登校
十太郎は、今日も学校に行く。
「ふあ~っ。
たまには、私も学校に行こうかな。」
義姉のメイがそう言って背を伸ばした。
義姉の運転する車に義妹の葵も同乗する。
義妹は、途中まで乗せて貰い、中学校で降りる。
「いってらっしゃい。」
十太郎は、義理の姉妹を乗せた車に手を振った。
だが胸に大きな重りを感じながら通学路を歩く。
(ふん。
別に心配いらねえと思うけどなァ。)
十太郎の頭の中で夜桜がいった。
(葉月は、テメーのためなら大抵のことはしてくれるんじゃねえか?
尻の穴を舐めるぐらいは…。)
(茶化さないでくれ。
今日は、本気で余裕ないんだ。)
十太郎がそんなことを考えていると
「おはよー!」
葉月の声がした。
まだいつもの駅は、遠い。
自転車で家の前までやって来ていたようだ。
「葉月、お前、ここまで来たのか?」
少し驚いた十太郎が訊く。
訊かれた葉月は、ちょっと質問の意味が分からなかった。
「はははっ。
ちょっと早めに出てくるだけのことじゃない。」
そう言って葉月は、朗らかに笑う。
十太郎は、ちょっと涙が浮かんでグッと来た。
「ありがとう。
すっげービックリした。」
「行こうか!」
土曜にデートして朝、別れて以来だ。
しかしお互いに恥ずかしい。
(あッ。
そういや夜桜、お前ずっと俺を無視してたろ。)
思い出したように十太郎は、夜桜を咎める。
だが向こうは、涼しい顔で答えた。
頭の中のことだが。
(ああ…。
葉月とセックスするのに私に見られたら嫌だと思って。
横から口出しするのも野暮でしょ?)
「あ…。」
十太郎は、しまったという顔になる。
夜桜は、すぐに否定した。
(見てないし、何も聞いてないから安心しな。
葉月が可哀そうじゃん。)
(なんで分かったんだよ。)
(いろいろとボロボロになってたから。
人間、キツイ時は、誰かに甘えたくなるものだし。
そんなに難しい事じゃねえだろ。)
といって夜桜は、鼻で笑った。
だが十太郎の頭の中。
夜桜にも聞こえない深層では、全く違う考えが巡っていた。
獅子王伊豆守。
葉月に告白する段になってかかって来た電話。
夜桜は、あれを知らない訳だ。
(なんだったんだ、あの…。)
(はあ?
なんだって?)
夜桜が訊いて来たので十太郎は、無様に誤魔化した。
(ななななななななんでもないっ。)
十太郎と葉月は、駅に向かう。
しかしなんだか違う。
二人の思い描く今日は、もっと明るいはずだった。
10年越しに出会い、結ばれ、互いの気持ちを確かめた。
なのにこの違和感は、なんだ?
「………。」
「………。」
二人は、以前より静かに電車で学校に向かった。
「最近、金が大量に出回ってないか?」
個人投資家らしい数名がPCの前で雑談している。
「量は、それほどでもないが。
………ほぼ毎日、欠かさず出るな。」
「どこから出てるんだ?」
「別に今は、暗号資産とかあるし。
金も電子製品に使うから増えても減らせるけどな。」
「どっから出てんだよ。
誰かチート能力でリサイクルショップでも始めたか。」
「戦争の時の略奪品とか。
M資金?」
「徳川埋蔵金?
いいぞぉ…あはは!!」
「アメリカの陰謀じゃね?」
「インドか中国だろ。」
「適当な事言うなよ。」
《スケロスの窖》から持ち出された金貨、宝石は、質屋などに流れている。
皆、何かしらの手段で現金に替えていた。
その量は、世界のあちこちで話題になるほどになっている。
もちろん各国政府も馬鹿ではない。
幾ら好きたい放題、学生が流しているといっても限度がある。
金の市場をコントロール出来る範囲に納まっていた。
「とりあえず今日も金市場に注目だな。」
(………愚かですわね。)
徳川龍外は、そう思っていた。
歴史上、何度となく大恐慌や経済破綻が叫ばれた。
しかし本当の支配者は、庶民よりいち早く危機を知らされている。
常に膨らんだ経済の返り血にされるのは、庶民だ。




