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第二話 やっぱり、ネコが……

ある日、娘から渡された手紙には……

 糸岡の娘が小学生の頃、ペットショップの前で泣いてせがまれ、ゼニガメを飼うことになった。

 五年の歳月が流れるうち、カメは想像をはるかに超えて大きくなった。小銭のように可愛らしかった面影はすでになく、ガツガツとエサを食べるとき以外は、一日中甲羅干こうらぼしばかりしている。カメの世話をするのはいつしか糸岡の役目となり、娘は見向きもしなくなった。

 まあ、どこの家庭でも、よくある話である。

 中学生になった娘はゲームに夢中で、リアルなペットは卒業したものと思われた。

 ところが。

 ある日のこと、糸岡は娘から「これ、読んで」と手紙を渡された。

 そこにはネコを飼いたいという思いと、ちゃんと面倒をみるという決意が綿々とつづられていた。

 糸岡自身、ネコは嫌いではないのだが、いざ飼うとなると、その大変さは想像するに余りある。プチごみ屋敷化している家の中を片付け、ネコの生活スペースを確保するだけでも容易ではない。一応、妻に相談してみたが、絶対に反対と言われた。

 糸岡は何度か娘の説得を試みた。

「なあ、志奈子。家の中に閉じ込めたらさ、かえってネコの自由をうばうことになるんじゃないかな?」

「違うの。そのままだと殺処分さつしょぶんされるかもしれないネコの、里親さとおやになりたいの」

「うーん」

 誰に似たのか、一歩も引かない。

 困った糸岡は一計を案じた。

(とりあえずネコを飼う気分だけ味わえば、満足してくれるだろう)

 ネットで調べ、最寄りの『ネコカフェ』なるものに行くことにしたのである。お目付け役として、妻にも同行してもらうよう頼んだ。

 カーナビを頼りに、何度も道に迷いながら、ようやくその店を見つけた。エステート風の集合住宅の一階部分がカフェになっている。出迎えた小柄な女性が、店長と名乗った。

 中に入るや否や、その店長に「すみません。手を消毒してください」と言われた。

(ちょっと失礼だな。おれたちはバイキン扱いかよ)

 入ってすぐに待合室があり、右の壁際にケージに入れられたネコが二匹いた。一瞬、そのネコを出すのかと思ったが、反対側にあるガラスの引き戸の向こうに、数匹のネコがたむろしているのが見えた。

「チャージは御一人様一時間につき二千円。別に各自ワンドリンクをお頼みください。ネコちゃんのオヤツは三百円です」

 予想外の大散財さんざいであった。

 糸岡は、動揺どうようを悟られないよう、店長に質問してみた。

「ケージに入っているネコたちは病気かい?」

「あ、いえ、この子達はまだ繁殖力があるので、一緒にできないんですよ」

「へえ」

「さあ、こちらにどうぞ」

 左のガラス戸を開け、中に案内された。

 十畳ほどのフローリングの部屋の中に、十匹程のネコがいた。てんでバラバラに、寝そべったり、歩き回ったり、遊具ゆうぐの上に座ったりしている。全然人間をこわがらないし、ほとんど興味もないようだ。

 いや。

 しばらくすると、一匹、また、一匹と糸岡たちのところに寄って来ては、体をこすりつけたり、ひざに乗ってきたりするようになった。挨拶あいさつなのか、敵情視察てきじょうしさつなのか、よくわからない。

 だが、まだ大部分のネコは我関われかんせずという感じで、知らん顔をしていた。

 やがて、一旦部屋の外に出ていた店長が戻って来た。

「さあ、ネコちゃんのオヤツをお持ちしましたよ」

 要するにキャットフードである。

 娘がネコたちに与え始めた。

 すると、部屋中のネコが一斉に娘に寄って来た。

「ケンカしないで。仲良く食べるのよ」

 うれしそうである。

 だが、エサがなくなった途端、アッという間に元の状態に戻った。現金なこと、この上ない。

(まあ、ネコなんてこんなものさ。娘も少しは世知辛せちがらい現実を知っただろう)

 散らばったネコたちを目で追っていると、一番人なつこかった一匹が、じっと窓の外を見つめているのに気が付いた。

(ほう、おまえ、外の世界に出てみたいんだな)

 その時、糸岡は何故かしら、胸がキュッとなるのを感じた。

(あれっ、何なんだ、この感情は)

「あなた、そろそろ帰りましょうか」

 そう妻に声をかけられて、糸岡は「ああ」とうなずいた。

 帰りの車中、楽しげにネコの話をしている妻と娘に、思わず糸岡はこう言っていた。

「なあ、やっぱり、ネコ飼おうか」

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