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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第1話「来やがれ!ダンジョン学園!!」
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酒場の噂




「ここ入ろう。」


ジョーが案内したのは、大通りの酒場よりもっと静かな場所。

ここは、事情をある程度、知った人間の溜まり場らしい。


店の舞台で宝石を埋めた下着を着け、美女が踊っている。

ここの現地民は、白人とも黒人ともアラブ人とも言えない顔立ちをしている。

そこで日本人の学生は、かなり目立つ。


もっともジョーみたいな日本人もいるが。


「意地悪する気はないから知ってることを話すね。

 まあ、あんまり役に立たないだろうけど。」


「うん。」


ジョーがテーブルに金貨を置く。

すーっと店員が近づいてそれをむずっと掴む。

代わりにビールらしい飲み物を置いて奥に消えた。


「さっきも話した通り。

 英語の教科書にどういう訳か呪文が載ってたらしいの。」


「それ本当?」


「同じ教科書を使ってる高校生が集まってるから。

 っていうのが頭のいい連中の見解だね。」


なるほど。

つむの出来が違う高校生もいる訳だ。


「だから日本の高校生しかいない。」


ジョーは、そういってビールを煽った。

十太郎は、遠慮がちに口を着けるだけだ。

ぬるくて苦い。


「これがある種の選別を兼ねてるの。

 魔法の素養がない、冒険者になれない人間は、ここで弾かれる。

 召喚の呪文が発動しないって訳。


 もし召喚されても勘の鈍い奴は、浜まで辿り着けない。

 分かるでしょ?」


ジョーの話を聞いていた十太郎も腑に落ちたように頷く。


「ああ…。

 最初の漂流物のところで海に落ちちゃうんだ。」


あれは、判断力と体力のテストだった訳だ。

惨めな落ちこぼれは、陸地に辿り着けない。

自分は、夜桜のお陰で辿り着いたイカサマ野郎だな。


「死んだらどうなるの?」


一番、気がかりな質問だ。

この十太郎の言葉を待っていたようにジョーは、答える。


「うん。

 やっぱり、そこだよね?


 平気だよ。

 こっちで死んでも普通にみんな生きてるよ。

 私も何回か危ない目に会っただけで死んでないけど。」


「はあーっ。

 なんだ、良かった。」


十太郎は、安心してビールを干した。

意気込みや例えじゃなく俺は、自分一人の命じゃないんだ。

絶対に死ねない。


しかしジョーの顔は、まだ真剣だった。


「ルールがあるんだ。


 こっちに居られる時間は、公平。

 でも死んだら残りの時間は、切り捨て。

 こっちに来られるのは、1日1回。


 マヌケほど他と差がつくシステムって訳。

 慎重にやらないとね。」


特殊な縛りルールのあるゲームみたいだな。

でもなんでこんなことしなきゃならないんだろう。


次に十太郎は、その点を突いてみる。


「何か目的があるの?」


「んっ。」


ジョーは、革袋をテーブルに置く。

さっきの金貨が入ってた奴だ。


「持ち帰れるんだ。

 こっちで得た財宝とか宝石とか。

 ………武器まで持ち帰ってる奴はいないと信じたいけどね。」


魅力的な話だった。


「まあ、金が要らないならいいよ。

 でも、他に何する訳でなし。

 時間を潰すには持ってこいだしね。」


「なるほど。

 死んでも平気だしね。」


十太郎は、仕方なくビールに口を着けた。

やっぱり苦い。


「もっとも頭の良い連中は、そこで留まってない。

 《スケロスの窖》って言葉を鍵にこの世界を調べてる。」


「スケロス?

 英語の教科書に出て来た名前だね。」


「うん。

 Skelosね、発音。」


といってジョーは、舌を出した。

十太郎は、苦笑いする。


「お、同じに聞こえるけどな。」


「LとRの発声が違うよ。」


ジョーは、そこまで話して店員を呼ぶ。

今度は、適当な料理を注文した。


「ふふふ。

 お宝は、持ち帰れるけどカロリーと糖質はここで捨てて行けるからね。」


「マジィ?

 じゃあ、食べないと損じゃん?」


目を覚ました夜桜が女悪魔の微笑みで牙を剥く。


(くあ~…っ。

 なに、このガイジン?

 ったの?)


欠伸を噛み殺しながら夜桜が十太郎に訊く。

相変わらずの下劣さに十太郎は、目を回した。


(お前の頭には、セックスと暴力と食べることだけか?)


(健全で良いじゃない。)


「ところで。」


早くも骨付き肉に手を出したジョーが


「運動は得意?

 そこそこできる?」


と質問する。


「全然ダメ。」


と十太郎。


「ひゃっひゃ。

 ノーベル殺人賞が貰えるぐらいには、腕が立つぜ?」


と夜桜。


一人の人間から正反対の回答が飛び出す。

しかしジョーは、あまり驚かなかった。


「君、二重人格?」


「え、あ、いや、はははは…。」


十太郎は、恥ずかしそうに手で頭を掻いた。

ジョーは、物憂げに話している。


「私も左右で目の色が違うじゃん。

 よく二重人格になったりしないかって友達に言われるんだ。」


といって青と金の瞳を指差した。


そう言う問題じゃないだろう。

と十太郎は、思ったけれど個性は、人それぞれ。

彼女が言いたいことは、それだろう。


「で。

 武器を買うことになるんだけど。

 ローンってことでいい?」


「返さなかったら?」


夜桜が肉を噛み千切りながらいった。

ジョーは、鼻で笑う。


「あんた、一生、他の連中から仲間にして貰えないかもね。」


「強かったら関係ないね。」


といって夜桜も鼻を鳴らした。


「はっはっは。

 真面目に答えなよ。」


ジョーは、それほど怒っている素振りもなく訊ねてくる。

もちろん十太郎は、真剣に答えた。


「絶対に返すよ。

 約束する。」


「身体で払ってやろうか?」


夜桜がまた悪い冗談をいう。

十太郎は、無理矢理、主導権を奪って夜桜を奥に押し込んだ。


「ごめん。

 ちょっと疲れててさ。」


「ははは、いいよ。

 ………ちょっとらしくない冗談だったけどね。」




ジョーと十太郎は、さっそく武器屋に向かう。

とその途中で声をかける連中があった。


「そこのすっぴん。

 新参者じゃないか?」


これは、十太郎のことをいっている。


相手は、明らかに怖そうなヤンキー風の男子だ。

他にも仲間がいてギャルが日陰で涼んでいる。

全員、キラキラで宝石だらけになっていた。


「良ければ要らないのあげるけど。」


といって斧やハーネスを突き出した。


「ほ、本当ですか?」


十太郎は、ちょっと怖がりながらも手を伸ばした。

しかしやっぱり怖い。


「……の、呪いのアイテムとかじゃ?」


ちょっと失礼とも思ったが警戒してしまう。

恐る恐る相手の顔色を伺う。


不良っぽい金髪の男子は、苦笑いした。


「やっぱ、そー思う?

 違うよ、そんなんじゃないんだよ!

 処分するのに困っててさァ…。」


彼の仲間も困ったように笑った。


「捨てるのもアレだし。

 ほら、欲しい奴がいればあげる気で居たし。

 装備、いま全員分、足りてるんだわ。」


どうやら異世界人も不良には、色眼鏡をかけるらしい。

あるいは、本当に悪い奴なのかも知れない。


待てよ。

こういうのって鑑定スキルとかあるんじゃ?


(夜桜、鑑定スキルってどう思う!?

 そういうのってある!?)


(世界観による。)


きっぱりと一蹴された。


それは、そうだ。

異世界に共通ルールなどない。

ある場所もあれば、ない場所もある。


「おっ!

 そこの!!」


ギャルが急に明るい声を上げた。

彼女は、通りかかった男子生徒を指差している。


「なんですか?」


無視して通り過ぎようとした男子生徒は、振り返って答える。

流石にこの人数に因縁を着けられるのは、危険と判断したらしい。


彼は、××府、公立神野かみの高校の制服を着ていた。

馬鹿でも分かる全国区の有名進学校だ。


「あんたも武器要らない?」


「そんなカス装備、要りませんよ。

 俺、今は何も持ってないだけで装備、ありますんで。」


と神野の男子生徒は、答えた。

傲慢な奴だ。


「武器屋だってそんな装備、買い取らないのも分かるでしょ?

 街中に高校生がウヨウヨ…。

 その程度の武器や防具は、足りてるんですよ。


 君、呪いと関係ないから貰っておいたらどうです?」


と頭に来るが理論的に装備が無害だと結論付けた。

ムカっとするが不良たちも納得しているようだ。


「じゃあ、貰いますー。」


ちょっと恐縮しながら十太郎は、武器を受け取った。

不良たちも小っ恥ずかしそうに譲渡する。


「そうだ。

 君ら、俺らと合流しね?」


派手な恰好の男子生徒が十太郎とジョーに声をかけた。


「仲間ァ、多い方が良いっしょ?」


「いや。

 俺、新人だから足引っ張りそうだし。」


夜桜が十太郎の身体で、そう答えた。

こんな連中と一緒にいたら却って不安だ。


だが相手も引き下がらない。


「えーっ?

 新人だから仲間いたほうが良いでしょ?」


もともとそんなつもりはなかったのだろう。

しかしその場の思い付きで彼らは、完全に乗り気になっていた。


「たった何日か早く来て先輩面か?」


ジョーが拳銃に手をかける。

それは、お互い様だろう。


仲間を増やす。

ただそれだけの行為だ。


しかし相手は、5人でこっちは2人。

何かあった時に集団の中で少数派というのは、保障が効かない。

誰も2人の権利や安全を擁護してくれないかも知れない。


彼らにその気がなくとも、その気にならないと限らない。

7人グループの中で使いっぱしりにされることもある。


この危険性は、人数が増えることで大きくなる。

ここペシュカネルで既にこの関係性に陥った生徒も多い。

大所帯に潜り込んで気が付くと雑用にされている訳だ。


「まあ、いいさ。

 嫌なら無理に誘う事ねえし。」


今回、派手な恰好の生徒たちは、大人しく引き上げた。

しかし彼らが次は、能動的に雑用を探すようになる。


そうジョーと十太郎は、考えていた。


「そ、装備、ありがとう!」


十太郎は、背を向ける一団に声をかける。

彼らも手を振って答えると歩いて行った。




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