気付き
倉皇して結局、七人は全員で脱出を計ることにした。
葉月と北村先生の二人は、戦力不足なので守られている。
「ああ、もう!
どこ行っても食人種、食人種、食人種!」
ジョーが銃弾の残りを確認する。
出口の見えない戦いの中では、心もとない。
「ここ!
外から空気が流れて来てる!!」
十太郎が風を頼りに進もうとした。
しかし天村は、賛成しない。
「窓やバルコニーかも知れない。
外に通じてるとは、限らない。」
すっかり七人は、神殿の中を迷子になってしまった。
この神殿は、巨大な街を一つの建物にまとめたようなものだ。
何処まで行っても部屋、通路、部屋が続く。
「パラシュートあったじゃない。
全員分ないの?」
十太郎がジョーに訊く。
パラシュートを使えば崖でも谷でも降りられる。
かなり選べる道が増えるハズだ。
戸惑い、白状するようにジョーは、答えた。
「………十太郎の分は、用意してあった。
でも倉橋さんと先生の分は、想定してない。」
葉月と北村先生は、バツが悪そうに謝った。
「急に出てきてゴメンねー。」
「ごめんなさい。」
「あ。」
ルンルが悪い予感がする声で呟いた。
皆が進んだ先には、大きな崖が広がっている。
広大な列柱広間があり、柱の間から荒涼とした山々が見える。
行き止まりだ。
「……戻るしかない。」
とジョーが苦しい表情で言った。
追いかけてくる敵と正面でぶつかることになる。
「待って!!」
十太郎は、広間を突っ走って行く。
入り口からでは、分からなかったが階段があって下に降りられる。
「ねえ、皆!!
こっちに来てよ!!」
十太郎は、そこから手を振った。
他の6人も彼を追う。
そこには、ガレオン船が停泊していた。
神殿の建つ絶壁にガレオン船が接舷している。
「これ、飛んでるんじゃない?」
十太郎は、ガレオン船を指差していった。
よく見ると船は、壁に触れていない。
ファンタジーやRPGでは、お馴染みの空飛ぶ船だ。
これまであちこちにあったガレオン船は、墜落したものだったのだろう。
「………行ってみよう。」
ジョーも階段を降りてガレオン船に向かう。
船内に潜り込むと人の姿はない。
腐り切った食料と中身が蒸発した空の樽。
黄金と宝石の山、スマホが残されている。
「随分、放置されっぱなしだったみたい。」
天村が船尾楼から出てきて言った。
下甲板からは、綺羅羅とルンルが出てくる。
「何もかも腐ってるか蒸発してる。」
と綺羅羅が報告した。
船長室に入った十太郎とジョーは、スマホを調べていた。
まともに残っているのは、もうこれだけだ。
「………この船の持ち主のスマホか?」
船は、シャディザールの次の街、パランディスに到達していた。
他にも多くの情報が、このスマホに詰まっている。
おそらく岩戸たち、先頭集団も知らない情報だろう。
「………そういうことか。」
ジョーは、ゾッとした。
隣でしばらく考えて十太郎も理解した。
この異世界で自分たちは、死なない。
《ゾンビ》という職業さえ存在する。
おそらくこの船の持ち主たちは、食人族になったのだろう。
彼らの血肉を食べさせられ、人間でなくなったのだ。
死なないハズの人間が完全消滅するパターンの一つだった。
「船を動かす方法は、分かる?」
十太郎がジョーに訊いた。
スマホを調べていたジョーは、思わず噴き出す。
「ふふっ。
ご丁寧にスマホにガレオン船を操作するアプリが入ってる。」
指でアプリをタッチし、船を回頭させた。
ゆっくりとガレオン船は、カラトン神殿の絶壁から離れ、向きを変える。
「ああ?」
「わああっ。」
「な、ななな、何!?」
他の皆は、急に景色が動き出したのでビックリする。
「じゃあ、このパランディスに向かおう。」
十太郎がジョーにいった。
「待って。
食料とか水が先。」
そう答えてジョーは、スマホを十太郎に投げて寄越した。
「それからタナスルの結城と月愛とも合流!
船は、あんたに任せるから。
女に運転させるような男とか嫌だからね。」
それだけ言ってジョーは、甲板に向かった。
残る仲間たちに命令する。
「まず掃除して!
この汚い船を隅々までね!!」
シャディザール。
既に今回の冒険は、9日目に突入。
普段なら冒険が終わる時間になっても帰れず、不安になる者も出て来た。
「はははは!!!
次の瞬間には、あっさり帰れるさ!!!」
綾瀬は、笑って皆を安心させる。
時折、冒険が早く終わる時と長引く時がある。
おそらく今日が最終日だと事前に踏まえて無茶を禁ずるためだ。
逆に6日目で突然、元の世界に戻される冒険もある。
「そうだと良いけど…。」
高本が心配そうにいった。
話しながらボウガンの手入れをする。
他のメンバーは、訓練に余念がない。
人数は、13人にまで増えている。
PKヘヴンは、1000人近い数を抱えているという噂だ。
綾瀬は、数に数で対抗する方針に転じた。
「装備を揃えるのに金と時間を費やすが。
PKヘヴンに対抗しないのは、意固地だ。」
意固地というのは、もちろん岩戸のことだ。
「そもそも岩戸は、間違ってる。」
岩戸クランは、《ナイト》、《マージ》、《ホプリタイ》など。
典型的RPGみたいな編成をしている。
様々な特徴を持った職業を組み合わせて活動する。
それは、普通のゲームなら通用する。
だが《ナイト》だけで良いと綾瀬は、考えていた。
攻防にバランスのいい能力、回復魔法で継戦能力も高い。
特に騎馬での移動力は、このサバンナで大きなメリットになっていた。
あらゆる状況に対応する必要はない。
それは、テスト勉強で範囲を考えずに全部暗記するようなものだ。
ここは、サバンナ。
ここで十全に戦える編成を作れば良い。
ほぼ全員が《ナイト》という編成は、最適だと綾瀬は、考える。
もし密林や山岳地帯に入ったら、そこで対応を考えればいい。
全てに通用する完璧なやり方に拘る岩戸は、矛盾している。
実際に戦う場にそぐわないチーム編成は、岩戸の傲慢さのシンボルだ。
クランは、自分の利口さを表現するための作品じゃない。
「………岩戸は、限界が近いな。
西岡ボーイは、元気にしてるかなァ。
今頃、どうしてるかな…。」
綾瀬は、筋肉の仕上がりに満足しながらいった。
剣を振るう手つきは、一層、磨きがかかっている。
「元気じゃない?
高橋さんも私も元気づけられたし。」
そう言って高本は、くくくっと笑う。
「はははははは!!!
なんだ、すっごく元気じゃないか!!!」
綾瀬も大笑いした。
「……できれば仲間に入れたい気持ちもあるが…。
まさか岩戸ボーイに追い出されてすぐに来るなんて。
ちょっと気を使って貰いたかったな。」
といって綾瀬は、苦笑いする。
高本も困ったように首を振る。
「友達がいないって話だからね。」
「うん。」
綾瀬の顔に影が差した。
「西岡ボーイの話じゃ親が継親って聞いたからな。」
「本当のお父さん、お母さんじゃないの…。」
聞かされた高本も驚いた。
水筒から口を離した綾瀬は、話し続ける。
「うん。
複雑な家庭の子と友達になるなって親は、やっぱりいるだろう。
………本人に問題はないのにな。」
少しの間、二人の会話が途切れた。
それぞれ十太郎の過去を勝手に想像してしまう。
「俺は、西岡ボーイに興味がある。」
綾瀬がそう言うと高本は、意味深な顔になった。
このホモ、本気で十太郎を…?
「初めて、初めて会った時だ。
あいつは、俺を見て、勝てるなコイツ。
…そんな顔をしていたんだぜ?」
綾瀬がそう言って再び剣を振るう。
高本は、目を丸くした。
「俺の体重は、100kg。
100kgだぞ?
それも戦うために作った本物の筋肉だ。
誰だって俺を見ると…。
ああ、こいつに殴られたら俺は、負けるな。
そういう顔をしてるんだぜ。
世界チャンプだった親父や兄貴、トレーナー、対戦相手もだ。
なのに西岡ボーイは、怖がらなかった…。
ああ、デカいな。
でも勝てるな。
あいつの顔には、そう出てた。」
戦士である前に演者たれ。
その演技は、人の観察から始まる。
それが父、秀愛の教育方針だ。
綾瀬は、その教えに従い他人をよく見る。
それは、相手の体調や思考を読み取る技術を培った。
戦闘では、1手も2手も相手を先んじる武器となる。
そんな彼にとって十太郎は、不気味だった。
自分を怖がっていないだけでなく二人分の挙動をする。
表情が違う、歩き方が違う、食べ方が違う。
一人の人間が2パターンの動作をしている。
もちろん一流の役者にとってそれも技術の一部だ。
しかし十太郎は、あまりにも異質だ。
「ハッキリいって頭のネジが飛んでると思った。
でも一緒に居て西岡ボーイは、馬鹿じゃないと分かって来た。
まともな人間なのに俺に勝てると思ってるんだ。」
綾瀬がそう話すのを聞いて高本も考えた。
すぐ夜の十太郎が思い出された。
普段と違って強気な男だった。
あれが十太郎の自信の源?
時折、見せる大胆不敵な言動は、セックスの自信?
それが綾瀬の前で強気になれた理由ってこと?
「なんで戦わなかったの?」
高本が綾瀬に訊いた。
それは、高本にとって当然の行動だ。
アスリートは、どんな相手にも勝ちに行くもの。
勝つのが好きな彼女にとって戦わないという選択肢は、認められない。
それが彼女の人生観だ。
綾瀬は、高本の質問に答える。
「西岡ボーイの体重は、60kgもない。
100kgの俺が勝つのは当たり前だ。
そんな相手に俺から挑戦するのは、みっともないじゃないか。
勝てそうな相手に勝負を仕掛けるなんて…。」
綾瀬は、そう言って連続で剣技を奮う。
盾と剣の見事なコンビネーションと足運びだ。
そんな綾瀬に高本が言った。
「それも分からない。
だってコイツには、勝てるって思われててなんで勝負しない?」
高本も次第に興奮して来た。
あの十太郎に綾瀬が臆していた。
自分たちのリーダーとして、アスリートとして許せない。
正直いって高本も十太郎を下に見ていた。
《プリースト》ということを差し引いても彼は、守られる側だと。
それが戦わずにして───
「そう思うか?」
綾瀬の手が止まる。
時間だ。
一斉にクランのメンバーが集合する。
休憩は、済んだ。
次の街に向かう探索を再開する時間が来た。
「………西岡ボーイが俺の前に現れたら。
その時は、勝負を挑むよ。」
そう綾瀬は、高本に宣言した。




