4.ヤンキーさんとは話が合いました
「お取り込み中失礼致します。少々お話よろしいでしょうか?」
なんだかこのまま放置していても長くなりそうな気がしたので、私はいっそ声をかけることにしました。
「あん?………なんだお前、お前も食料が欲しいのか?」
「はい。実は、あそこにいる子の家の食べ物が尽きてしまったそうで。少しで良いので分けて頂けないでしょうか?」
「………………はあ。ちょっと待ってろ」
そう言うと彼は、奥にいた別の少年に声をかけました。
すると彼は、中サイズのレジ袋に結構な数のパンやお惣菜を詰めて、渡してくれました。
「ほらよ。………悪いが、ここから先は有料だ。欲しいってのなら出すもんだしな。勿論金じゃねえ。俺達が欲しいのは、情報だ」
「だから、なんでそうなるんだよ!?」
「そんなこと、どうでも良いでしょう!?家や避難所で耐えていれば、いつかは国が何とかしてくれるんだから、ここは助け合って………」
ああ、やはりこういうことでしたか。
おかしいと思いました。この二人の男女………これだけの量の食べ物を貰ったにも関わらず、一切離れようとしない。恐らくですが、情報が欲しいと言う彼らならば、そんなものは必要ないと説得をして、上手く丸め込めるのではないかと考え、あわよくばこのコンビニの食品を好きなだけ持って行こうという魂胆なのでしょう。
「欲しい情報というのは、あのモンスター達のものですよね?」
「ああ。その情報が有益なら、追加で食料をやるよ。悪くない取引だと思わねーか?」
「そうですね。………私はまだ、外に出てからあまり経っていないので、有益かどうかは分かりませんが………あの、ゴブリンのような見た目をしているモンスターを見ましたか?」
「ああ、その辺に腐るほどいるぜ」
「そのモンスターですが、戦闘能力は非常に低く、更に体もとても脆いです。成人男性の十分の一以下と考えて良いと思います。そこらの大人であれば、楽に倒せるはずです」
「………ほう?試したのか?」
「はい、こう見えて武術の心得が多少ありますので」
目の前でいくつかの型を見せると、彼は目を細めました。感心してくれたのだと思っておきます。
「なるほどな。その情報はそこそこ有益だ………おい、倉庫にあったおにぎり、十個くらい持ってこい」
そして私は、おにぎりを手に入れることに成功しました。
「ま、待て!なんでそんな情報が必要なんだよ!?こういう緊急の時以外は外に出ずにじっと耐えていれば………」
「そうよ、そんなくだらない情報で………」
「………この方々、ずっとこの調子なのですか?」
「ああ、もう一時間くらいこれだ。他の連中は諦めて帰ったってのに、勘弁して欲しいぜ」
それはお気の毒に。
言い方はもう少し改善すべきですし、やっている事も正直、倫理的観点から見れば褒められたものではありませんが、彼の言っていることは概ね正しいと私は思います。
「失礼ですが………あなた方は、この状況がこのままなんとかなると。黙ってやり過ごしていれば、いつか誰かが何とかしてくれると、そう思っているのですか?」
「ああ、そうさ。だってそうだろ?日本には自衛隊とかがいるんだ、こんな状況だって………」
「では、銃や爆弾が効かないような怪物がいたら?巨人がいて、あなた方の家を踏み潰したら?恐ろしい兵器で、この辺りが焦土にでもされたら?」
「そ、そんなことあるわけ………」
「ないとは言いきれませんよね?何しろ、今現在、これほどに非現実的なことが起きているのですから。これ以上は無いと思っていたのならば、それはただの希望的観測です。もし仮に、このまま国の対応が無かった場合………つまり、政府そのものが崩壊していたらどうしますか?救助など永遠に来ませんよ」
「ふ、ふざけないでよ!それもただの憶測じゃない!」
「ええ、憶測です。ですがこのような状況、物事は常に最悪を想定して行動するべきと考えます。ならば情報収集は必須です。情報さえあれば、ある程度の危機であれば予測や突破が可能なのですから。先ほど、あなた方がくだらないと言った私の話もそうです。あの情報を知るものならば、少なくとも少数のゴブリンに関しては、恐れる必要が無くなります。多少なりとも、生存確率が上がるわけです」
私がそう言うと、彼らは一瞬たじろぎました。………が、まだ引くつもりは無いようです。
恐らく、私に対しての反論を考えているのでしょう。
対して、コンビニを占拠したお兄さんは、私の言葉にうんうんと頷いています。
「お前、よく分かってるじゃねーか。俺もそう思うぜ」
「食料を対価に、安全な情報収集をする、あなたの作戦はなかなかに見事だと思います。コンビニを占拠したり、無断で商品を渡したりなどは感心出来ませんが、この状況ではそうも言ってられませんしね。それに占拠に関しても、このコンビニを巡って人間同士で争いあったりするよりはよっぽど良い。あなた方は見た目がヤンキースタイルなので、暴力に訴えてここの食べ物を奪おうと考える人も少ないでしょうし」
「おいおい、そんなに褒めんなよ。………お前とは良い関係を築けそうだな。また何か情報があったら頼むぜ」
「ええ、こちらこそ。では、お互い生きていれば、またお会いしましょう」
※※※
そして私は、足早に彼らの元を立ち去りました。
勿論、近くにいた島村さんも連れてです。
「えっと………千影さん、良かったの?あの人達、ほっといて………」
あの人達と言うのは、コンビニの前で騒いでいた男女のことですね。
確かに傍から見れば、彼らは哀れな被害者に見えたことでしょう。
なので私は、彼らとの会話について、簡単に説明しました。
「なるほどね、そういう事だったんだ………正しいのはコンビニのお兄さん達だったんだね」
「いえ、彼らも別に正しくはありませんよ?言っていることは正論ですが、自分の欲望の為にコンビニを占拠したわけですから、自己中心的とも言えます」
「えっ?」
「そもそも、彼らが本物の善人ならば、あのコンビニの食品を、避難所………恐らく、学校などがそうなってるのでしょうね。そういった所に運んでいるはずです。そうしないのは、自分達が生き残るために私達を利用する為です。その袋の中、見てください」
「えっと………パンとおにぎり、それにお惣菜………」
「全て、消費期限が近いものですよね」
「あっ」
「保存が出来ないので、私達は、数日後には再び食べ物を失うわけです。そうなると、再び食べ物を得る為に、何かモンスターの情報を、危険を冒して入手しなければなりません」
「で、でも………そうなると、みんな他のコンビニとかに行っちゃうんじゃない?」
「ええ。しかし、すぐに尽きるでしょう?そうでなくとも、誰かが独占するかもしれません。するとどの道、情報さえ手に入れれば、ある程度の供給を行ってくれているあの場を利用するしかなくなるのです。長期的には、危険を侵さずに多くの情報を得ることが出来るのですよ。やはりあのリーダー格の方、見た目や言葉遣いは粗暴でしたが、かなり頭が回りますね。………少なくとも、現実が見えていなかった、あの二人組よりは」
「私もまだ、これが現実って感じがしないんだけどね………」
「いえ、それが正解です。こんな非日常に放り込まれて、取り乱さない方が少数派だと思います」
「その少数派は、千影さんも含まれてると思うけどね………」
まあ………実家が少々、普通ではありませんでしたからね。




