く。


「その音……!! まさか本当に」

「そうだって言ってるだろ」


 大人しくなったヒルデを解放する。すると無言で耳を切り落とそうとした。


「バカバカバカ!? 何してんの!!?」

「重ね重ねの無礼を!! お詫び!! しなければ!!」

「要らねえって言ってんだろ!! やめろ!!」

「ですが!!」

「ですがじゃねえ!!」


 ヒルデを落ち着かせて幼虫を食べるまでに、すっかり幼虫は冷めてしまっていた。





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