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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第1話「来やがれ!ダンジョン学園!!」
17/213

放課後




6時間目が終わり、帰りの時間になる。

皆、友達とじゃれ合いながら帰りの準備をしている。


春風高校は、何の取り柄もない普通の私立だ。

私立の癖に特に何にも力を入れてないというのが不自然極まる。

しかし自然は案外、人間が想像する以上に不自然である。


故に部活などに熱中する生徒もほとんどいない。


「んんっ?

 ……なんだ、これ?」


十太郎は、机の中から何かを見つけた。

それは、覚えのない封筒だった。


(おっ。

 友達の居ない寂しい十太郎君に愛のお手紙か?)


いつものように夜桜が冷やかした。

しかし今回は、一瞬で彼女も、ハッとする。


その封筒、青白い金属で出来ていてそこら辺で買えるようには見えない。

アルミのように軽いが、硬く丈夫そうな素材で安っぽい物ではない。

何より、古風な紋章入りの封蝋がされていた。


誰かのイタズラにしては、手が込んでいる。


(ちょっと待て。

 異世界で何度も召喚されて来た私だが……。

 こういうのは、あまり見ないぜ。)


そう話しながら夜桜は、入念に封筒を調べる。


(正真正銘の呪いの手紙か?)


十太郎も真剣になった。


8ヶ月。

8ヶ月も異世界から召喚された《転校生》と一緒にいる。

こいつが真面目に反応するのは、初めてだ。


内心、エロいだけのビッチだと思っていた。

いや、この世のあらゆる快楽を与えてくれる凄いビッチだ。


(おい!!

 たまに真剣になったと思ったら何、勝手なナレーション入れてんだ!!)


(ひゃっひゃっひゃっひゃ…。

 お前を怖がらせたら悪いと思ってェ。)


しかし今度は、真剣だ。

夜桜は、正体不明の封筒を調べる。


(神道系でもグリモワール系でも密教とかヴードゥーでもない。

 ケルトの魔女術に近い気がするが……。

 ……強いて言えば……。)


封筒そのものを開けずに施された魔法を見破る。

これは、なかなかに骨が折れる作業だ。


夜桜がふざけてたり、嘘を吐いてる訳じゃないことは十太郎には分かる。

彼女は、異能を───魔力とか霊験といった。

超自然的なパワーを十太郎は、初めて感じていた。


たん!


すっかり静かになった教室に物音が響く。

驚いた十太郎は、音のする方向に振り返った。


「それは、招待状。

 ───《スケロスのいど》に冒険者を誘う。」


一人、見知らぬ女子生徒がそこに立っていた。

それも、とびっきり美人の。


春風ウチの生徒じゃない。

帝神ていじん学園の制服を着ている。


「……ごめんなさい、驚かせて。

 何としてもこの事を貴方に伝えたくて。」


女子生徒は、そう言って微笑んだ。

その表情は、絶対に伝わらない何かを訴えていた。


「ふん。

 お前、頭大丈夫かァ?」


夜桜は、十太郎の身体を操ってそう言った。

指で自分の頭をつつく。


「つーか、それ、帝神の制服じゃねえか。

 他所の学校ガッコに入って来て何、冒険者だ。」


夜桜は、そういって女子生徒に近づく。

相手の方は、怯えるでもなく毅然としていた。

その態度は、夜桜の方が滑稽に見えるほどだ。


「男に構って欲しいのか?」


十太郎のコントロールを抑えて夜桜は、女子生徒の身体に手を伸ばす。

頬、乳、腰、下腹部を悩ましい指使いで刺激する。

穏やかな愛撫ではあったが経験の乏しい女でも官能を刺激されるものだった。


謎の女子生徒の頬が赤く染まる。

それまで夜桜の邪念など気にも留めなかった態度が崩れていく。

そして遂にうっとりとした吐息が漏れ始めた。


「………あッ。」


堪えがたい春情に謎の女子生徒の肩がピクリと動いた。

謎の女子生徒は、夜桜の手を払って逃げるように身を引く。


「………ふふ。

 いずれまた会いましょう。」


そう言って謎の女子生徒は、十太郎に背を向ける。

そして静かに立ち去ろうとしていた。


「………できれば会わない方が私のためなのかも知れないけど。」


「なんで!?」


十太郎がようやく夜桜を押し込んで主導権を握る。

彼は、女子生徒の背中に向かって叫んだ。


「貴方に会わなければ良かったッ!」


黒い長髪を揺らして女子生徒は、振り返った。

その目には、戸惑いと恐怖があった。

その感情がどこから来るのか十太郎にも夜桜にも分からない。


「なんだ、あいつ。」


呆気に取られた夜桜が腰に両手を着いていった。


「………封筒を開けてみれば分かるんじゃないの?」


十太郎は、そう言って封筒を持ち上げる。

封蝋に思い切って手をかけた。

しかし相手は、想像以上に手強い。


「硬い…。」


金属でできた封筒は、見た目以上に頑丈だった。

見た目がただの蝋燭に見える封蝋さえ外れる様子がない。


「ちょっと代われ。

 この、くそ……!」


夜桜が十太郎の身体から分離した。

異世界の勇者だった彼女の怪力は、並ではないハズ。

だが全く歯が立たない。


「嘘だろォ?」


「………ちょっと待って。」


十太郎が夜桜の手から封筒を受け取る。

見た目に薄っぺらい金属の封筒は、まるで変形一つしていない。

指の跡ひとつ残らず、氷のように冷たい光沢を維持している。


「………ここに指紋がある。」


十太郎が見つけたのは、封筒の隅にあった模様だ。

それは、注意深く見ると絵図やデザインではなく人間の指紋に見える。


十太郎は、それに右手の親指を押し付けた。

すると封筒から封蝋が剥がれ、形状記憶合金のように一枚の長方形に広がった。


「はははっ。

 ………手紙なんて古風だね。」


と十太郎は、冷ややかに笑った。

どっと疲れが噴き出したのだろう。


夜桜も苦笑いする。


「ああ…。

 で、なんて書いてあるんだ?」


「いんとーうぇすと、あんのーんおぶまん……。」


それは、《スケロスの窖》に誘う詩。

英語の教科書に載っていた文章だった。


Into the west, unknown of man,

Ships have sailed since the world began.

Read, if you dare, what Skelos wrote,

With dead hand fumbling his silken coat;

And follow the ships thru the wind-blown wrack--

Follow the ships that come not back.


エイボンの書は、ハイパーボリアの大魔道士エイボン。

あるいは、彼の弟子サイロンが著者だと信じられている。

いずれにしても100万年以上前の話だ。


現代まで残っているのは、すべて写本である。

言うまでもない。


9世紀、カイアス・フィリパス・フェイパーのラテン語版。

13世紀、ガスパール・ド・ノルドのフランス語版。

20世紀、エルネスト・デ・マルティーノの英語版と現代イタリア語版。


世界中、数多くの写本が残っているが原書はハイパーボリア語で書かれていた。

当然、翻訳を繰り返す間に内容のほとんどが欠落している。

ミスカトニック大学にも不完全な断片が幾つか保管されているのみだ。


しかし幸運なことにエイボンの書には、補完する別の古書が存在する。


キタブ・アル・アジフ(神鳴の書)

つまり死霊秘法(ネクロノミコン)である。

正確には死霊秘法は、キタブ・アル・アジフの翻訳写本で同一とも言い難い。


この死霊秘法も欠落があるものの幾つかの写本が残っている。

二つの本には、良く似た記述が指摘されている。

ここから著者のアヴドゥル・アルハズラットは、エイボンの書を読んだと考えられている。


問題は、エイボンの書にスケロスの書に関する詩があること。

スケロスの書は、10万年前のトゥーレ時代に著された。

つまり100万年前の本に、そこから90万年後の本が言及されているのだ。


しかし死霊秘法には、スケロスの書に関する記述がない。

これは、アルハズラットが意図的に欠いたと研究者は考えている。

理由は、不明だが情報を秘匿するためだ。


英語版死霊秘法(ネクロノミコン)の著者として有名な錬金術師ジョン・ディー。

彼は、エイボンの書の部分的な英語版も手掛けている。

例のスケロスに関する英文は、彼が残した。


「船を───追って。」


「追い越して、だ。」


ほんの一瞬まで二人は、春風高校の1年3組の教室にいた。

それが今は、大海原に放り出されている。


「ぶえっ!

 ぺっぺ!!」


二人は、手近にあったガレオン船の破片によじ登る。

要領の悪い十太郎を夜桜が引っ張り上げた。


「おい、ほら!」


「ごめん、ありがとう!!」


十太郎は、船の残骸に上がると顔を手で拭った。


「なんで、急に!?」


立ち上がると十太郎は、当たりを見渡した。


船首バウスプリット帆柱マスト、船尾楼などが海面に突き出している。

他にも樽や木箱が浮かび、黒い波の間に揺れていた。

ここでサメや死体が見当たらないのは、せめてもの幸運だろう。


海は、平らな物だと思っていたが実際には波がある。

その波のせいで地平線が隠れたり、自分たちが何mも持ち上がったりした。

お陰で十太郎は、大騒ぎだ。


「うああああ!!

 うわああああ!!」


波に揺られ、ガレオン船の残骸は、木の葉のように揺れた。


「ああ…。

 いい加減に飽きろよ。」


半壊したガレオン船の上甲板で夜桜は、寛ぎながら腐した。

ずっと相棒は、この調子だ。


「だって波が!

 ああ、波が!」


しかしこのままでは、衰弱死してしまう。

太陽と潮風は、思っている以上に体力を奪う。

おまけに海水はあっても渇きを癒す真水がない。


夜桜もなんとか十太郎を大人しくさせようと悩んでいた。

ところが悩んでいる間に十太郎が勝手に弱っている。


「わあ………。

 ああ………。」


さんざん暴れたついでに船酔いしてしまったらしい。

完全にダウンしていた。


「ったく、大人しくなったのは良いけど。

 船から落ちたり死ぬんじゃねえぞ?」


「うう……。」


十太郎は、どんどん衰弱していった。

夜桜が頬をはたき、何度も声をかける。


「おい、なんか。

 なんでもいい。

 歌ってろ。」


「ええ……?」


「寝たら海に落ちるぞ。」


「ぜえ、ぜえ、ぜえ…。

 も、亡者の箱までぇぇぇーにじり登った十五()ィィィン!!!」


波に浚われると聞いて十太郎は、ゾッとしたらしい。

自分の顔を手ではたき、大声で歌い始めた。

眠気と疲れに抗おうと声を上げる。


「おう、そうだ。

 寝たら死ぬぞ。」


「だめ……。

 やっぱり、寝る……。」


「おい。

 おい!

 おい!!」


ぐったりした十太郎を夜桜が揺さぶる。

こっちだってこのんで体力を消耗したくないのに。


十太郎が中学校の頃、オカルト研究部が夜桜を召喚した。

召喚そのものは、目的と違ったが封印は、機能している。

夜桜は、十太郎と合体という状態で閉じ込められた。


そして依り代となった十太郎が死んだ場合、夜桜も死ぬのだ。

この関係性は、十太郎には、働かない。

もし夜桜が死んでも十太郎は、死なないという事だ。


「わ、私まで死ぬー!!」


結局、二人ともぐったりと潮風と太陽で疲れて寝てしまった。


勿論、何も講じなかった訳ではない。

帆のロープで身体を船体に固定しておいた。

これで船の破片が引っ繰り返らない限り、波に流されることはない。




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