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上州義理人情伝「アン ころ もち」  作者: 苺鈴


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第41話 湯の花まんじゅう

「とは言え、ボクも病気のことでママのこと泣かせてばっかりだから、パパのこと言えないんだどね……。」


 アンリは、僕を抱き締めたまま、悲しそうに言った。


「アンリ…。」


「アンズ!今夜はうちに泊まっていきなよ?ボク、もっとアンズといろいろお話したいなぁ~♪夜ご飯も一緒に食べたいし、お風呂も一緒に入ろうね♡?」


「ごめん、今日はダメなんだ。ばあちゃんが旅行から帰って来るから…って!そういえば、今なん時!?僕、ばあちゃんを迎えに行かなくちゃなんだ!!もう、帰らないと!!」


 たしか、午後6時に地域の集会所の駐車場にばあちゃんが乗ってる観光バスが来るんだ!


「そっかぁ…。それなら、仕方ないねぇ…。」


 アンリは、名残惜しそうに僕を腕の中から離してくれた。


「ごめん、アンリ…。」


 僕だって、もっとアンリと一緒にいたい…。


「アンズ!また明日、学校で会おうね♡」


 アンリは、元気な声で言うと、僕の唇に優しくキスをした。


 僕は、いつの間にかアンリにキスされることに抵抗がなくなってしまっていた。


 アンリは僕よりも背が高くて、男らしい体格をしてるけど…中身は、僕の初恋のアンリのままなんだ。


 身体が大きくなっても、僕に素直に甘えてくれるアンリが可愛くて…


 アンリが愛おしいって、気持ちで胸がいっぱいになる。


「玄関まで見送りたいんだけど、ボクまだちょっと起き上がれないや……。」


 アンリは、ベッドに横になったまますまなそうに言った。


「いいよ、いいよ!無理しないで。」


 僕は、アンリの身体に布団を掛け直してあげてから、部屋を出た。





☆☆☆

☆☆☆☆

☆☆☆☆☆




 僕がアンリの部屋を出ると、サクマが急用ができて先に帰ったことをアンリのママさんから聞いた。


 僕もばあちゃんを迎えに行くためにアンリの家を出ると、全速ダッシュで最寄りのバス停に行き、バスに乗って集会所に向かった。


 グンマーでもド田舎である前橋市のバスは、1時間に一本あれば良い方なんだ…。


 集会所に着くと、観光バスからうちのばあちゃんと同年代のお年寄りが旅の荷物を抱えてぞろぞろと降りている。


 僕のばあちゃんは、なかなか降りてこない…。



「――あらぁ~!?あんた、もしかして杏子ちゃん?」


 突然、知らないおばあさんに名前を呼ばれて、僕は振り返った!


 振り返ると、白髪頭の人の良さそうな笑み浮かべたおばあさんがいた。


 あれ?このおばあさん、前にどこかで会ったような…?


「はい…そうですけど?」 


「あらぁ~!大きくなったわねぇ~!前に会った時は、まだ小学生くらいだったかしら~?もう10年くらいたつかしらねぇ~?ほら、お盆に里子さん(杏子のばあちゃん)とお墓参りに来てた時にねぇ~。」


 あ~っ!!


 思い出した!!


 このおばあさんは、僕のばあちゃんのお友達だ。


 たしか、ばあちゃんに「よっちゃん」とか呼ばれてような…。


「いやぁ~。杏子ちゃんは、小っちゃい時も可愛かったけど、大きくなっても可愛いわねぇ~♡!ほんとに花奈子(かなこ)ちゃんに良く似てるわぁ…!」


 花奈子は、僕の母親の名前だ。


 僕は、交通事故の記憶障害で、両親のことは何も覚えていないけど…。


 仏壇に写真が飾ってあるから、両親の顏は知っている。


 僕と母親は、親子なんだから似ていて当然だ。

 

「はぁ…。あれ!?まだ、ばあちゃん降りてないんじゃ!?」


 さっきまで停車していた観光バスが集会所の駐車場からゆっくりと出て行こうとしていた!


 まさか!?ばあちゃん居眠りでもしてて降り遅れたんじゃ!?


「杏子ちゃん、心配しないで!里子さんはねぇ、バスに乗ってなかったのよ~。」


 はぁっ!?


 ばあちゃんがバスに乗っていない!?


「えぇっ!?それ、どういうことですか!?」


「それがねぇ~!里子さんったら、まだ旅行先の神戸にいるのよぉ~。ほら、里子さんのお母さんの花江さんって、神戸出身でしょう?その花江さんのお友達がまだご存命でねー、すごいわよね~!里子さんのお母さんって戦前生まれでしょう?そのお友達さんだって、もう100歳近いのに、頭ははっきりしてて花江さんがこっちに疎開してくる前からの親友でね、お互い離れて暮らしていたけど花江さんが亡くなるまで、ずっと文通していたそうよー。

 それで、里子さんったら、そのお友達さんに群馬に来る前の花江さんのことを聞きたいって、あと2、3日泊ってくるそうよ。」


「ばあちゃんったら!そんな、勝手に……!」

 

「杏子ちゃん、里子さんを許してあげてね。花江さんって、里子さんが幼い頃に病気で亡くなってしまったのよ…。だから、里子さんは自分の母親のことを少しでも知りたいのよ…。」


「そうだったんですか…。」


「それで、私は里子さんに杏子ちゃんへの伝言と預かり物を頼まれたのよ。さっきも話したけど、里子さんはあと2、3日は帰らないそうよ。はい、これはその間の生活費ね。無駄遣いしちゃダメよ?」


 よっちゃんは、ばあちゃんから預かったというポチ袋を僕に手渡した。


 触った感じお札が何枚か入っているみたい。


「はい、どうも…。」


「それから、こっちはお土産よ。里子さんが旅館で買った温泉まんじゅうよ。家に帰ったら、これをすぐに仏壇にしんぜてあげてね。知ってるかもしれないけど、花奈子ちゃん、おまんじゅうが大好物だったのよね~!

 特に伊香保(いかほ)清芳亭(せいほうてい)の湯の花まんじゅうがお気に入りでね~。ひとりで一箱全部食べちゃったことがあるって、里子さんが言ってたわよ~。」


 よっちゃんが紙袋に入ったお土産を僕に手渡しながら言った。

 

 たしかに清芳亭の湯の花まんじゅうは、美味しいけど、ひとりで一箱食べちゃうなんて…!


 僕の母親、どんだけおまんじゅうが好きだったんだよ……。















 




 

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