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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第1話「来やがれ!ダンジョン学園!!」
18/213

ペシュカネル




目が覚めると二人は、海岸の砂浜に船体の破片ごと打ち上げられていた。


「ふう…。」


無事を確認した夜桜は、安心して溜息を吐いた。


どうして教室から海に転移させられたのか知らないが。

あのまま海を流されていたら3日と持たない。


あるいは、もし陸地に近づいても岩礁や岸壁では助からない。

波で叩きつけられて終わりだ。


地表の7割が海であり、安全な海岸線は2%しかないとも言われる。

何の装備もなく遭難すれば生存確率は、ほとんど(ゼロ)に等しい。


こんなことは、十太郎に話せなかった。

余計、動揺させるだけだ。


「おい、起きろ。

 置いてくぞ。」


夜桜は、十太郎の頭を蹴った。

眠そうに十太郎がぐずる。


「ううう…。

 ちょっと融合してー。」


「はあ?

 なんでこんな時にトロいお前の中に戻らないとダメなんだ!」


夜桜は、目を剥いて怒った。

しかし十太郎は、体力の限界らしい。


「眠いー。」


「……ったく。」


夜桜は、十太郎の中に戻った。

かなり頭に来るが背負って移動するよりは、マシだ。




ペシュカネル。


”船追いの詩”に導かれた冒険者が漂着する町。

夜桜が予想した通り、ここに流れ着かない者に生き残る可能性はない。

空でも飛べるか海の上で何十日も生きられる超生物なら話は違うが…。


周りは、粘土か土でできた四角い家だ。

なんか、こう、アラビアとかにありそうな感じの。

ヤシの木があちこちに活けられていて町全体が庭みたいに素朴で美しい。


「西岡じゃねえか!」


そういって声をかけて来たのは、4組の永井だ。

体育で3組と4組が合同でやった時に顔を見た気がする。

もちろん親しくもないしこれまで話したこともない。


「4組の永井か?

 なんでテメーこんなとこにいるんだ。

 ここは、なんだ?」


夜桜が乱暴に訊くと永井は、ギョッとする。

3組の蜃気楼だとか真昼の幽霊と言われた十太郎がこんな奴だったとは。

誰だってビックリする。


よく見ればRPGの街みたいなところに結構、学生の姿がある。

皆、剣だの弓だのを背負っている。


もともと高校生同士が殺し合っていたような世界から来た夜桜。

彼女にとって故郷のように見慣れた光景だ。


そもそも《転校生》は、願いに応じ、召喚される。

そして召喚先で使命を遂げると報酬として更なる余命を得る。

つまり《留年(括弧つきの留年)》である。


ただし、《留年》を得ると級友たちとの記憶も薄らぐ。

夜桜は、もう多くのことを忘れた。


「俺もなんとか来たばかりなんだ。」


永井が不安そうに十太郎だと思っている夜桜に話した。


「で、俺に声をかけたって訳か。」


まあ、いい。

何かあったとしても私の手に余るとは思えない。

もしそうならこの辺のマヌケ共は、とっくにおっんでる。


もちろん、ここにいる連中。

いや全人類がいつでもどこでもそう思ってるハズだ。

こんなマヌケが生きてるんだから自分は、絶対に大丈夫だ、と。


そして大勢が死んでいく。


夜桜は、そんなことを考えながら永井に着いて行くことにした。


「うわあ…。」


隣を歩いていた永井が呻き声に近い狼狽え方をする。


大航海時代。

勇ましく外洋に出ていった船は、バルバリア海賊の餌食となった。

夢の新世界に出る前に北アフリカ周辺で捕まって奴隷にされてしまう訳だ。


ペシュカネルの市場には、運悪く捕まった高校生たちが並んでいる。

恐らく浜に打ち上げられ、そのまま縛り上げられたのだろう。

街の中なら御法に触れるが街の外で捕えれば奴隷商の手の中だ。


「やっべー。

 おい、西岡、あれやっべーよ。」


「………ああ、奴隷だな。」


大興奮する永井を他所に夜桜は、平静そのものだ。

勇者として異世界を渡って来た身として奴隷制に義憤がない訳ではない。

だが悪を見て瞬間湯沸かし器みたいに大騒ぎするほど幼くはない。


「あいつら、あのまま買われちまうのかな?」


興味本位で自分より可愛そうな人間に盛り上がる永井。

そう思うなら今すぐに自分で動くべきだ。


「そんなことより、ここがどこで何なのか。

 そっちの方が重要だろ?」


夜桜は、永井の腕を引っ張って奴隷市から抜け出した。

無理に引き離されながら永井は、訴え続けている。


「西岡ぁ、お前、冷たくねえか?

 ……おーい!!」


永井を無視して夜桜は、ずんずんと進んでいく。

観念したのか永井も()の後に続いた。


こういう場合は、酒場だ。


もっとも夜桜は、酒など飲んだことはない。

彼女が渡り歩いた世界で酒みたいな時間のかかる代物を丁寧にこしらえる奴はいない。

もっと病んだ娯楽が溢れ、社会が紊乱していた。


歩き続けた二人は、広場のある大通りに出る。

永井は、目を丸くして驚いた。


「ひゃあ。」


古代エジプトの神殿みたいな石造りの建物が広場に面して建っていた。

大通りは、この神殿の正面から伸びている。

猫の女神像は、きっとバステト神だろう。


警備の兵士が大通りを巡回しており、ここは皆、礼儀正しく振る舞う。

彼らは、街を支配する大祭司の手下だ。


バステトは、食人の神───この次元では、()()であり。

大祭司に選ばれた住民は、生贄にされる。

神殿には、供物を喰らう神の眷属と称される怪物が養われていた。


「永井、酒場だ。

 人の集まりそうな場所を探せよ。」


夜桜がいった。

永井は、首を伸ばして大通りに面する店を見渡した。


考えることは皆、同じらしい。

自分たちのように学生が集まっている店があるじゃないか。


「おい、見ろ。

 俺たちと同じドロシーが集まってるぜ。」


夜桜がそういうと永井は、首を傾げて眉を寄せた。


「どろ?

 はあ、何の話?」


竜巻で見知らぬ場所へ飛ばされた”オズの魔法使い”の主人公。

今の自分たちは、ドロシーみたいだという意味だろう。

永井には、冗談に構っている余裕がないらしい。


「……悪い。

 行こうぜ、何か分かるかも知れねえ。」


「あ、え?

 ああ…。」


二人は、他の学生たちの後ろに着いた。

色々な学生服が集まっていて日本中から流れ着いたようだ。


すっかり怯え切った奴、はしゃぎ回ってる馬鹿、様子を伺う者。

それぞれがそれぞれの思惑で今、ここにいる。


やがて疲れていた十太郎が目を覚ました。


(悪い。

 目が覚めた。)


(いいタイミングだ。)


夜桜が十太郎に頭の中で返事する。


(ちょっと私も休ませて。

 今なら何か危険が襲ってくる心配もないし。)


(ええ?

 ちょっとまだこの意味不明な場所にいるの!?)


十太郎は、絶望の声をあげた。

ここは、学校でも自宅でもない。


(あああ~~っ。

 夢だと思いたかったッ!

 変な場所に飛ばされたのも、女の子と合体したのも!!)


(寝かせてくれ。)


夜桜が不機嫌そうに頭のすみっこからぼやいた。

十太郎は、夜桜に謝った。


「あの、ここがどこか知ってます?」


十太郎は、夜桜に代わって調査を始めた。


隣にいる永井のことは、特に気にしていない。

夜桜が歩き回ってる間に自分に着いて来たのだと察しがつくからだ。

むしろ変に驚かない方がいいと考えた。


「ああ。

 ここは、トゥーレっていう場所らしい。」


返事したのは、十太郎が声をかけた相手と違った。

すぐ声の相手に顔を向ける。


「前人未到の最西の海へ帆を張る船は、数知れぬ。

 ………この詩を知ってるか?」


Into the west, unknown of man,

Ships have sailed since the world began.


夜桜と翻訳は、違うが英語の教科書に載っていた詩だ。


十太郎に声をかけた女の乳房は、生気が張っていた。

カウボーイハットに乗馬靴、男の視線を釘付けにする艶姿。

ステーキハウスのポスターになっているカウガールみたいだ。


永井は、その大きく盛り上がったむねに目を点にして固唾を飲む。

すっかり美人に委縮して十太郎の後ろに隠れていた。


「ああ、教科書に載ってる。

 ………英語の。」


十太郎が答えると相手は、相槌を返した。


「あれは、呪文なんだ。

 この異世界に冒険者を誘いこむな。」


「西岡十太郎です。」


十太郎が先に自己紹介した。

カウガールも微笑して答える。


「ジョーだ。」


Jo(ジョー)

日本人にとってボクサー漫画の主人公の名前としてなじみ深い。

しかしこれは、JoanやJosephineの短縮形で中性名のひとつだ。


「永井です!」


「君のその恰好はなんだ?」


十太郎は、単刀直入に訊いた。

確かに気になる服装だ。

彼女は、少し恥ずかしそうに苦笑いした。


「たぶん授業が早かったんだろう。

 私は、4日前にこっちに来た。


 ここには、1日1回飛ばされる。

 こっちで1週間ぐらい過ごすと元の世界に戻される。

 だから私は、もう4週間こっちで過ごしてるんだ。


 この服は、自分で手に入れたのさ。」


といってブーツや剣、拳銃を見せる。

だが男子高校生ふたりは、彼女のお尻しか見ていない。

パンパンに膨らんだホットパンツは、なんて見事な曲線を作っているんだ。


「ここに来る目的は、簡単だ。

 何も知らない奴に声をかけて冒険の仲間になって貰うのさ。」


ジョーは、そう言って顎で周りをした。

確かに無意味に騒ぐ馬鹿だけじゃなく情報交換や仲間を作っている連中もいる。


「情報がある方が主導権を取れる。」


十太郎は、含みのある表情でそういった。

するとジョーは、すっかり気に入ったのか微笑を浮かべる。


「話が分かるじゃないか、西岡君。」


そんな二人の横で永井は、大興奮していた。


「じゃあ、冒険者のパーティってこと!?

 教えてください、ジョーさん!!」


「お前は良い。」


ジョーは、そういって手を振った。

いきなり雷を落されたように永井は、青褪める。

もちろん十太郎も目を丸くした。


一瞬で三人の間にシビアな空気が流れる。


「勘が鈍そうなやつと組んでも仕方ない。」


ジョーは、そう言って腕組みする。

カウボーイハットの影で青と金の瞳がギラギラと光る。

まるで雌豹だ。


「そ、そんな。

 じゃあ、西岡は、お眼鏡に叶ったってのか!?

 いったい何が!!」


「今、他人任せで後ろにくっ付いてただろ?」


ジョーの言葉は、辛辣だ。


「ここを見てみな。

 誰からも相手にされない連中があぶれてる。

 これは、当たり前のことさ。」


学校で誰からも相手にされてないのは、十太郎だ。

だが、だからこそやり直しの機会を探している。

それがここで差をつけた。


十太郎は、複雑な心境で唇を噛む。

喜ぶに喜べない。


「とりあえず、やる気がありそうなやつを捕まえたかった。

 じゃあな。」


ジョーは、それだけ告げて十太郎を連行していった。


しばらく十太郎は、歩きながら後ろを振り返っていた。

永井は、人混みの中に飛び込み、仲間を探している。


彼の良い出会いを祈るしかない。


「はああ…。」


歩きながらジョーが溜め息をつく。


「ごめんね。

 あれ、君の友達?」


さっきまでと感じが違う。

冷や汗を浮かべ、苦笑いをしていた。

普通の10代の女の子だ。


「いや、違うけど…。」


「え?

 じゃあ、なんで一緒に居たの?」


「………あいつが俺を見つけて着いて来ただけだよ。

 別に学校じゃ話したこともない奴だし。」


罪悪感を両肩に背負いこんで十太郎は、そういった。

ジョーも似たような感じだ。


「あんな酷いことしたくなかったけど。

 ………察して!」


事情は分かる。

みな、いっぱいいっぱいなんだ。


「このおっぱいもね。」


といってジョーは、自分の胸元を指差した。

健康な男子高校生は、思わずまるごと手を伸ばしたくなる。


「こうして目立つようにやってるの。

 女は、たいていこの作戦でいってるね。」


なるほどと十太郎は、頷いた。


男は、最低だな。

でも、お陰で良い物を見せて貰った訳だ。


「ジョーさんは、一人なの?」


「ごめんね。

 悪いけど一人なんだ。」


(夜桜を起こせば3人にできるな。)


十太郎は、そう思って頭の片隅で寝ている夜桜を見た。


彼女の過去がそうさせるのだろう。

夜桜は、涙を流して泣いていることがある。

だから寝顔を覗き込んだりしないと十太郎は、決めていた。




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