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寝室




アル=エルメノン。

シャディザール地域の都市の一つ。

ペシュカネルから南に130km程度の位置にある。


「ああっ…!!」


性的絶頂エクスタシーに震える淫らな嬌声が閨房に響く。

香炉からは、精気を弥増すような香りが立ち昇る。

大小の蝋燭が室内で妖しく揺らめいていた。


ここは、領主の城館。

その寝室。

寝台には、美尊と若い男がいる。


「ああ、ぼく王様ベグ…。

 豫の大王様ベイレルベイ……っ!」


相手の胸板に顔を埋めた美尊が恍惚の表情でそう繰り返した。


相手は、年若い青年だ。

若いと言っても15歳の美尊や十太郎より当然、年上だが。

捩れた短い黒ヒゲ、逞しく引き締まった戦士の肉体をしている。


彼は、ここアル=エルメノンの領主、ギュスタル。

まだ髭も伸ばせない年齢だがアル=エルメノンの主権者だ。


「決心が着きましたか?

 いまだ迷っておられるのですか。」


美尊がギュスタルにささやいた。

しかし若いベグは、厳しい口調で答える。


を侮るな。

 甘言で余を操れると思うのか?」


そう言って伯は、美尊を睨んだ。

しかしその目には、全く力がない。

判断力を美尊の毒々しい魅力に侵されている。


相父アタベクのサフィードが余に代わって政務を滞りなく執行しておる。

 このアル=エルメノンが安泰なのは、相父のお陰だ。

 余の力など…ないに等しい。」


ギュスタルは、打ちのめされたようにそう言った。


アタベクとは、父のような家臣。

ギュスタルのような若い君主に代わって政治を取り仕切る大臣である。


「何をおっしゃいます。

 詰まらない者たちの言葉を真に受けてはいけません。」


子供をあやすように美尊が伯に吹き込んだ。

正常なら跳ね除けられるような言葉だ。

だが酩酊した伯は、美尊の声に深く深く落ち込んでいく。


「お前こそ………余を欺いている。」


弱々しい声で伯がなんとか抵抗した。

そこへ空かさず美尊がたぶらかしの言葉を注ぎ込む。


「愚かな!」


そう叫んで男娼のように淫らに着飾った美尊が立ち上がった。

伯は、阿呆のようにその姿を見上げる。


美尊の全身の宝飾に付けられた宝石が蝋燭で神秘的に輝いた。

それらすべてが炎を噴き上げるように光る。

その姿は、幻想的で若い君主に幻覚のような作用をもたらしている。


「ご自分の業績を民と廷臣に示されるのです!

 それなくば、いつまでも幼君ようくんとして軽んじられましょう!」


美尊は、ギュスタルの顔を両手で掴む。

カッと見開かれた若い君主の顔を舌で舐め上げた。


「これは、乳の味じゃ…。

 大王様からは、赤ん坊の味がするわ。

 いつまでたっても相父しょうほの言い成りの幼君じゃ。」


美尊は、そう言って愛人を侮辱してみせた。

彼の愛しい王様は、顔を赤くして激憤する。


「余を…侮るな!!

 外世界の種族の男娼め!!」


「アッハッハッハ!!

 その意気でございます。」


美尊は、艶笑した。

蛇のような笑いだ。


もし蛇が笑えばの話だが。

───それほど不自然で非人間的な仕草であった。


「豫の大王様。

 大君おおきみのお強い所を豫にお見せくださいませ…。」


「良かろう……!

 だが、お前だけではないっ。

 明日からは、皆にも余がアル=エルメノンの主だとしかと見せてくれよう!


 相父…。

 いやサフィードは、遠ざける!

 予自らがアル=エルメノンを治めるのだ!!」


ギュスタルは、そう言って美尊を抱き締めた。

二人は、シルクのベッドに再び倒れ込む。


「ふふふ…!

 あっはっはっはっは!!」


大王を抱き締めながら美尊が哄笑した。

悪魔が笑うなら、きっとこんな笑い声だろう。




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