現実の授業
この24時間で紳士同盟もPKヘヴンも戦力を拡充した。
これまで《窖》のことは、SNSやネットで話題にしても生身で話すことがなかった。
誰もが身近な人に相談し辛い出来事だったからだ。
《窖》には、200万人以上の日本人がいる。
外での顔見知りと中々、接触することもなく他人に相談することもできずにいた。
しかし昨日の戦いは、各地で伝染。
十太郎たちが戦った以外の場所でも各々のクランが衝突していたらしい。
こうなると誰もが半信半疑のまま互いに確認し合った。
《窖》と呼ばれる異世界で毎日、冒険をしているということを。
昨日まで9人だった西岡クランは、27人に増。
3倍近くになっていた。
「西岡君。
この女の子たちは?」
結城が驚いて駆け寄ってくる。
ガレオン船には、知らない女の子が18人増えていた。
みな、派手できわどい恰好をしている。
瑞々しい肉体美を晒し、胸の谷間や股間の布地の抉れの深さを堂々と見せる。
「綺羅羅や月愛の友達。」
十太郎は、端的に答えた。
いつもの時間になると入り口が彼らの前に開く。
ガレオン船で回収するまでもなく同時に《窖》に移転して来たのだ。
「また女の子に手を出したなァ!?」
悋気に狂ったジョーがライフルの銃口を十太郎に向けた。
両手を上げ、十太郎は、作り笑いして誤魔化すしかない。
「あ、はは…ははは…はははは…。」
「はーい!
ここで情報がありまぁーす!!」
とろんとした目をしたギャルが手を上げる。
両耳に12のピアス、ヘソには、ダイヤモンドが光る。
とりわけ、左右の乳首のピアスには、鎖が渡してある。
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《!》Topics
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田尻千奈。
クラス:『ビーストテイマー』 Lv9
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「ペレ=アッコンという街があるンスけどォ。」
スマホで全員に地図情報を回す。
聞いたこともない街だ。
全員が指を忙しなく動かして画面を引っ張る。
「………なんだ、ここ?」
ジョーが眉をひそめる。
ペシュカネルよりも東に街があった。
難破船海岸より東に大きく陸地が迫り出している。
「ここがPKヘヴンの拠点でーす。」
見つからない訳だ。
まさか逆方向にまだ街があったなんて。
「詳しい話を聞きたい。」
そう十太郎が言うと千奈は、据わった目で笑う。
「アグィーッパス王家は、食人族の王様でー。
まあ、この辺がアグィーッパス王国って国なンス。
PKヘヴンは、高校生を差し出す引き換えに悪魔の船。
空飛ぶガレー船を王様から貰ってるンス。
他にも武器や食料を貰ったりして。」
現地民に協力者。
あの三段櫂船は、《窖》の国と取引したものだったのか。
「……俺たちは、死んでも8日かそこらで生き返る。
食人族の国にとって御馳走って訳だ…。」
船は、人間が歩くよりも便利だ。
荷物を大量に運べるし、自転車ぐらいの速さが出せる。
自動車より遥かに遅いが人間の歩きより速い。
何より地形を気にせず移動できるのは、大きい。
しかし砂嵐が来ると一溜りもない。
隠れることはできないし、砂や石が飛んでくる砂嵐は、海の嵐とも勝手が違う。
これまで十太郎たちは、絶対に砂嵐に船を巻き込まれないよう注意して来た。
そういう意味では、決して空飛ぶ船は、万能の移動手段でもなかった。
アグィーッパス王国がPKヘヴンに船を与えたのは、人間を運ばせるためだろう。
「で、そのアグイバス王国…。」
十太郎がそう言うとジョーが横から訂正する。
「アグィーッパス。
”Aguippas”。」
「ええ?
一緒でしょ…?」
「はい、注目!」
北村先生が仕切る。
いつの間にか船尾楼の上にあがっている。
「一度、そのペレ=アッコンに行ってみましょう!
先生に賛成な人ー!?」
甲板の上にいる27人は、互いに顔を見合わせて相談する。
しばらくして手が20人分挙がった。
北村先生本人を含めて21人が賛成ということになる。
「じゃあ、多数決によりペレ=アッコンに進路を取ります!
良いですね、十太郎!?」
「ア、ハイ。」
ちなみに十太郎は、挙手していない。
これが民主主義だ。
「えー?
細川や綾瀬君と相談した方が良くない?」
結城も十太郎と同意見だ。
「せっかく初めての場所に行くのに。
すぐに戦争なんて台無しじゃない。
私たちは、冒険を楽しんでるんであって戦争なんか楽しくないよーだ!」
と葉月が胸を反らせる。
この船にある25組の乳房の中でも極上の1組がぷるんと波打った。
思わずこの船に2組しかない男の目が注がれる。
またこの船の上には、2つしかない男の物が硬く膨らみかけた。
「しかし全く何も言わずに出発はマズい。」
ジョーがいった。
天村も同意する。
「そうだな…。」
「地図情報をアッサリを渡すの?
ちょっと気に食わないなー。」
王冠を被ったルンルが腕組みして身体を傾げた。
太陽の光で王冠の宝石が燃えるように輝いている。
「アリス先生!
一応、連絡した方が良くない!?」
月愛が挙手する。
船尾楼の北村先生は、冷然と答えた。
「あのね。
馴れ合いに慣れてはいけないぞ。」
仮にも教師が学生にいう台詞じゃない。
「同盟っていっても、いつ敵になるか分からないんだもの。
何でもかんでも話し合ってたら都合の良い言い成りになる訳。
ここは、私たちだけが一歩も二歩も先んじちゃうことにするの。
………PKヘヴンだって不倶戴天の敵って訳じゃないし。
紳士同盟だって味方とは限らない。
その都度、その都度、利口な方に味方するのが一番さ。」
そう言って緑の瞳をウインクさせた。
十太郎たちは、唖然とする。
「先生の癖に裏切りを唆すんですか?」
と葉月が手を上げる。
それに対し、北村先生は、船尾楼の手摺に凭れかかった。
「先生は、皆が現実でも嫌な思いをしないようにね。
現実を教えてあげる訳です、はい。」




