番外編「物語前日譚」
これはカイとレイがゴブリン討伐へ行くまでの話。物語はその日の朝まで遡る。
チュンチュン、チュンチュン。
小鳥の囀りが朝を知らせ、カーテンから漏れ出た朝日がカイの顔に当たっている。
「もう、朝か」
カイは渋々目を開け、体をベットから起こす。
「今日も一日頑張るかー」
伸びをしながら独り言を呟く。そして、ベットから出て寝巻きから防具に着替える。使い古された安物の革素材でできた防具だったが、カイは愛用していた。
着替えが終わるとカイは食堂兼休息スペースとなっている一階へ降りた。レイとはいつもそこで待ち合わせているからだ。
一階へ降りるとレイは既にそこにいた。
「おはよう。相変わらず朝が早いね。レイは」
「おはよう、カイ。別にそこまで早くはない。俺もさっき起きたばかりだ」
「そのさっきがいつのことやら」
「そうだな、朝日が昇る前くらいだろうか」
「それを早いって言うんだよ!」
なんて事ない朝のやり取りだった。しかし、そんなやり取りを二人は幸せだと感じていた。
「あっ、ピルロおじさん、朝ごはんお願い」
「はいよ。いつものサンドイッチとコーンスープでいいね」
「うん、それで大丈夫」
カイがピルロおじさんと呼ぶ彼はカイとレイが泊まる宿屋の店主だ。イースタリアンに来て冒険者活動をして以来ずっと泊まっているためお互いに気の知れた仲になったのだ。
それから少しして頼んだサンドイッチとコーンスープが来た。
「はい。お待ちどうさま。頼まれたものを持ってきたぜ」
「いつもありがとう。ピルロさん」
「いいってことよ、レイ。て言うより、お前ら以外に客はほぼ居ないもんだからいっぱい食ってくれ」
「そうなんだよね。なんでここはこんなに客が少ないんだろう。別に悪くない宿なのに」
「まあ、この辺りの宿にしちゃあ古い方だからな。あまり客が来ないのも頷ける。それに俺ももう歳だからそろそろ潮時かもしれないな」
「えっ、ピルロおじさんがこの宿畳んじゃったら僕らどこに泊まればいいの」
「ハッハッハ、その時はいい宿紹介してやるよ。これでも顔は広い方だ。同業者の知り合いならそれなりにいるから安心しろ」
「うん、わかった。でもそっか、ピルロおじさんと会えなくなるって考えると少し寂しくなるな」
「嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。でもまあ、生きてりゃどっかしらで会えるだろう」
「うん、そうだね」
ピルロさんはそろそろ仕事に戻ると言い、奥の方に行ってしまった。そんな彼を見送りながら二人はこれからのことについて話していた。
「もし、本当に畳んじゃったら、どうする?」
「他の宿に泊まるしかないだろう」
「そうだよね……。まあどこに泊まるかはその時になったら考えればいいか」
「ああ」
自分の商売を畳む話はよくあることだ。しかし、カイは少し不安を抱えていた。
(ピルロおじさん、本当にこの宿を畳んじゃう気がするんだよな。でもなんで嫌な感じがするんだろう。うーん、気のせいだよな)
それから少しして、二人は朝ごはんを食べ終わり、いつも通りギルドの闘技場に向かった。通りには出店の準備をしている人たちがそれなりにいた。その人たちに隠れてカイとレイを追いかける二人の人影があった。
(まただ。この誰かにつけられている感覚は。最近やたらと多い気がするが気味が悪い。カイに相談するべきか。しかし、カイは気づいていないのだろうか)
レイもまた不安を抱えていた。
およそ二週間前からレイは誰かにつけられているのではと感じていた。始めは気のせいだったり、容姿もかなりいいとカイやケインなどによく言われるため、そのせいだろうとも感じていた。しかし、だからと言ってそれが原因で見られているという感覚は今までなかった。それに加え、長い。もし、容姿が原因なら、一瞬ちらっと見れば終わりだが、二週間となれば話は別だ。明らかに誰かにつけられている、そう感じるのも当然のことだった。
(やはりここは、カイに相談するべきか。もしかしたら、カイの直感が何か告げてくれるかもしれない)
「――イ」
「――レーイ!」
レイの考えが纏まり、カイに相談しようとしていた時、カイに声を掛けられていることに気づいた。
「どうしたの、レイ。ぼーっとしちゃって」
「すまない。少し考え事をしていたんだ。それでなんのようだ」
「えっ、もしかして何も聞いてなかったの。はー。レイって少しそういうところあるよね。自分の世界に浸っちゃうというか周りをシャットアウトするというか」
「本当に申し訳ない」
「まあ、いいさ。それで、もっと的確に魔物の弱点を狙えるようにレイに相談をしたかったんだけど」
「ああ、かまわないさ」(しかたない。カイに相談するのは別の機会にしよう)
二人は戦闘時の陣形について相談しつつ、ギルドの闘技場へと向かった。そしてまだ二人の人影は二人の後を追っていた。まるで、その人しか眼中にないかのように。
二人がギルドの前に着いた時、ちょうど、タイガーズのメンバーが出てきたところだった。
「あれ、タイガーズの皆さんじゃないですか。おはようございます。朝、早いですね」
「ああ、サファイアか。実はまたギルドに指名依頼くらって今から行くところだ」
「あの、前から僕、気になってたんですけど、その指名依頼って張り出されてる依頼とは違って少しレベルが高い依頼だって思ってるんですけど、ケインの反応を見るにあまり乗り気じゃないのは何でなんですか」
「それはね、確かに指名依頼は前金って言って、報酬金額の二割り増しを始めにくれるんだけど、実際はその依頼の調査みたいなもので、新しい情報を手に入れないと成功扱いにしてくれないんだよね」
と、メンバーの一人、補助魔法使いの女性、ハンナ=アルバレスさんが答えてくれた。
「しかも、新情報なんてほぼほぼ無いから、無駄なことをしにいってるって感覚が強いんだよね。それに、失敗扱いだから、ランクの昇格にも繋がらないしね」
攻撃魔法使いの男性、アレン=フォージャーが続けて言った。
「そうだったんですね。てっきりもっと価値のあって名誉なものだと思ってたんでしたけど実際はそんなことないんですね」
「名誉と言えば名誉だけど、結局、名誉でしかないね」
アレンがカイに答えた。そして、ケインが口を開いた。
「で、おまえたちは闘技場で訓練に来たのか。えらいな。いつか俺らを超える日が来るかもな」
「そうだといいんだけどね」
カイが半ば苦笑いで答える。それからケインがもう行くと言い、その場を去っていった。
「タイガーズの皆さんも行っちゃったし、そろそろ入ろうか」
「ああ、そうだな」
二人は当初の目的だった闘技場での訓練をするため、闘技場に入っていった。基本的、ここに入るのは二人が一番最初なのだが、案の定、今日も一番乗りだった。
「やっぱり一番乗りだったか。じゃあ僕はいつもどおり射的訓練場に行くから」
「ああ、俺もいつもどおり……」
「おーい、サファイア!こっちに来てくれ!」
「……どうやら監督がお呼びのようだ」
「えー、何か嫌な予感がするんだけど……」
二人は渋々対魔物訓練場の監督のもとに行った。
「やっぱり、おまえらが一番乗りだったか。早く来た甲斐があったぜ」
「何なんですか、監督。僕らを呼び出して。まさか、模擬戦をしようって言いませんよね」
「鋭いな、カイ。まさにそのとおりだ。今から模擬戦に付き合ってくれ」
「……僕らに拒否権はない感じですね」
「分かりました。模擬戦に応じるのは構いませんが、どうして、いきなり模擬戦だなんて」
「そうだよ、僕も知りたい」
「いや、なんだ、こうも冒険者どもに戦いのイロハを教えてるとオレも体を動かしたくなるもんよ。だから、付き合ってくれ」
「やっぱり、そんなとこだろうと思ったよ。て言うか、あなたは元Aランク冒険者でしょ!僕らじゃ相手にならないって。もっと高ランクの冒険に頼んでよ」
「いや、そんなことはないし、そもそも高ランク冒険者はここには来ない」
「……それもそっか」
「それに、おまえらは限りなくBランクに近いCランク冒険者だ。しかも、オレの戦闘スタイルは体術と剣術だ。おまえらの戦闘スタイルと相性が良い」
「分かりました。……ほどほどにしてくださいね」
「お、レイはやる気みたいだな。カイも当然やるだろう」
「はいはい、やればいいんでしょ、やれば」
「決まりだな。ルールはオレは木剣で、おまえらは自分の武器を使え。どっちかがリタイアするまでな」
かくして、三人の模擬戦が始まった。
監督はレイに向かって突っ込み、木剣を振るう。レイは大盾でそれを受ける。
(くっ!重い!)
レイは盾が弾かれそうなのを必死で堪える。その隙にカイは監督の眉間に向かって銃を撃った。
監督は撃たれる寸前に頭を逸らし、バックステップで距離を取る。そして、猛スピードでカイに近づき、剣を振るった。
「!?」
しかし、寸前のところでレイがカイを守った。
「いい瞬発力だ。よく反応できたな」
「お褒めに預かり光栄です」
その間、カイは部屋の隅に素早く移動する。
(気づいてくれよレイ)
それに気づいた監督はすぐさまカイを追いかけた。
「カイ、自ら追い詰められようとするとはどういうつもりだ」
そう言いながらカイに木剣を振るう。それをカイは腰にある短剣で受けとめた。
(ダメだ。重すぎる)
カイの腕がプルプル震え、ついには膝をついてしまった。
(レイ、早く!)
そう考えていると、監督の背後から大盾を監督の左脇腹に向かって振るうレイが来た。
しかし、レイが来ることを分かっていた監督は大盾に当たらないよう上に大きく跳んだ。
しかし、上に跳んだことを後悔した。
「しまっ……っ!」
監督が上に跳ぶことを分かっていたようにカイは銃を監督の眉間に目掛けて撃った。今度は監督は躱しきれず、当たってしまった。
そして、レイも落ちてくる監督を容赦なく大盾でぶっ飛ばした。
監督は受身を取りきれず、体が跳ねてしまったが、すぐに体勢を整え直した。
「やるなあ。一本取られたぜ」
監督は汗を拭いながら言った。
「まじか、レイのあれを喰らってまだ立てんのか。さすがに肋骨何本か逝ったんじゃないの」
「ふん、元Aランク冒険者を舐めては困るなあ。体はまだまだ丈夫じゃい」
「どうやら、まだ続けるみたいだね」
「もちろん。さて、次はどうやってオレを楽しませてくれるのかなあ」
カイとレイは顔を見合わせ、頷き、同時に走り出した。そして、監督を中心にレイが内側、カイが外側になるようにして、円を描くように走った。時折、カイがレイの後ろから監督に向かって銃を撃つ。しかし、さすがに、躱されている。
「どうした?そんなんじゃ当たらないぞ」
しかし、二人は気にせず続ける。
「……」
痺れを切らした監督は、二人の進行方向に向かって勢いよく走り出し、レイの後ろにいるカイに向かって木剣を振るった。
「??!……!!」
しかし、カイはいなかった。驚いた監督は上を見上げた。するとそこには拳銃を構えたカイがいて、監督の眉間に向かって銃を撃った。これは躱しきれず、体勢を崩してしまい、またレイに吹っ飛ばされた。
監督は体勢を立て直して言った。
「はっはっは。まさかオレもここまでやられるとは。それに今のもオレが走り出したと同時にカイが上に跳んでいたとな」
「監督(笑)、もしかして腕落ちた?」
カイは煽るように言った。
「どうやら、カイの言うとおりみたいだな。分かった。オレの負けだ。潔く認めよう」
「おー、すごい。まさか僕らが監督に勝てるとは」
「ああ、正直、思ってもみなかったな」
「おまえらのその戦い方はいつ考えたのか聞いてもいいか」
「魔物と戦う前に二人で考えてたんだ。で、今回はうまくいったものをや




