表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

問い



部屋の中は、異様なほど静かだった。


白い壁。

白い床。

白い天井。


どこを見ても同じ色で、境目が曖昧だ。光を受けて反射するその白は、柔らかさとは無縁で、むしろ硬質だった。炭鉱で慣れ親しんだ黒や茶色と違い、ここでは影すら居場所を失っている。


ここに来て、俺は知った。

白という色は、落ち着くためのものじゃない。


音を吸わない。

視線を逃がさない。

どこを向いても、白がこちらを見返してくる。


まるで「逃げ場はない」と言われているみたいだった。


俺は、窓の下に置かれた椅子に腰を下ろし、外を見ていた。

高い位置に設けられた窓から見えるのは、城壁の一部と、その向こうに切り取られた空だけだ。雲の流れすら、ここからだと遅く感じる。


それでも――

炭鉱よりは、ずっとましだった。


暗闇でも、狭さでもない。

「閉じ込められている」と分かる形をしていることが、むしろ救いだった。


俺は、ぼんやりと外を眺め続けていた。

考えようとすると、頭の奥がざわつく。

何を考えればいいのかも、分からない。


――そのとき。


「ハイド」


名前を呼ばれた瞬間、体が跳ねた。

反射的に立ち上がり、椅子が床を擦る音がやけに大きく響く。


扉の方を向くと、そこに“女”が立っていた。


知らない顔だった。


城で見かける侍女とも違う。

貴族の女性とも違う。

装飾も、威圧感もないのに、目が離せない。


白に近い肌。

整いすぎた輪郭。

無駄な動きのない立ち姿。


そして――

こちらを真っ直ぐに捉える、澄み切った視線。


「……誰ですか」


思わず、声が低くなる。

警戒しているつもりだった。

でも、相手はそれを気にした様子もなく、一歩こちらに近づいてきた。


距離が、近い。


「やっと会えましたね」


柔らかい声だった。

耳に心地いいはずなのに、なぜか背中がぞわりとする。


「ずっと、あなたに会いたかったんです」


心臓が、嫌な音を立てた。


意味が分からない。

会ったこともない。

なのに、最初から俺を知っているみたいな言い方。


「え……?」


戸惑う俺を見て、彼女は少しだけ笑った。

その笑顔は、作られたもののようでいて、どこか自然でもあった。


「こうして見ると……やっぱり素敵です」


視線が、俺の顔をなぞる。

値踏みされている感覚に、喉が詰まる。


「思っていたより、ずっと」


一歩、また一歩。

彼女は躊躇なく距離を詰めてくる。


「ちょ、ちょっと……!」


後ずさる俺に、彼女は首を傾げた。

困惑でも、拒絶でもない、純粋な疑問の仕草。


「おかしいですね」

「この反応率は……想定より低い」


……反応率?


言葉の意味が、頭に引っかかる。


彼女は一度立ち止まり、顎に指を当てた。

その仕草すら、計算された動きみたいだった。


「距離が近すぎましたか?」

「それとも、言葉の選択?」

「それとも……表情?」


ぶつぶつと、独り言のように呟く。

俺の存在が、実験対象みたいに扱われている気がして、胸がざわついた。


そして、もう一度、俺を見る。


「ハイド」


今度は、やけに甘い声だった。

意図的に変えられたと、はっきり分かる。


「あなたのことが――」


「待ってください!」


思わず、遮っていた。


「意味が分かりません!」

「あなた、誰なんですか!」


声が、少し裏返る。

それでも言わずにはいられなかった。


その言葉に、彼女は目を瞬かせた。

ほんの一瞬の沈黙。


そして――

はっきりと、“切り替わる”。


「……理解しました」


声が変わった。

感情の揺れが消え、均一で、澄んだ響きになる。


「先ほどの対話パターンは不適切でした」

「感情的親和性を重視しすぎました」


彼女は一歩下がり、背筋を伸ばした。

姿勢が整う。それだけで、別人のように見える。


「改めまして」

「私は、イーリスです」


その名前を聞いた瞬間、胸がざわついた。

理由は分からない。

でも、聞いたことがある気がした。


「私は、あなたの鉄騎に搭載された人工知能です」

「先ほどの振る舞いは、対人接触最適化の試行でした」


……人工、知能?


頭が、追いつかない。


「……人、じゃない?」


恐る恐る聞くと、イーリスは迷いなく頷いた。


「はい」

「私は道具です」


その言葉は、妙にまっすぐだった。

誇りも、卑下もない。


「あなたが望めば、力がそれを叶えます」

「それが、私の役割です」


道具。

力。

望めば叶える。


炭鉱で、鞭を振るわれていた俺には、どれも現実味のない言葉だった。


そのとき――

部屋の中に、影が落ちた。


窓の方を見ると、外が暗くなっている。

いや、違う。


立っている。


挿絵(By みてみん)


窓の外に、白い巨体があった。


思わず、息を呑む。


白を基調にした装甲。

だが、関節や縁には、かつて見た緑の色が残っている。

騎士のように直立し、巨人はゆっくりとこちらを向いた。


俺の、鉄騎。


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


炭鉱で、無理やり掴まれ、押し込まれ、走った記憶。

怖かった。

逃げたかった。


なのに――

今は、なぜか懐かしい。


イーリスは、窓の外の鉄騎を一瞥し、再び俺を見た。


「再塗装および最低限の調整は完了しています」

「現在、あなたの指示待ち状態です」


指示。

俺が?


「……どう、するんですか」


震える声で聞くと、イーリスは少しだけ首を傾げた。


「それを決めるのは、あなたです」


そして、はっきりと告げた。


「乗りますか」

「それとも――ここに、留まりますか」


窓の外で、白と緑の騎士が黙って立っている。


城の中の白。

守られた檻。


鉄の白。

外へ繋がる力。


俺は、まだ何者でもない。

主体性も、覚悟も、きっと足りない。


それでも――

あの鉄の巨人が、俺を見ている。


答えを、待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ