保育園編その2
タカ兄と再開して早1年。
同じ年と言う事に違和感を感じたのも最初だけで、今では他の子達と一緒に同レベルで遊んでいる。
うん、体に引っ張られるのもあるのだけど、どうやら環境にも引っ張られるようで、泣いて笑ってと楽しく日々を過ごして……偶にタカ兄とはっとなって苦笑いを一緒に浮かべていたり。
いや、楽しいから良いのだ。
色々詳しい話をと思ったのだけど、それについては時期が来たらにしましょう。お互いに集中出来ないでしょ? なんて言われて僕も納得。
お互いに前世の兄弟だって気付いていれば、今の時点では何の問題もないのだしね。
ただ、タカ兄曰く伝えておいた方が良いだろうから言っておくけど、この世界ってあるゲームの世界なのなんて言われて……うん、全く理解できなかった。
だってさ、現実世界だと認識しているのに、ゲームの世界とか言われてもねー。
何やら乙女ゲーの世界とか言われたけど……乙女ゲーってなんだっけ? ってレベルだったし。
いや、この世界にもゲームはあるのだけど、僕が好んでいるのは前世と同じで所謂RPGと呼ばれるやつで、その手のゲームならばすぐに状況も理解出来るのだけど。
まぁ、大雑把に言えばギャルゲーの女の子がやるバージョンとの事なので、前世と同じような文明が整っている事にも納得。
ファンタジー物も勿論あるだろうけど、現代物だって多かった筈だからね。
タカ兄は何のゲームか心当たりがあるようで、タイトルを教えてくれたりしたのだけど……結局僕は何か思い出せなかった。
押さえつけて私がプレイしているの隣で見せてたのだけどなーって言われて、少しだけ頭痛がしたけど、別にそれだけだったし。
……物凄い嫌な予感がしたから考えないようにしたとも言うけど。
そんなこんな楽しく過ごしていたら、ふとある日親父に、真宮寺家主催のパーティーあるけど来るか? なんて聞かれる。
なんでそんな事聞いてきたのか聞き返せば、お父さんと呼ぶお前なら向こうさんが頼む以外では連れて行くつもりはなかったのだが、俺を親父と呼ぶお前なら話は変わるさ。だって、お前俺みたいになりたいんだろう? なんてニヤニヤしながら言われて……くそー、なんだよー。僕が親父の事色々尊敬しているのバレてるのか?
不貞腐れて見せれば、大笑いをされてしまうし。
まぁ、それを見ていたお母さんに怒られてていい気味だったけど。
うん、ぶっちゃけ親父には色々尊敬する部分と呆れる部分とがあって、地域の為にと尽力している姿が僕にはどんなヒーローよりも格好良く見えて、そんな親父のようになりたいと強く思うようにいつの間にかになっていた。
ただ、その理由の1つであり最大の理由の母さんにいい格好を見せたいって奴には、流石に少し呆れたのだけど。
お前も俺の一族の血が流れているから、覚悟はしておいた方が良いぞって言われちゃったけど、其の辺はどうなのかなー。
ってか、4歳児にする話ではないよね。
そもそも、個人差でだいぶ変わるだろうに、一族の血とか言われても。
そんな訳でパーティーに出席!
僕は前回出会った女の子と再開出来るのではないかと、物凄く期待してそわそわしてしまっている。
親父が不思議そうにしていて、お母さんが色々説明してたけど……将来のお嫁さんと会いたいのよねって断言はいかがなものなのだろう?
僕としては既に色々吹っ切れて、とにかくもっと色々知りたいし知ってもらおう、もっともっと仲良くなろうと思っているのだけど。
お母さんの説明を聞いた親父は、ニヤニヤと意味深に僕を眺めてくるし。
そんなこんな、両親に微笑ましく見守られる僕は、非常に居心地の悪い思いをしながらも会場に着けば舞い上がってしまうのを自覚する。
しょうがないよね、だって気になる女の子と久しぶりに会えるかもしんないんだし。
と、ここでタカ兄に真宮寺家主催のパーティーに出る事になった旨を伝えたら、会長とライバルキャラと出会うかもだから気をつけてねなんて言われてしまった。
不思議に思えば、色々説明してくれたのだけど……会長ってのが真宮寺家の3男坊なのは分かったのだけど、ライバルキャラはその幼馴染だって言われても幼馴染なんて多い筈だし、分かんないような。
しかも、他の情報はツリ目で美人なのだけど凄く性格悪くて女王様みたいな子とか言われても……心辺りはないかなー。
一瞬僕が気になる子を思い出したけど、あの子ツリ目の美人さんではあるけど愛らしいし心根優しいしで、全然当てはまらないからなー。
そんな風に考えつつ会場を見渡していれば――見つけた。
早速僕は目的の女の子と話す為に近づいていく。
「こんばんは! お姉ちゃん」
途中で向こうも気が付いて、僕に愛らしく微笑んでくれる。
凄く嬉しくてドキドキして……思わず掛けた声が震えていないか心配してしまう。
「こんばんは。えっと……前回は結局お名前聞けなかったよね」
そうなのだ、この子が泣いているのを何とかしようとするので頭が一杯だった為、最後まで名前を聞きそびれてしまうし。
すぐ再開できるとか根拠のない事を思ってしまっていた所為で、後日会えない事に気付いて落ち込んだりもしたんだっけか。
何はともあれ鼻息荒く僕は口を開く。
「僕、田中 雄星って言うんだ。
宜しくねお姉ちゃん」
興奮を隠せなくて、でも、それに気付いたのは全部口から言い終えた後。
あうぅ、がっつくのって嫌われるって前世で学んだのに全く活かせてないなぁ。
ところが、女の子は嬉しそうに微笑んでくれた。
「雄星君だね。
私は南 愛実だよ」
「愛実お姉ちゃん!」
名前を呼んでくれた事が嬉しくて、咄嗟にそう口にしてしまう。
それを嬉しそうに照れてくれる愛実お姉ちゃんが可愛すぎて……ああ、僕この子の事が好きなんだなって、ようやく自覚する。
いや、気になるだなんて思っていただけで、ずっと好きだったのかも。
ええい、タカ兄にロリコンと馬鹿にされようとも構うものか。
僕はこの子をずっと愛して行くのだ!
「あらあら、良かったわね、愛ちゃん」
と、おっとりとした声が降って来て、そこで愛美ちゃんのお母さんがすぐ近くに居た事に気がつく。
いや、当たり前すぎるのに、なんで全然気付いてなかったよ僕!
慌てて頭を下げる事に。
「愛実ちゃんのお母さん、お久しぶりです」
緊張から勢いよく頭を下げすぎて、フラフラっとよろけてしまう僕。
あう、恥ずかしい。
お母さんにはクスクス笑われてしまうし、愛美ちゃんには大丈夫? って心配されちゃうし。
手を繋げて嬉しかったけど。
「あの、愛美ちゃん貰って良いですか?」
あ、間違えた、借りて良いですか? って言いたかったのに。
どれだけ自分がテンパっているか驚愕しながらも、出した言葉は飲み込めないので堂々とした風を取り繕って愛美ちゃんのお母さんを見つめる。
愛美ちゃんが息を飲んだのには気付いたけど……そっちは怖くて向けないよぉ。
愛美ちゃんのお母さんは目を見開いた後、嬉しそうに目を細めて再びクスクスと笑う。
……僕笑われてばっかりだなぁ。
「ふふふ、愛ちゃん良かったわね。
不束な娘ですが、どうか宜しくね雄君」
よし! 言質取った!
とか思わず思ったのだけど、単に子供の言う事に空気を読んで合わせてくれただけだろう。
くくくっ、だがしかし、それだけでは問屋は下ろさないのだよ。
愛美ちゃんのお母さん! 愛美ちゃんは本当にお嫁さんに貰うからね!
いや、僕が本当に攻略するべきはお父さんの方だろうけど……これはおいおいで良いや。
まだ子供なんだし、実際今すぐにでも結婚したいけど、出来る訳もないのだからね。
はい! っと元気よく返事をして、行こうと声を掛けようとして愛美ちゃんの方を向けば……わぁ、真っ赤になって上目遣いにこちらを見てる!
ナニコレ、超嬉しいけど、それ以上に恥ずかしい!
「えっと、愛ちゃん! 何か食べ物取りに行こう!」
誤魔化す為にそう口にして引っ張る。
うぁー、でもこの恥ずかしさは乗り越えないとな。
うん、頑張るぞ!
結構強引に引っ張ってしまったのだけど、何も言わず、寧ろ嬉しそうに付いて来てくれる愛美ちゃんに、僕の胸の鼓動は益々高まっていくのだった。