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上州義理人情伝「アン ころ もち」  作者: 苺鈴


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第44話 アンズの夢

 サクマは、お昼ごはんにうどん(あったかいやつ)を作ってくれた。


「ごちそうさまでした♡ サクマ、僕より料理上手だね!」


 サクマが作ってくれたうどんは、お出汁が効いていて美味しくって、麺の硬さ(茹で具合?)も丁度良くって、僕はあっという間に完食した。


 お腹がいっぱいになると、僕は少し眠たくなってしまって、さっきまで座っていた座布団を枕替わりにして座敷の畳の上にごろんと寝転んだ。


「望月は、不器用だもんな~。それなのに、お前が美容師志望って聞いた時はびっくりしたよー。」


 サクマも僕に倣って、僕の隣に寝ころびながら言った。


 えぇっ!?


 僕が美容師志望!?

 

「えっ!?僕が美容師って、どういうこと!?」  


「どういうことって…!お前が自分で言ってたじゃん!ほら、学校で進路希望調査の時にお前が希望の職業に美容師って、書いてクラス中大騒ぎになっただろ?

 うちの学校は、大学進学率ほぼ100%の超スーパーエリート進学校でよ、まして学年でも成績上位者(ちなみに俺は首席)のお前の進路が美容師って…」


「えぇ…?僕、別に美容師なんか目指してないんだけど…?」


「いやいや!お前、カリスマ美容師のお袋さんに憧れて、そっちの道を目指すって自分で言ってただろ?あっ…!もしかして、これも…あの事故の記憶障害のせいか…?」


 たしかに、ばあちゃんから聞いた話では僕の亡くなった母親は美容師だったらしい。


「そうかもね…。僕、両親のこと…全く覚えてないから………」


 まさか、両親に関することなら、自分の将来の夢まで忘れちゃったなんて……


「ごめん…!!俺が変なこと言ったせいで…!!」


「サクマは、悪くないよー。でも、そんなことくらいで忘れちゃう夢だったんなら、僕も本気で目指してたわけじゃないのかも……。」


「いや!そんなことないよ!望月、進路のこと、すっげぇ悩んでたんだぜ?幼稚園から学費の高い私立の進学校に、通わせてもらってるのに、大学進学しないなんて親に申し訳ないって…お前、何度も俺に相談してきただろ?」


「でも……今の僕は、本当に覚えてないんだ……。」

  

 サクマのことだって…


 あの事故の直後は、家族ぐるみで付き合いがあった、サクマのことだって僕は完全に忘れてしまっていた。


 それでも、サクマのことを思い出せたのは…


 サクマが入院していた僕のところに、ほぼ毎日お見舞いに来てくれてたからだ。


 最初は、いくら友達だからって、毎日やって来るなんて…うっとおしい変な奴だと思っていたけど…


「望月…。」 


「まぁ、僕の夢のことは、ともかく……。サクマのことは、ちゃんと思い出せて良かったよ。サクマ、僕があの事故で病院に入院して面会の許可がおりると、一番最初に来てくれたんだよね?

 僕、サクマのこと、何にも覚えてなかったのに……。サクマは、ほぼ毎日、僕に会いに来てくれて、自分のこととか、幼稚園から僕との今までの付き合いのこととか、ベラベラベラベラしゃべりまくるから……少しづつだけど、サクマのこと思い出せたんだよね。」


 僕は、無意識に隣に寝ころんでいるサクマの黒い頭の毛に手を伸ばした。


 指で触れたサクマの黒い髪は、癖のないしなやかな直毛だ。


「望月…!?」


「えへへ。僕、人の髪触るの好きなんだよね。サクマの髪は、癖毛の僕と違って、しっかりとした直毛で羨ましいよー。」


 アンリの眩いばかりに輝くプラチナブロンドの美しい長い髪は、艶があって、柔らかくて、いつまでも触れていたいくらい触り心地が良くって…


 小さい頃は、アンリとよく美容師さんごっこをして――アンリがお客さんで僕が美容師さんで、僕はアンリの柔らかい綺麗な髪をブラシでとかして、不器用な手つきで悪戦苦闘しながら、なんとか結わえたガタガタの三つ編みにリボンを結んであげた。


 ごっこ遊びとはいえ、あまりも悲惨な仕上がりだったんだけど…アンリは、いつも僕を褒めてくれた。


『アンズすご~い♡!こんなザンシン(斬新)なデザインの三つ編みにしてもらったのアンリ初めてだよ~♡!こんな素敵なヘアスタイル、ママもステラにもできないもんっ!』


 アンリは、大喜びで僕の不格好な三つ編み頭を振りながら、満面の笑みを浮かべて言った。


 そうだった…!!

 

 僕は、大好きなアンリの髪を本当に綺麗なヘアスタイルにセットできるようになって―――アンリをもっと喜ばせてあげたくて、美容師になろうと思ったんだ!!


「サクマ…!僕、思い出したよ!サクマ?」


 僕が大切なことを思い出している間に、サクマは眠ってしまっていた。 


「ふわぁあ……。僕も眠くなってきちゃった……。」


 僕は、昼寝用の薄手のブランケットを持って来ると、サクマのすぐ隣に寝ころんで二人の身体の上にブランケットを掛けた。


 縁側からカーテン越しに温かい陽の光が降りそそぐ午後。


 お昼寝にぴったりの時間だ。


 ちょっぴり肌寒くって、僕は眠っているサクマの身体に身を寄せて眠った。



 どこか――近いような、遠いような場所からガラガラと戸を開けるような音が聞えたような……?


 そういえば…玄関の鍵しめたっけ……?



 まぁ、いいや……



 僕は眠気に勝てず、そのまま深い眠りに落ちていった……


 

 





 



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