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炭鉱奴隷の俺、古代兵器「鉄騎」を発掘してしまい女王に利用される  作者: お湯0uy2
学園編

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公式処分と建前


学園の鐘が、正午を告げた。


その音は、いつもより長く響いた。


澄んだ金属音が、石造りの校舎の壁面に反射しながら広がっていく。

講義棟の高い窓、訓練場の鉄骨、寮棟の回廊、石畳の広場

学園という巨大な建築物のすべてを、音が順番に撫でていくようだった。


普段なら、その鐘はただの区切りだ。

午前の講義の終わり。

昼食の時間。

学生たちが一息つく合図。


だが今日の鐘には、違う響きがあった。


長い。

そして、重い。


それはただの合図ではなく、

「全員集合」の命令だった。


講義棟の中では、教官が黒板の前で話を止める。


「ここまでだ。続きは明日」


淡々とした声。

だが、その言い方には普段とは違う硬さがあった。


学生たちは黙って席を立つ。


誰も質問しない。


理由を、全員が知っているからだ。


教官は短く告げる。


「広場へ移動しろ」


それだけで十分だった。


廊下には、すでに人の流れができていた。


講義棟から出る者。

訓練場から戻る者。

寮棟から呼び出された者。


制服の色が混ざり合い、石畳の道を埋めていく。


ざわめきはある。


だが、声は小さい。


噂はすでに一晩かけて広がりきっていたからだ。


昨日の決闘。


いや


多くの者は、その言葉を心の中で訂正する。


あれは、決闘ではなかった。


少なくとも、制度が想定している意味での決闘ではない。


一対一。


名誉を賭けた戦い。


勝敗が決まれば終わる。


それが、この学園の決闘制度だった。


だが昨日起きたことは違う。


一対一で始まった戦いに、

七機の鉄騎が乱入した。


演習機を装って。


包囲するために。


そして


結果は、誰もが知っている。


八機が、敗北した。


その事実は、夜のうちに学園中を駆け巡った。


寮の食堂。

廊下。

浴場。

訓練場。


誰もが同じ話をしていた。


そして同時に、

同じ疑問を持っていた。


――この件は、どう処理されるのか。


広場が見えてくる。


学園の中心にある、広い石畳の空間。


普段は集合訓練や式典に使われる場所だ。


そこに、生徒たちは整列させられていく。


学年ごと。

貴族家ごと。

自然とそう並ぶ。


誰も指示していないのに、そうなる。


それがこの学園の空気だった。


ざわめきはある。


だが、完全には広がらない。


皆、同じことを考えている。


この国は、言葉を選ぶ国だ。


そして言葉が選ばれた瞬間、

現実は別の形に整えられる。


昨日の戦闘がどう呼ばれるか。


それで、すべてが決まる。


広場の中央。


そこには、即席の壇上が設けられていた。


簡素な木製の台。

その上に机と椅子。


机の上には、

王家紋章の刻まれた封蝋付き文書。


公式文書だ。


つまり

この集会は単なる学園行事ではない。


王国の意思が関わっている。


壇上には二人が立っていた。


学園長。


そして王国法務官。


王国法務府の高官。


つまり、法律の解釈を担う人物だ。


彼がここにいる意味は明白だった。


これは単なる校内問題ではない。


国家が判断する問題だ。


壇上の後ろには数名の役人。


筆記係。

記録官。


だが


近衛騎士の姿はない。


王家の武装は、ここには出ていない。


それは偶然ではない。


明確な意思表示だった。


この場は軍事ではない。


司法でもない。


「教育問題」である。


そしてもう一つ。


誰もが気づいていることがある。


女王シャルロットの姿がない。


王が現れない場では、

すべては「地方行政の問題」になる。


王は責任を負わない。


王は判断しない。


政治は舞台の裏に隠れる。


それが、この国のやり方だった。


学園長が、咳払いを一つする。


それだけで、広場のざわめきが止まった。


何百人もの学生がいるのに、

音が消える。


それが、この学園の規律だった。


「諸君」


低く、よく通る声。


「本日の集会は、先日の決闘演習に関する公式見解、ならびに関係者への処分を通達するためのものである」


言葉は慎重だった。


だが、すでに重要な表現が含まれている。


決闘演習。


戦闘ではない。

事件でもない。


演習。


この時点で、枠組みが決められている。


生徒たちの視線が、一箇所に集まる。


ルートヴィヒ。


整列の列の中に立っている。


背筋は伸びている。


姿勢は崩れていない。


だが――


肩が、わずかに固い。


唇は強く結ばれている。


彼は理解している。


自分が何をしたのか。


そしてそれが、どれほどの問題なのか。


学園長は続ける。


「まず、今回の決闘演習は」


言葉を慎重に選びながら。


「事前に提出された決闘申請に基づき、正式な学園規定の範囲内で開始された」


ここで一度、言葉が止まる。


わずかな沈黙。


意図的な間。


そして


「しかし」


その一語が、空気を変えた。


「演習中、規定を逸脱した機体の乱入が確認された」


広場が静まり返る。


誰もが知っている。


だが、それが公式の言葉として告げられた瞬間、

出来事は「事実」になる。


「これは、学園規則の明確な違反である」


書類がめくられる。


「当該行為には、ルートヴィヒ・フォン・ヴァルデック、および複数の協力者が関与していたと認定された」


わずかなざわめき。


だが、それはすぐに消える。


まだ核心ではない。


ここで王国法務官が前に出る。


広場の空気が変わる。


ここから先は、

国家の言葉になる。


「本件について、王国法務府は検討を行った」


落ち着いた声。


「まず確認しておくべき点がある」


視線が広場を見渡す。


「今回の行為は、貴族間の私闘を逸脱している」


静寂。


「もしこれが王国法廷で扱われるならば」


言葉がゆっくり落ちる。


「本来の処分は、極めて重い」


背筋が伸びる。


「貴族としての責務を著しく損なった行為として」


そして。


「家督継承権の停止、または剥奪」


空気が凍る。


それはただの罰ではない。


家からの追放。


政治的な死。


貴族の子である彼らは、それを理解している。


視線がルートヴィヒへ集まる。


彼は動かない。


だが、指先が震えていた。



そして。


法務官は続ける。


「しかし」


またしても、その言葉。


「本件は学園内で発生した教育上の問題であり」


「死者も出ていない」


「国家反逆の意図も確認されていない」


短い間。


そして宣告。


「よって、王国は本件を刑事事件として扱わない」


ざわめき。


だがまだ終わらない。


「また」


「関係者の身分、および今後の教育機会を考慮し」


「家督継承権に関する処分も行わない」


空気が揺れる。


つまり


最も重い罰が完全に消えた。



学園長が言葉を引き取る。


「よって」


「ルートヴィヒ・フォン・ヴァルター、および協力者数名には」


「厳重注意を与える」


広場の空気が揺れた。


軽い。


あまりにも軽い。


だが


誰も理由を理解していないわけではない。


———


この学園には、

もう一つの顔がある。


誰も口にしない。


だが、誰もが知っている。


この学園は


王国貴族の長子を集めた場所だ。


つまり、次代の当主。


そしてそれは同時に、


現当主たちに対する王権の保証でもある。


言い換えれば。


人質。


王国の中枢貴族の後継者たちは、

全員ここにいる。


王城から半日の距離。


王都の監視圏内。


もしこの学園から退学者を出せばどうなるか。


その家は、後継者を失う。


つまり。


王家と敵対する理由が生まれる。


だから


退学処分は存在しない。


制度が壊れるからだ。


——


次に、名前が呼ばれる。


「ハイド」


視線が集まる。


彼はゆっくり前に出る。


落ち着かない様子。


この空気に慣れていない。


「貴殿は決闘において卓越した操縦を示した」


学園長の声は変わらない。


「しかし結果として、複数の機体を無力化した」


事実。


誰も否定できない。


「よって」


短い間。


「口頭での注意とする」


ざわめき。


勝者も処分なし。


つまり———


この事件は


政治的に存在しないことになった。



鐘が再び鳴る。


集会は終わる。


だが。


終わったのは、表の話だけだった。




その日の夕方。


王城。


女王シャルロットは報告書を受け取っていた。


静かにページをめくる。


そして、微笑んだ。


「見事な建前ね」


「誰も罰せられず」


「誰も勝者にならない」


側近が言う。


「反発はありますが、暴発は防げます」


女王は頷く。


「それでいい」


視線は遠い。


ハイドという存在は、

もう隠せない。


そして


抑え込むこともできない。


ならば。


制度の中に置く。


学園という檻の中に。


王権の監視の下に。


女王は書類を閉じた。


嵐は去った。


少なくとも


表向きは。


だが彼女は知っている。


本当の問題は、


まだ始まったばかりだと。


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