表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

第十一話 幕開


 放火犯が分かったと公表した日の放課後、指定の場所には1人の男子がやって来た。

「おぬしが放火犯かね?」

「はい。僕がやりました」

「君、名前は?」

「来島です」

「おぬしはどうしてそんなことをしたんじゃ? まさか侵略軍の指示か?」

「玲奈、茶化さないで! もし本当に君がやったんなら、どうして?」

「あ、あいつが許せなかったんだ!」

「許せなかった? 何かあったの?」

「城ヶ崎が、ぼ、僕の、僕をこう貶めたんだ!」

「こう貶めた? 何を言っているんだ?」

「じゃあ、おぬしに質問がある」

「おぬしはどういう手段で燃やしたのじゃ」

「どういうって、店の中に入って、灯油ばらまいて、火をつけた。それだけだよ」

「じゃあ俺からも質問だ。誰の指示でこんな芝居をしている?」

 何気なく教室のドアを開けて入って来たのは新太であった。

「平、先生。なんでここに?」

「居ちゃいけなかったか?」

「そうだよ、新太。1週間の間、学校に来ないんじゃなかったの?」

「確かに1週間とは言ったが、学校に戻って来ちゃダメって訳じゃない。思ったより早く用が済んでな」

「天音殿は大丈夫じゃったか?」

「ああ、大丈夫だ。それより来島! 誰の指示だ?」

「そんなの言えるかぁ!」

「ほう、認めたな。ということは誰かの指示で動いていたという訳だな?」

「平、図ったな……」

「さあ、言え」

 新太は懐から諭吉の札束をちらつかせる。

「言ってくれたら、これやるよ。来島」

 新太の目はもはや高校生でも教師でもない…… 犯罪者に近い眼光であった。

「……田中だ」

「ほう」

「田中君が、まさか」

「なるほど。想像していた通りだ」

 すると新太は懐の10万を来島に握らせる。

「さあ俺と、いや俺らとあいつらのゲームスタートだ……」

「新太、なんか言った?」

「いや何でもない」

「ていうか新太はどこまで知っているのよ」

「えっ、全部」

「ふぁー!?」


 ***


「なんだと! 来島が吐いただと!」

 夜の教室、普通の生徒なら足を踏み入れることは、まずない領域で2人の生徒が話し合っていた。

 案の定、当の田中は動揺を隠せなかった。

「それで、お前は次どうした方が良いと思う?」

「俺の意見を聞くのか…… 少し俺に頼りすぎじゃない?」

 田中は机を力強く叩いた。

「茶化すな! 俺の味方に付かなかったら、わかっているよな?」

「あー、はいはい。わかっていますよ。チクるんでしょ」

「そうだ。仁斎さんに言うからな」

「そうだね。とりあえず嗅ぎまわっている教育実習生を潰すのが先決じゃない?」

「どうやって」

「それこそ仁斎さんにチクればいいじゃん」

「でも仁斎さんをこんな片田舎に呼ぶのは難しいぞ」

「こっちから誘い込むんだよ。田中、お前は今、疑われている。それを逆手に取れば、難しくないことだろ」

「なるほど。お前は来るのか?」

「俺は行かない。まだいい匂いだからね。でも協力はしてやる」


 ***


「田中君、ちょっといいかな?」

「はい」

 この日の昼休み、遥は田中を呼び出し、職員室隣の待合室まで連れて行った。

「何ですか? 武田先生」

「実はね、田中君に聞きたいことがあって」

「放火の件、ですか?」

「え、えーっと、放火? いやいや違うよ。田中君ってクラスの委員長でしょ。クラスのみんなでどこかにお出かけしたいなぁって思ってるんだけど、どうかな?」

「お出かけ、ですか」

「どこかこの辺でいい場所知らない?」

「この辺は何にもないですからね…… 甲府まで出てみてはどうですか?」

「いいね! 甲府ならお出かけスポットいくつか知ってるかも。武田神社でしょ、舞鶴城公園でしょ…… 駅前だとそれぐらいかな」

 意外と駅前には何もないことに遥は心の中で少し落胆した。

「今度の土曜日などいかがでしょう。クラスのみんなにも行けるかどうか聞いてみますね」

「うん! ありがとう!」

 遥の今日の駆け引きはここまでだった。

 田中にとっても好都合な提案だった。早速田中はお目当ての人物に電話をかける。

「あ、もしもし、仁斎さんですか?」

『ああ』

「今度の土曜日、甲府に行くんですけど、潰してほしい奴がいまして」

『そいつは連れてくるだか?』

「はい。一緒に行きます」

『そういうこんなら…… ヤンキーと殺し屋、どっちにする?」

「……殺し屋で」

『何時何分に何処に送るか、教えてくりょう」

「それでは正午に舞鶴城公園に送ってください」

『わかった。殺し屋1人、貸したるわ。ただ……』

「ただ、なんですか?」

『おまんの写真は送ったるが、ターゲットは知らんぞ。だから―――おまん以外、全員標的だ』

「結構です」


 迎えた当日、甲斐大和駅には10人に満たないほどの生徒と教育実習生が集まった。

「おぬしたち、準備は良いか! いざ出陣じゃー!」

「「「おー!」」」

 玲奈はオタ仲間、すなわち同胞たちと気合を入れていた。

「玲奈先生、何ですかこの傘とこのデカい帽子! めっちゃカッコイイじゃないですか!」

「そうじゃろそうじゃろ! この傘はのこの頃改良した新作、聖剣アンブレラじゃ。そしてこの帽子はのう、魔女の帽子じゃ」

 ただのデコ傘と大きい帽子である。能力も特にない。

「先生、なんか太りました?」

「おぬし失礼じゃぞ! 童は太っておらん。多分」

 一方の遥と新太は私服と言うだけでいたって普通だった。

「遥、アレは持ってきたか?」

「持ってきたよ。ていうかよく気づいたね」

「お前は思っていたより大人のジジイだからな」

「ジジイって何よ! せめてババアにしなさい!」

「けど何で?」

「知ってたからだよ。あのニュースは、かろうじて観ていたからな。お前の口からギャンブルって出た瞬間、すぐに確信に変わったさ」

「そう」

 生徒一行は電車に乗り込み30分以上、揺られていた。

 案外にぎやかであった。あるところではオタクの話、あるところではテニスの話などなど。

 新太と遥、そして田中の3人が同じボックス席となった。

 事情を一番知っている田中からすると気まずすぎる展開だ。

「ところで田中君? 今日はどういう予定なの?」

「はい、まず11時頃に甲府駅に着きます。その後舞鶴城公園に行って、お昼ご飯を食べます。そしてその後歩いて武田神社まで行って、帰ってくるという感じですね」

「それはみんなで行動するんだよな?」

「もちろんそうですよ、平先生」

「何当たり前のこと聞いてるの? 新太」

「いや、昔から集団行動は嫌いでね。少しでも個別性を重んじた方が良いと考えていてね」

「そうですか。皆で行動するからこそ楽しいというものもあると思いますけど」

「じゃあ、こうしないか。皆行きたいところに行く。グループでいたい奴はそれはそれでいいし、個人でいたいやつもそれでいいって感じで」

「でもお昼ぐらいは皆で一緒に……」

「いいだろ。別に」

「…………」

 新太の突然のガチトーンにここのボックスだけ、沈黙になる。

「まあまあ。どうしたの、新太?」

「お昼は武田神社にしよう」

「えっ、何で?」

「そして、田中。お前は俺らに付き合え。舞鶴城公園に行くぞ」

 こいつ、まさか…… 田中は頭の中で軽く混乱していた。

 田中の頭の中を舐めまわすように新太が話を続けた。

「知っているよ。田中。何もかも」

(なんで……?)

「なんでか? それはまだ言えない。ただお前の敗因を教えてやる、使う相手を間違えたな」

 田中は何もかもを察した。そしてある人物を心の中で憎む。

「そして田中、お前のその腐った考え、心を俺らが更正させてやる」

 丸眼鏡をきりっと上げ、田中は前を向いた。

「いずれにしてもお前らは死ぬ! この後殺し屋が来ては太刀打ちできないでしょう!」

「そうか…… まあ知っていたが、殺し屋がどのくらいの強さなのかにもよるな」


 電車は甲府駅に到着した。

「玲奈と他のみんなは先に武田神社に歩いてってね。あとで追いつくから」

「童に任せて起きたまえ! 皆の者、出陣じゃ!」

「「「おー!」」」

 元気よく武田神社へと向かって行った。

「さてと、案内頼むわ。田中」

「くっ……」

 舞鶴城跡でもある、舞鶴城公園からは甲府市内の街並みが一望できた。盆地と言うこともあり、かなり遠くまで見渡すことができる。そして南東方向にはでかでかと聳え立つ富士山、この日は鮮明に映った。

 舞鶴城公園最上には1人の男が立っていた。男は髪型をばっちり決め、全身スーツで、SPのような佇まいであった。

「ごー!」

 田中が一言唱えた途端、男が無言で拳銃を発砲する。

「……!」

 弾は2人に命中した。

 しかし2人が倒れることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ