卓につく
数日後。
カイはまた賭約院にいた。
今回は観戦席ではない。
受付で参加条件を確認し、公開卓の一つへ向かう。
向かいには、すでにリグが座っていた。
「本当にやるんだな」
「見てるだけじゃ分からないこともあるから」
「負けた時に言い訳するなよ」
「前もしてないでしょ」
カイも椅子へ座った。
卓の中央には、数字の書かれた札が二組置かれている。
一。
二。
三。
四。
二人とも同じ四枚を使う。
立会執行官が確認する。
「今回の勝負は四札。双方、同じ数字札を一枚ずつ所持します。各ラウンド、一枚を伏せて同時に提出。数字の大きい方が一点。使用済みの札は再使用できません。全四ラウンド終了時、得点の高い方が勝者です」
カイは四枚の札を見る。
運で配られるものはない。
相手が何を持っているかも最初から分かっている。
違うのは、いつどの札を出すかだけ。
「これなら観察しやすい?」
リグが聞く。
「逆かも」
「なんで?」
「分かってる情報が多い分、変な理由を足したら余計に間違えそう」
リグが笑った。
第一ラウンド。
カイは四枚を見た。
リグを見る。
いつもと変わらない。
少なくとも、そう見える。
以前なら指。
視線。
呼吸。
札を触る時間。
何か一つ意味を探したかもしれない。
今日は探さない。
見えたものだけ見る。
リグは四の札に一度触れた。
それから手を離した。
事実はそれだけ。
カイは二を伏せた。
同時に開く。
カイ、二。
リグ、一。
カイが一点。
「俺が四に触ったの見てたろ」
「見た」
「だから二?」
「違う」
「じゃあ何で?」
「最初だから」
リグが少しだけ眉を上げる。
「それ理由になってるか?」
「俺の中では」
第二ラウンド。
残りは、カイが一、三、四。
リグが二、三、四。
ここからは、使った札そのものが情報になる。
リグが三枚を並べ直した。
四を右。
三を中央。
二を左。
カイはそれを見る。
並べ直した。
それは事実。
右に置いた四を出しやすくした。
それは推測。
カイは一を選んだ。
開く。
カイ、一。
リグ、四。
リグが一点。
「捨てた?」
「うん」
「俺が四を出すと思った?」
「それも考えた」
「それも?」
「一はどこかで使わないと残るから」
一勝一敗。
第三ラウンド。
カイの残りは三と四。
リグの残りは二と三。
ここでは状況がかなり違う。
カイはどちらを出しても、リグの二には勝てる。
だが三同士なら引き分けになる。
リグもそれは分かっている。
カイが札に手を伸ばす。
途中で止めた。
自分の動きに気づいた。
リグがこちらを見ている。
カイは少し笑う。
「今、見た?」
「見た」
「何だと思った?」
「さあな」
カイは札を伏せる。
リグも伏せる。
開く。
カイ、三。
リグ、三。
引き分け。
リグが笑った。
「止まったから四かと思った」
「違ったね」
「わざと?」
「違う。本当に迷った」
カイはそこで気づく。
本当に迷った動きでも、
相手から見れば意味のある情報になる。
嘘をつかなくても、誤解は起きる。
第四ラウンド。
残っている札は決まっている。
カイ、四。
リグ、二。
もう選択はない。
開く前から結果は分かっている。
カイが一点を取る。
最終得点。
カイ、二点。
リグ、一点。
引き分け一回。
カイの勝ちだった。
「勝ったな」
リグが言う。
「うん」
「嬉しくなさそうだな」
「嬉しいよ」
カイは使い終わった札を見る。
「でも、第三ラウンドの方が気になる」
「俺が間違えて読んだやつ?」
「うん」
リグは椅子へもたれる。
「勝ったんだからいいだろ」
「勝ったことと、読めたことは別だから」
前にも似たことを考えた。
今度は少し違う。
自分が見たもの。
自分が考えたこと。
別の人が見たもの。
そして。
自分の動きが、相手にはどう見えたのか。
カイは卓の上に残った四枚の札を見ながら考える。
見る側だけではなかった。
卓につけば、
自分もまた見られる側になる。
それは観戦席にいた時には分からなかった。
リグが立ち上がる。
「また紙の欄が増えるんじゃないか?」
「たぶん」
「今度は何?」
「まだ名前決めてない」
「そこはすぐ決めないんだな」
「分からないから」
リグが笑った。
カイも席を立つ。
観察するために卓についた。
けれど持ち帰ったのは、
相手を見る方法だけではなかった。
【今回の賭博ルール】
今回は「四札」という二人用の勝負です。
二人とも最初に、
一
二
三
四
の四枚を一枚ずつ持ちます。
配られる札に差はなく、
相手がどの数字を持っているかも最初から分かっています。
各ラウンドでは、
まだ使っていない札から一枚を選び、伏せて同時に出します。
数字が大きい方が一点。
同じ数字なら、そのラウンドはどちらも得点なしです。
一度使った札はもう使えません。
四ラウンド終わった時点で、
合計点が高い方が勝ちです。
同点なら引き分けになります。
今回は隠された札の中身を読むゲームではありません。
お互いに残っている札が分かっているので、
分からないのは「相手が今どれを選ぶか」だけです。
そのぶん、視線や手の動き、迷う時間などが気になりやすくなります。
ただし今回の第三ラウンドのように、
本当に迷っただけの動きを相手が別の意味に受け取ることもあります。
カイはここで初めて、
自分が相手を見るだけではなく、
自分自身も相手から観察されていることを実戦の中で確認しています。




