細川クラン第22砦
細川クラン第22砦。
シャディザール周辺に建設される砦の中で最新のもの。
そしてもっとも西に位置する。
細川クランの砦は、ペシュカネル近郊の第1砦から順に21基連なっている。
22回も砦を作ると、その手並みは、かなり上達していた。
今、彼らが全クランでもっとも西に進んだクランとなった。
「岩戸の頭がいいのは、否定しませんけどね。
結局、数ですよ。」
細川頼母は、そう言って笑った。
砦の中、十太郎と細川が会談している。
日除けの下、砦の広場を一望できる場でテーブルを囲んでいた。
「今、どうなってんの?」
十太郎は、砦の中の景色に圧倒されながら話している。
今も二人の周りを大勢の人間が動き回っていた。
「現地民の奴隷を使っています。
《ベアラー》は、今後の冒険に欠かせません。
ゲームごっこだと今の10倍は、荷物を運ぶことになる。」
シャディザール以西は、一層、水源が少なく砂嵐も過酷だ。
大量の《ベアラー》と砦の構築が西進の鍵を握る。
「武器も自分たちで作ることにしました。
街の武器屋は、かなりぼったくっています。」
そう話す細川の目線の先を十太郎は、見る。
大勢の高校生たちが鉄を溶かし、武器を作っている。
鉄床に繰り返し、ハンマーを奮う音がリズムカルに響く。
まさに一大生産工場だ。
「彼らは、戦うのが好きじゃない人たちです。
でも異世界や冒険には、興味があるらしくって。
ああして私のクランに協力してくれています。」
細川がそう言うと十太郎も頷いた。
「ああ。
俺も前にタナスルで見かけたよ。」
二人が話していると大鷹の飛行編隊が砦に向かってくる。
聖夏の率いる《Pライダー》部隊だ。
《Pライダー》は、とんでもなく金がかかる。
騎乗用の大鷹を飼育するにも施設が必要だ。
これだけの部隊を揃えるには、細川クランのような方針が必要だろう。
「《ディガー》という職業も登用したんです。
地面を掘削して鉱物を掘り出します。
ここで作られる武器の原料です。
各地の砦に地下鉱山を作り、《Pライダー》で輸送させています。
安藤さんは、なかなか部隊長としてサマになっているんですよ。」
そう言って細川は、角杯に手を伸ばす。
十太郎にも良く冷えた上等なワインが振る舞われていた。
「で、人数は?」
「流石に外部に数字は、教えられません。
ここで作る武器、採掘量、戦力などは。」
細川は、そういって微笑んだ。
しかし十太郎は、引き下がらない。
「俺は、地図情報を出すと言った。
手を結ぶならすべてを明かすのが対等な条件だろう。
お前もクランの情報を出す約束だ。」
「そちらの情報の価値も分からないのに無茶ですよ。」
のらりくらりと細川は、はぐらかすつもりだ。
十太郎が詰め寄ると細川は、鋭利な眼光で睨み返した。
静かな視殺戦に展開する。
やむなく十太郎も出方を変える。
「じゃあ、俺は、PKヘヴンに着く。」
十太郎は、凄んだ。
細川も若干、顔が引き攣る。
「………そんなことをいまさら…。」
「………。」
十太郎は、何も言わない。
ただ細川のことをじっと見ていた。
結局、ややあって細川も降参した。
「………ウチのクランは、5000人です。
正確な数は、勘弁してください。」
「それだけあってPKヘヴンと戦わないのは、なんでだ?」
十太郎は、ストレートに訊いた。
細川は、困ったように作り笑いする。
「言ったようにほとんどが非戦闘員です。」
「命令できるんじゃないのか?」
続けて十太郎は、遠慮なくいった。
これには堪らず細川は、失笑する。
十太郎の態度は、怖いもの知らずだ。
細川は、大きな組織に関わっている。
もちろん悪の秘密結社の大幹部とか漫画みたいな展開ではない。
秘密どころがネットで検索するとバシバシヒットする某団体有力者の息子。
そういった現実の人間関係でクランを支配していた。
その気になれば十太郎の家族を抹殺することも吝かではない。
「私は、彼らにもこの世界、冒険を楽しんで欲しい。」
細川は、角杯を手に話し始めた。
「私は、ピラミッドを作らせたい訳じゃありません。
互いに協力し合って楽しく過ごせれば良いと思っています。
支配の本質は、奉仕です。
私がやりたいことを彼らに強制するのは、私の望みじゃない。
私は、彼らの望みを実行する為政者たりたいのです。」
細川がそう言うと十太郎も反撃する。
「……それは、お前が総理大臣になってからすればいい。
この国の総理大臣は、戦えと命令することを禁じられてる。
でもお前は、そんな縛りがないだろう?」
この言葉は、細川を少なからず苦しめた。
しかしやはりOKは、出さなかった。
「ですが私のクランの皆は、戦いたくないと言っています。
私は、戦わないクランのリーダーなんです。」
細川クランは、専制的民主主義を布いている。
リーダーは、細川以外あり得ないという専制主義。
しかし方針は、クランのメンバーによって決められる。
「私たちは、戦いたくありません。
そのために協力してくれるクランを求めています。」
「それは、お前らの代わりに戦ってくれるクランか?」
十太郎は、テーブルの上に身を乗り出して言った。
「連中は、無抵抗の奴らを狙ってる訳だろ?
戦ったら勝てるのに。」
「………私は、クランの仲間に強制しません。」
悲しそうに細川は、そう答えた。
黒い髪が肩から落ちる。
理想じみたものがあるようだが、これじゃ平行線だな。
と十太郎も夜桜も諦めた。
「どこまでも自分たちが戦わないのに。
……代わりに戦うクランを探すのか。」
そう言って十太郎は、席から立ち上がった。
座ったまま細川は、顔を十太郎に向けて言った。
「受け取った地図情報と引き換えに我々は、補給を約束します。
しかしそれは、あくまで細川クランが健在だからこそ。
………PKヘヴンと戦って貰えませんか?」
二人が話す間、ガレオン船に食料や水、装備が運び込まれていた。
破損した箇所の修理、補修なども同時に進められている。
「分かった。
PKヘヴンと戦争だ。」
十太郎がそう言うと細川は、一安心したらしい。
これで国民の不安は、ひとつ取り除かれた。
「ありがとうございます。
クランのリーダーとして感謝します。」




