食堂でオカンと呼ばれている僕が、オカンと呼ばれる理由
そうして一週間後。約束の時が来た。
「パトリ君、来たよ。もう入って大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ」
既に、依頼主じゃない常連さんですら入っているし。なんなら、おこぼれまで期待している。
「さて、今日は何を作ってくれるのかな」
「わらわわかるぞ! それは――もごもご」
「はーい、駄目だよー先にいっちゃ。すいません。お楽しみってことにしてくれませんか」
ネタバレしようとしたシャリテの口を押え、人差し指でしーっとジェスチャー。
同じジェスチャーをするシャリテを微笑ましく思いながら、作業に取り掛かる。
ニードルキャロットと、アントワーヌの近くにいたカメの背中に自生していた、カメネギ。それと貰ってきたじゃがいもを取り出す。
ニードルキャロットはいちょう切り、カメネギはくし形切り、じゃがいもは四等分に切る。
鍋にミノ肉を入れ色が変わるまで炒める。
色が変わったら一旦ミノ肉を引き上げ、先程切ったニードルキャロット、カメネギ、じゃがいもを炒め始める。
ジャガーがうっすら透明になるまで待つ。
「なんだろ。シチューかな」
「カレーじゃないっすか?」
そんな様子をカウンターで見ていたカドリフォリエが、何を作っているか予想し始めた。
確かに、この段階じゃまだ何になるかわからないだろう。
だが、次の調味料で決まる。
水、酒、海藻や魚介のうまみを閉じ込めた丸い球、砂糖をいれ落し蓋をして十分煮込む。
十分煮込んだら落し蓋を外し、最初に炒めたミノ肉をここで入れ、さらに醤油を少し濃いめになるよう入れる。
味をなじませるように、鍋のそこからすくい上げるにして五分煮込めば完成。
炊き立てのご飯。と出来上がった料理をカウンターに置く。
「お待たせしました。肉じゃがでございます」
こうして、カドリフォリエはよく見たであろう。肉じゃがを自信満々にパトリは提供した。
出てきた料理を目の前にして、カドリフォリエは顔話見合わせる。
それもそのはず、正直ガッカリしていた。
「オレっち食べなくていいですか?」
ボヌールの一言に店内がざわつく。常連からしたら、食べる前からこの店が否定されているのだ。ざわつかないわけがない。
「私はそこまでは、いわないが……正直、何がしたいかわからない。あまり大きくないジャガー。しかも、形も悪い。なんで、これを提供してきたのか真意を問いたい」
「フォワちゃん……」
「許してほしいジュテーム。どうしても聞いておかなければならないんだ」
パトリがなぜこれを作ったのか、しかも食材の目利きをしていないのではないか。そう思ったフォワは、止めるジュテームを気にせず問い詰める。
しかし、それに対して何も答えず微笑むパトリ。
パトリの料理に対する意味が分からず、イラつき始める中。
――カチャ。
と、スプーンが皿にあたる音が響く。
「エスポワールおまえ……」
静かに一口。
「あっ―—」
そして、何かを思い出したように肉じゃがをご飯に乗っけて勢いよくかきこむ。
「————ッ」
息を整えるために、一旦ご飯を置くエスポワールの頬に涙が伝う。
「ど、どうしましたかエスポワールさん?」
「食べて……みればわかる」
席を立とうとしていたボヌールも、一旦座って一口食べる。
「これっ」
「パトリ君どうしてこれを……」
「そうですね……あ、その前に伝えないといけないことがあったんです」
『たまにでいいから帰ってきなさい』
ほんの一種、一面のじゃがいも畑。小さな家で暮らしている母が見えた気がした。
あり得ない、目の前にいるのは年下の男の子。なのに、どうしても母親の顔に重なって見える。
涙のせいなのか、もっと他のことが原因なのかわからない。
ただただ、懐かしい。
貧しかったため、ご飯と肉じゃががよく出ていた。
売れない小さい、形の悪いじゃがいも。ご飯に合うように濃いめの味。
本当に懐かしい。
しかし、この中で一番驚いているのはシャリテだった。
これは、新しい魔術!?
料理を魔法陣に見立て、食材の魔力を使い食材が育った景色を見せている。
それを本人が無意識でやっている事が恐ろしい。
「どうですかい。うまいでしょ?」
「はい、本当に」
バッカスがエスポワールに絡みに行く。
「俺たちがオカンって呼ぶ理由だよこれが、ここにきてる奴はもう親がいないやつもいる。だけど、なんか。料理を食べてるときは覚えださせてくれるんだ、パトリが」
静かにエスポワールは頷く。
「今度久しぶりに帰るか」
「そうしましょうっす」
「そうだな」
「ですね」
「ただその前に、オカンおかわりください」
「はいよ」
目の前の男の子に敬意を表してオカンと呼ぶことにしたエスポワール。
「オカン! カドリフォリエの皆さんだけじゃなくて俺らにも同じものくれよ!」
「別で作るから待っててください! 常連の皆さんには、肉じゃがのコロッケ作るので待っててください。シャリテもエール運ぶおお願い」
「わかりました。です」
「にしても、こんな料理見たことないぞ」
「あー発祥の地が、倭国だからじゃないですかね?」
ビーフシチューを作ろうとした過程で生まれた、ある意味失敗の料理らしい。こんだけおいしければ関係ないが。作ってくれた人には感謝している。
「依頼の方は達成でいいですか?」
「あぁ、ありがとう。これ以上ない料理だったよ」
こうして、パトリはAランク。カドリフォリエの依頼を無事達成したパトリとシャリテだった。




