四人組
やがて1時間。
三人は、やっと2~3kmぐらい進んだだろう。
ここまでは、ゴブリンと戦う他の生徒たちの姿があった。
しかしペシュカネルから離れるとゴブリンの姿もまばらになる。
「一応、ゴブリンどもの落した物は、回収してある。
あとで皆に配るからね。」
ジョーは、そう言って膨らんだ革袋を二人に見せる。
「なぁ~んでゴブリンがこんなものを?」
結城が首を傾げる。
どうもこの馬鹿は、財宝を回収するということをしてこなかったらしい。
通りで武器が連中の物と同じ訳だ。
「俺たちを誘い出す為じゃない?」
十太郎は、そう言いながら水筒に手を着ける。
「は!
まさかお前ら、金なんかの為に戦ってたのかァ?
持って帰れなきゃ意味ねーのにさ!!」
結城は、爆笑する。
ジョーと十太郎は、申し訳なくなった。
「持って帰れるみたいだよ?」
「なにっ!!
そんな話、聞いてないぜ!?」
調べてなかったんだろう。
それと口には出さず、ジョーと十太郎は、苦笑いする。
「ああ、ああーっ!!」
急に三人が日除けに入った木の上から声がする。
驚いた三人が一斉に見上げた。
「わ、私も連れてってください!!」
太い枝に女子がしがみ付いている。
明らかにRPGの僧侶と思しい衣装の日本人だ。
「なんでそこに?」
「うう…。
仲間に、あのカス男たち、私にレイプしようとして来たんです!!」
と女の子は、必死に訴えた。
身の危険を感じ、とっさに木の上に逃げ込んだ。
登って来ようとするカス男たちを棍棒で殴り返して撃退。
しかし置き去りにされたということか。
人間って怖いな。
「男ならここにもいるぜ!?」
面白がった夜桜が彼女を揶揄った。
一斉にジョーと結城が目を剥いて怒る。
「悪い冗談は、止めろよ!!」
結城は、そういって正義感を振りかざした。
「そんなカス男と俺たちは、違うから降りて来て!!」
「カスじゃない男がいたら366日生理痛でも良いぜ?」
夜桜が腕を組んで女悪魔の笑いをあげる。
ジョーが肘鉄を入れて十太郎が仰け反った。
(痛ッ、なんで俺が…!!)
「えーっと、えーっと。
もし君が366日、体調が悪くても怒らないから!!」
と結城は、木の下で喚いている。
両手を振ってジャンプする。
どんな説得だよ、それ。
と流石に女の子も鼻白む。
だがこのままでは、男に乱暴されるどころじゃない。
木の上でチーターの餌食にされてしまう。
あるいは、もっと恐ろしいモンスターに…。
「わ、分かりました。」
降りて来た女の子は、流石に可愛い。
これは、男たちが乱暴目的で連れ出す訳だ。
(おい!
夜桜、お前なあ!!)
十太郎が頭の中で怒鳴る。
夜桜は、相変わらず、けらけらと悪魔みたいに腹を抱えて笑っている。
頭の中で腹を抱えるというのも分からないことだが。
木から降りて来た女の子に結城が代表して皆を紹介する。
「俺は、結城壮馬。
こっちは、ジョー・マクフェアノール。
で、彼が西岡十太郎。」
今、丁度、十太郎は、夜桜と押し問答の最中だ。
顔が物凄い勢いで表情を変え、三人は呆気に取られている。
「この人、何してるんですか?」
木から降りて来た女子は、目を丸くしている。
こんな芸当は、なかなか見られるものじゃない。
「か、顔の体操じゃないかな?」
とジョー。
「………すごいな。
すごいなァ。
すごい早いな!」
そう言って結城は、感心していた。
本当に顔の体操という健康法があると信じているらしい。
「ああ、スミマセン。
私、木津原美緒です。」
木から降りて来た女子は、そう自己紹介した。
「その恰好は、クレリックってこと?」
結城が木津原に訊ねる。
確かにそれっぽい恰好をしていた。
「いいえ。
まだLv3でクラスチェンジは、出来ませんよ。」
「クラスチェンジ。
そういうのもあるのか………。」
結城は、納得したように腕を組んだ。
よく分からないがここへ召喚された時、RPGでいう職業も貰ったようだ。
つくづく情報が欲しい現状を思い知る。
ジョーと十太郎もそれぞれ考えを頭の中で巡らせた。
「レベルシステムもあるのか?」
とジョー。
「はい。
………この先、次の街があるらしいんですけど。
そこまで進んだ人たちは、もっと情報を手に入れてるんです。」
「そんなに差が着いてるのか?」
ジョーは、眉を上げて下唇を噛む。
遅れは、想像以上に離されていた。
「当たり前です。
先頭集団は、もう1ヶ月近く、この世界にいるんです!」
「え!?」
十太郎は、目を丸くして驚いた。
それに対して結城は、思い当たるところがあるようだ。
「ははあ。
分かったぜ。
入学前に教科書を読んで例の詩を訳したんだ。」
なるほど。
それなら授業の前に、ここへ来られる。
「マメな奴もいたもんだぜ。」
結城は、そういって猫のように背を伸ばした。
「でも、なんで?」
(そら、ちらっと見ただけで英文を訳せる奴もいるだろ?
そんな長文でもないしな。)
と夜桜が頭の中で十太郎に言った。
「話が脱線したね。
で、クラスチェンジとレベルに着いて知ってることを聞かせて。」
ジョーが木津原に話の先を訊く。
これは、今後の戦略の根幹に関わる情報だ。
「別に、そんな難しい話じゃないです。
普通のゲームとかと同じだよ。
適当に何かしてれば次のレベルにステータスが上昇するの。」
実に明快な答えだ。
一分の疑問も差し挟む余地はない。
「おおおし!!
じゃあ、100万時間修業してレベル100万になって無双だ!!」
結城は、棘の着いたゴブリンの棍棒を振り回した。
しかしそこへ木津原は、冷や水をかける。
「止めた方が良いですよ。
ここに来た時点で皆、《ソルジャー》なんです。
これが基本クラスで能力値の上昇が最低。
もし《ソルジャー》のままで100万レベルになったら。
きっと他の皆の方が強くなってるだけだって。」
「………時間は、条件付きで公平らしいしな。」
ジョーも呆れた顔で結城を見る。
残念そうに結城は、両手を下ろして項垂れた。
「はああ~…なーんだ。
安全そうなところでレベル上げれば最強だと思ったのに。」
三人は、がっかりする結城を見て苦笑いした。
「敵を倒す以外に位置報酬がありますから。
次の街とか特定の場所まで移動すると大量に経験値が貰えます。
そんなことしてたら先頭集団に追い付けません。」
木津原は、またさらっととんでもない情報を漏らした。
こいつ、他人が聞かないと話を思い出さないタイプだな。
(OK、OK。
要するにこの次元を作った奴の考えてることが読めたぜ。
西へ、西へ、先に進むように皆を仕向けてる訳だ。)
夜桜がいった。
十太郎もそこに言葉を付け加える。
(例の詩通り、俺たちを破滅させるまで西に向かわせるのか。)
「なにィィィ!!
じゃあ、とにかく前に進めばいいってことじゃねえか!?」
結城は、位置報酬の話を聞いて再び燃え上がる。
単純な奴だ。
「熱くなるなって。
仕掛けがあるんだ。」
ジョーが結城を止める。
「正直、ここから引き返そうと思ってる。」
彼女の表情は、硬い。
何か面倒な事情がまだあるらしい。
「はあ!?
さっさとカズラクって次の街に行こうぜ!!
西に進むだけじゃねえかッ!!」
「そうです。
まだ先に進めますよ。」
木津原まで結城に同調する。
何もまだ知らない十太郎としては、議論に口を出せなかった。
ジョーが怪訝そうに木津原に訊く。
「知らないの?
ここら辺は、砂嵐が来るんだ。
人間なんかズタズタにされて死ぬような強烈な奴。」
それを聞いて結城と十太郎が一気に青褪めた。
こんな平地で砂嵐が岩や石ころを飛ばして来たら一溜りもない。
それは、戻らないと危険だ。
だが木津原は、平然と首を横に振る。
「着いて来て下さい。
ちゃんと砂嵐を避けて次の街まで行けるんです!」




