表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/153

141.できる限りのこと

 ――都市全体が揺れる。


「きゃっ!?」

「ルーテシア様、お気をつけを」


 バランスを崩してルーテシアを、ハインが支えた。

 共に移動していた護衛の騎士達にも動揺が走った。

 病院までのルートは手薄になっており、戦闘は避けることができた。

 シュリネが目立ってくれているおかげだろう――その分、彼女には危険が及ぶ形になるが。

 誰かが囮にならなければならない――リネイの下へ行くと同時に、シュリネがその役目を担っている。

 提案したのはシュリネで、ルーテシアは当然のごとく反対した。

 義手も未完成で、その上ここはもはや敵地――そんな場所に、シュリネを一人にさせるなんてできるはずもない。


「全員を助かるには、この方法しかないよ。わたしは必ず戻るからさ」


 いつもの自信に満ちた表情で言われ、ルーテシアが折れた形になった。

 シュリネも意固地になっているわけではない――ルーテシアを守るための最善策を提案したのだ。

 リネイとミリィ――特に、ミリィはまだ入院している身であり、連れ出すこと自体がリスクでもある。

 ルーテシアとしても受け入れざるを得ない、という状況にあった。


「結構、大きく揺れたけど……」


 クーリが不安そうな表情を浮かべて言う。

 確かに――要塞都市の内部は地下にあるとはいえ、ここに来て初めて感じる揺れだった。

 何か嫌な予感がする――けれど、今は考えを巡らせている余裕もない。


「……病院はこの先よね。急がないと」

「ミリィさんを連れ出して、シュリネさんと合流する――脱出の際にはここに入ってきた道を強行突破する、という形ですね」

「今のところ、私達の知る出口はそこしかないもの。リネイさんなら、ひょっとしたら別のルートを知っているかもしれないけれど……」


 リネイが共に来てくれるかどうかは――はっきり言えば分からない。

 むしろ、彼女の現状を考えれば、この都市に残る選択をする可能性の方が高いとさえ思えた。

 それでも、関わり合いになった以上、彼女の選択を聞き届けることにした。

 間もなく病院というところで、ピタリとハインが動きを止める。


「ハイン、どうしたの?」

「お姉ちゃん、急がないと!」

「……クーリ、ルーテシア様を頼みます」

「! 何を言って――」


 ルーテシアがそこまで言ったところで、視界に入った人物に気付く。

 ――その男は優しげな笑みを浮かべているが、間違いなく悪人だった。

 ハインとクーリを苦しめ、フレアの命を狙った張本人――キリク・ライファだ。


「心配しなくていい。用があるのはハインだけだよ。君達は早く病院へ向かうといい」


 こちらの意図が分かっているかのように、キリクは言い放った。

 ルーテシアはまたしても、この土壇場で選択を迫られることになる。

 シュリネを囮にするような真似をして、今度はハインまで――どこまでも、ルーテシアにとってはつらい選択ばかりだ。だが、


「ルーテシア様、ご心配なく。必ず戻りますので」


 ハインの見せた表情は、落ち着いたものであった。

 それを聞いて、ルーテシアは静かに頷くと、


「……予定通り、病院に向かうわ」

「! でも……」


 ルーテシアの言葉に、迷いを見せたのはクーリだ。

 彼女はハインを見て、そこに会話は一切ない――だが、何かしらの意図を汲み取ったのか、クーリはそれ以上は何も言わず、ルーテシアと共に走り出す。

 シュリネに引き続き、ハインとも分かれることになり――その上、兵士達には追われる身。

 そんな中でも、ルーテシアは毅然とした表情を見せる。

 この状況だからこそ――ルーテシアまで不安げな様子を見せてはならない。

 クーリだけでなく、護衛の騎士達の士気にも影響することだ。

 実際、ルーテシアの様子を見てか、先ほどまでは落ち込んだ様子だったカーラも指揮を取り始めている。


(私にできることなんて限られている――だから、限られたことで、できる限りのことをするしかない)


 それが、シュリネやハインの信頼に応えることができる唯一のことなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ