表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/41

観察者


建国広場から、少し離れた高台。


広場全体を見下ろせるその場所は、かつて旧王城外郭の監視塔があった跡地だった。今は塔の大半が崩れ落ち、石柱と低い壁だけが残っている。だが地形そのものはそのまま残っており、ここからなら建国広場の全景を一望できた。


観客席の喧騒も、ここまで離れると少し鈍くなる。

人のざわめき、旗のはためく音、鉄騎の重量が地面に伝える振動。


それらすべてが、わずかに遅れて届く。


挿絵(By みてみん)


観戦席に二つの人影があった。


一人は、髪の長い男。


背中まで流れる黒髪を、一本の紐で低く束ねている。髪は整えられているが、宮廷の貴族のような華やかな手入れではない。戦場で邪魔にならぬようにまとめただけという、実用的な束ね方だった。


衣装も同じだ。


この国の様式ではない。


甲冑でもなく、貴族服でもなく――

どこか武士を思わせる、装束だった。


布と革を重ねた軽装。

袖は狭く、動きやすい。

腰には鞘が二本、静かに下がっている。


それはこの国ではあまり見ない形状の剣だった。


男は、遠眼鏡を下ろす。


真鍮でできた細長い望遠具。戦場で使われるものと同じ、飾り気のない道具だ。


「……ほう」


低く、含みのある声。


「これがサクスの王か、なかなかやる」


その言葉に、すぐ隣で控えていた女が反応する。


彼女は白磁のような肌を持ち、

戦場には似つかわしくない、優雅な装いをしている。


淡い色の長衣。

刺繍の入った細い帯。

指先まで整えられた所作。


遠目には、宮廷の侍女か貴族令嬢にしか見えない。


だが――


足運びも立ち姿も、隙がない。


重心は常に安定しており、呼吸も乱れない。どの方向から何が起きても即座に動けるような立ち方だった。


「お戯れを……」


女は、小さく眉をひそめる。


「王家相伝などと称しておりますが、

 所詮は“壊しにいかぬ戦い”。

 あれでは、真の強敵には通じませぬ」


その言葉は静かだったが、はっきりとした否定が込められていた。


男は、口元だけで笑った。


「違うな」


再び、建国の鉄騎クラウンが立つ方向を見る。


広場では、すでに決闘の決着がついている。白い鉄騎が立ち、黒鉄の機体は膝をついたまま動かない。


「“壊さない”からこそ、価値がある。

 力を持つ者ほど、自分が壊されない前提で動く」


女は、黙る。


男は続けた。


「相手の前提を利用する。

 あれは戦技ではない。

 統治者の所作だ」


しばしの沈黙。


遠くで、観客のざわめきが少し大きくなる。決闘が終わり、勝敗が広場に宣言されたのだろう。


男は、ゆっくりと遠眼鏡を下ろす。


「……あの少年も、同じ匂いがする」


女は、わずかに目を見開いた。


「ハイド、ですか」


「ああ」


男は、遠眼鏡を畳む。


「掘り出しモノの鉄騎でやるとはな。

 この国も、いよいよ面白くなってきた」


そう言って、彼は背を向けた。


「参りましょう。

 王は動いた。

 ならば――次は我らの番だ」


二人の姿は、音もなく消えた。


風が吹き、石柱の影だけがその場に残る。



一方、その頃。


学園の敷地内、

訓練ハンガー脇の通路。


夕暮れが近づき、空は橙色に染まり始めている。訓練ハンガーの巨大な屋根が長い影を地面に落とし、通路の石畳はその影の中で静かに冷えていた。


ハイドは、手すりにもたれながら、空を見上げていた。


鉄製の手すりは昼間の熱をまだ少し残している。彼は片腕をそこに預け、もう片方の手で顎を軽く支えていた。


建国広場の決闘は、記録映像として既に内部回線に流れている。

彼も、途中までだが目にした。


広場。

観客。

白い鉄騎。


そして、女王の戦い。


――強かった。


言葉にすると、それだけだ。


だが、胸の奥に残る感覚は、それだけでは済まなかった。


巨大な鉄騎が、殴り合うでもなく、派手に壊し合うでもなく、ただ静かに相手を追い詰めていく。


それは彼が知っている戦い方とは違った。


「……すごかったな」


ぽつりと、漏れる。


すぐ後ろに、気配。


「はい」


イーリスの声だった。


相変わらず、落ち着いた、丁寧な敬語。


振り返らなくても分かる。


彼女はそこに立っている。


「王家の戦法として、非常に合理的です。

 敵機を破壊せず、行動不能にする。

 政治的にも、技術的にも、最適解です」


ハイドは苦笑する。


「……そういう分析じゃなくてさ」


イーリスは、一拍置いた。


「では、どういう意味でしょうか」


ハイドは、少し考えてから言った。


「俺だったら、ああはやらないなって」


イーリスは、首を傾げる。


「ハイド様であれば、正面から制圧すると思われます」


「だろ?」


「はい」


即答だった。


ハイドは、肩をすくめる。


「女王様の戦い方ってさ……

 “勝つ”より、“削る”って感じだった」


イーリスは、視線を遠くに向ける。


訓練ハンガーの屋根の向こう。

建国広場のある方向。


「はい。

 相手の力を否定する戦法です」


ハイドは眉をひそめる。


「否定?」


「はい」


イーリスは少しだけ歩み寄り、手すりの横に立った。


「女王の戦い方は、敵機を直接破壊するものではありません」


「うん」


「まず、敵の動きを観察します」


ハイドは黙って聞く。


イーリスは続ける。


「鉄騎には、必ず動作の予兆があります。

 踏み込み、肩の傾き、関節出力の変化」


「うん」


「女王は、それを見ています」


ハイドは少し驚いた顔をする。


「見えるのか」


「神経接続操縦です」


イーリスは答える。


「女王の機体は、首筋の端子を通じて神経接続されています。

 操縦ではなく、身体として操作している状態です」


「……ああ」


ハイドはなんとなく頷く。


完全に理解しているわけではない。


だが、なんとなくは分かる。


イーリスは説明を続ける。


「敵が踏み込む瞬間。

 腕を振る瞬間。

 関節に出力が集中する瞬間」


「そこを触る」


「はい」


「破壊ではなく、負荷を流すのです」


ハイドは腕を組む。


「負荷?」


「鉄騎は頑丈ですが、設計された方向以外の力には弱いです」


「うん」


「女王は、敵の動きに逆らいません」


「……ああ」


「むしろ合わせます」


ハイドは少し考える。


イーリスは言う。


「敵が力を出す。

 その力を別方向に流す」


「すると?」


「フレームが歪みます」


ハイドは小さく口を開いた。


「うわ」


イーリスは続ける。


「壊れなくても、関節効率が落ちます。

 出力が下がり、反応が鈍くなります」


「それを何度もやる」


「はい」


ハイドは息を吐いた。


「……なるほど」


少し間が空く。


そして彼は言った。


「でも」


イーリスを見る。


「めんどくさくないか、それ」


イーリスは真顔だった。


「合理的です」


「いや」


ハイドは苦笑する。


「俺なら殴る」


「はい」


イーリスは頷く。


「ハイド様は、それで問題ありません」


「なんで?」


「出力が違うからです」


ハイドは眉を上げる。


イーリスは静かに言う。


「女王は、力を管理する存在です」


少し間を置く。


「ハイド様は、力そのものです」


ハイドは言葉を失った。


通路の向こうで、夕日が少し沈む。


空が赤くなる。


イーリスは続ける。


「女王は、敵を壊しません。

 敵の力を無意味にします」


「……うん」


「ですがハイド様は」


少しだけ視線を上げる。


「敵の中心に立ちます」


ハイドは、ゆっくりと息を吸った。


「……重い役目だな」


「はい」


イーリスは即答する。


「ですが、私はその役目を、最適に補佐します」


ハイドは少しだけ照れたように、視線を逸らした。


「……頼りにしてるよ」


「承知しております」


即答。


二人の影が、夕暮れの通路に、長く伸びていた。


そして――


この会話を、誰かが聞いていたことを、

この時のハイドは、まだ知らない。


物語は、静かに、

だが確実に、次の段階へ進み始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ