表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽り咲く花神さまの後宮  作者: 淡雪みさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

栗萌との別れ



 ◇



 数日後。

 栗萌には流刑の判が下された。もう二度と、彼女がこの香霞の地に戻ることはできない。

 通常であれば死罪となるはずだった。けれど澄珠が必死にやめてほしいと願い出て、千夜がそれを受け入れてくれた結果だった。

 大勢の神官に囲まれ、罪人として鎖で拘束されながら、後宮の大門を抜けようとする栗萌の背に、澄珠は咄嗟に声を投げた。


「栗萌様!」


 その名を呼ばれた栗萌が、驚いたように顔を上げる。

 すぐさま傍らの神官が眉をひそめて注意してきた。


「澄珠様、罪人と言葉を交わすのはおやめください」


 しかし、澄珠は構わずに続けた。

 この地を離れる栗萌とは、もう今後の人生で会うことはないだろう。その彼女に、これだけは伝えたいと思った。


「いつか、物語を書いてください」


 栗萌の目が、大きく見開かれる。


「この列島国家全土に広がるくらい、この香霞の地にまで広がるくらい、素晴らしい物語を。いつかそこで、再会しましょう」


 栗萌は唖然とした顔で立ち止まったまま、しばらくの間黙っていた。

 そして、ゆるりと口元に弧を描き、呆れ笑いのように笑った。


「……お人好しなお姫様。きっとあなたみたいな人が、物語の主人公になれるのでしょうね」


 そう言い残し、栗萌は再び歩き出した。

 大門の外へと消えていく背に、花の都を渡る風が吹き抜ける。まるで彼女の更生と、新しい旅立ちを見送るかのように。

 澄珠がその背中を見送っていると、隣の千夜が大きく息を吐いた。


「……本当に流刑だけでよかったの? 俺はまだ、彼女のことを許せそうにないけれど」

「私も……完全に許したわけではありませんよ」


 あの後、栗萌の背負った悲しい過去を、千夜から聞かされた。

 厳しい家柄に生まれたがゆえに歪められた心。彼女がああなったのは、彼女自身が生き方を選べなかったことも要因にあるだろう。

 お茶を出し、楽しげに自分の好きな小説を薦めてくれた彼女の全てが悪だとは、澄珠にはどうしても思えなかった。


「でも、栗萌様の言うことは、一部正論だったと思うのです。私が千夜様の隣に立っているのは、たまたま幼い頃から一緒にいただけというのも、そうだと思います」


 自嘲気味にそう零すと、千夜は一瞬、黙り込んだ。

 澄珠は不思議に思って顔を上げる。


「……どうなさったのですか?」

「いや……俺は、もっと前から澄珠を知ってた」

「え?」


 千夜は少し恥ずかしそうに笑った。


「澄珠が後宮入りできたのは、術の発現が早かったからというだけじゃない。俺が神官に命じて君を後宮に呼び寄せたんだ。権力を悪用してね」


 意味を問う前に、千夜が穏やかに続ける。


「大丈夫。俺は君が思っているよりも、君のことが好きだよ」


 どういうことですか、と聞こうとしたが、その間もなく千夜が歩き出す。

 歩き出す千夜の足元には、淡い花々が次々と咲き誇っていく。神格が戻ったばかりで、まだ力を抑えきれていないのだろう。

 出会った頃のようだ、と澄珠は思った。


 白、桃、紅、紫……花弁の色彩が溶け合い、後宮の地を彩る。

 風が吹けば、無数の花びらが宙を舞う。


 花の後宮。そんな言葉が頭に浮かんだ。

 澄珠はその美しい花吹雪に包まれながら、まるで千夜に抱き締められているような感覚に陥った。




 千夜の背を追う。

 伸ばした手は、今度こそ千夜に届いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ