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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
学園編

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決闘準備


 女王の私室を出たあと、ハイドはしばらく城内の回廊を無言で歩いていた。

 天井の高い石造りの通路は、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。


 足音だけが、やけに大きく響く。

 一歩進むごとに、その音が自分の中に落ちていくようだった。


 呼び出される理由は、最初から分かっていた。


 分かっていたからこそ――

 心のどこかで、「他の誰かを選んでくれ」と願っていたのも事実だった。


 無意味だと分かっていても、完全には捨てきれなかった期待。


「……やっぱり、こうなるよな」


 ぽつりと呟く。


 その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

 震えも、怒りもない。ただ、静かに受け入れている響きだった。


 デューク用の新装備。

 盾と馬上槍。


 しかもそれは、量産鉄騎では一つ装備するだけで機動力を著しく削ぐような、完全な重量級装備。


 女王は軽く言った。

 ――多分、使えるだろう。


 あの言い方。


 信頼なのか、無茶振りなのか分からない、王族特有の“距離感”。

 責任を背負っているはずなのに、どこかでそれを他者に預けるような響き。


 だが、それでも――

 否定することはできなかった。


『ハイド』


 無線通信で、イーリスが呼びかけてくる。


『不安ですか』


「そりゃな。国を賭けた代表決闘だぞ?」


 軽く笑う。


「俺一人で背負うには、ちょっと重すぎる」


 言葉にした瞬間、その重さが少しだけ実感に変わる。


『ですが、断るという選択肢は提示されませんでした』


「だろうな」


 肩をすくめるように息を吐き、回廊の先へと進む。


 やがて、中庭へと出た。


 そこではすでに整備兵たちが忙しなく動き回っている。

 足場が組まれ、ケーブルが伸び、怒号と指示が飛び交う。


 その中心に、デュークが立っていた。


 変わらないはずの機体。

 だが、その周囲にある装備が、明らかに異質だった。


「……でかいな」


 思わず漏れる。


 盾は、想像以上に巨大だった。

 分厚い複合装甲。幾重にも重ねられた防御層。

 その中心には、王家の紋章が刻まれている。


 “守る”ための装備であることを、これ以上ないほど明確に主張していた。


 そして、馬上槍。


 それはもはや“槍”ではなかった。

 鉄の柱――あるいは、衝突そのものを武器にするための装置。


 内部には衝撃伝達構造が組み込まれており、突撃のエネルギーを逃さず相手に叩き込む設計になっている。


「……これ、本当に俺が使う前提で作ったのか?」


『はい。女王陛下の設計思想が反映されています』


「嫌な予感しかしねぇ」


 苦笑する。


 だが。


 デュークに触れた、その瞬間。


 違和感が消えた。


 フレームが、この装備を拒否していない。


 通常なら、重量過多で警告が鳴る。

 関節出力が制限され、動作が鈍る。


 だが、今は違う。


『出力配分を自動再構成しました』


 イーリスの声が、淡々と続く。


『槍装備時、脚部および腰部のトルクに余剰が確認されます』


「余剰?」


『本来、不要とされていた安全マージンです』


 ハイドは、わずかに目を細めた。


「……なるほどな」


 デュークは、最初から“限界を越えること”を前提に設計されている。


 だからこそ、量産機でありながら異常な耐久と柔軟性を持つ。


 削られていない余白。

 使われていなかった力。


 それを――今、解放している。


 王家の鉄騎クラウンが、相手の動きに合わせてフレームを歪ませる戦法を取るなら。


 ハイドに求められているのは、その逆。


 歪められても、折れないこと。

 押し潰されても、止まらないこと。

 そして――前に出ること。


『ヒノクニ皇帝、クニヒトの鉄騎は、おそらく近接戦闘特化です』


「あの腰の剣、隠す気なかったな」


 屋台街での記憶が蘇る。


 あの男の目。

 常に周囲を測り続ける視線。


 そして、その隣にいた武人の女。

 警戒を解かない姿勢。


 あれが“日常”なのだとしたら――

 戦場では、さらに容赦がない。


『勝率は――』


「言うな」


 ハイドは、デュークの脚部に手を置いた。


 冷たい装甲。

 だが、その奥には確かな“応答”がある。


「勝つか負けるかじゃない」


 静かに言う。


「俺は“代表”として出るんだろ」


『はい』


「なら、やることは一つだ」


 女王は言った。


 ――これは政治ではない。

 ――だが、政治より重い。


 国を賭ける、代表決闘。


 勝てば、サクスは対等以上の立場を得る。

 負ければ、国家そのものが交渉材料になる。


 その境界線に、自分が立つ。


「……笑えねぇ話だ」


『ですが』


 イーリスの声が、わずかに強くなる。


『女王陛下は、あなたなら“負けない”と判断しました』


「それが一番怖いんだよ」


 即答だった。


 信頼されることの重さ。

 期待されることの逃げ場のなさ。


 整備兵が、最終確認の合図を送る。


 盾と槍は、完全にデュークと一体化していた。


 重い。


 だが――


 振り回される感覚は、ない。


 むしろ、地面に“根を張る”ような安定感。


「イーリス」


『はい』


「もし、俺が押し切られそうになったら」


 わずかに間を置く。


『その場合、私は――』


「全力で、俺を前に出せ」


 その言葉には、迷いがなかった。


 少しの沈黙。


 そして。


『了解しました』


 いつもと同じ、落ち着いた声。


『代表機として、私は最後まで前進します』


 その言葉は、ただの補助AIのものではなかった。

 同じ“立場”に立つ存在としての応答だった。


 城の外では、決闘の準備が進んでいる。


 桜色の鉄騎が立つ大地に、もう一つの影が並ぶ。


 王家相伝の戦法。

 異国の皇帝が磨き上げた近接殺し。


 そしてその間に立つ、量産機と一人の男。


 釣り合っていないはずの構図。


 だが――それでも成立してしまう状況。


 ハイドは、コクピットに乗り込む前に、空を見上げた。


 高く、広く、どこまでも逃げ場のない空。


「……国を賭けるとか、重すぎだろ」


『ですが』


「ん?」


『それでも、あなたは逃げませんでした』


 一瞬、言葉が詰まる。


 そして、小さく笑った。


「逃げ道なんて、最初からなかったからな」


 いや。


 本当は――あったのかもしれない。


 だが、選ばなかっただけだ。


 コクピットが閉じる。


 視界が暗転し、すぐに起動光が走る。


 低く、重く、確かな駆動音。


 デュークが、目を覚ます。


 その中心で、ハイドは静かに息を吐いた。


 もう、引き返せない。


挿絵(By みてみん)


 だからこそ――前に出るしかなかった。

次回は短いので明日更新

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