表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/153

139.拍子抜け

「アタシを斬る? ねえ、聞いた? やっぱり、ゲルド市長を暗殺しようとしたのはアンタ達なんじゃない?」


 ノルは随分と楽しそうな表情を浮かべて、背後に控える兵士達にいた。

 兵士達もまた――シュリネの言葉を聞いてか、警戒を強めている。


「わたし達には市長を襲うメリットがない」

「ずっと同盟を拒絶されて、その腹いせについやっちゃったんじゃないの」

「仮にそうだとしたら、未遂では終わらせないよ」


 シュリネははっきりと言い切った。

 ――シュリネならば、それこそ人並外れた生命力を持つ相手でもない限りは、確実に仕留めるだろう。


「なるほど、一理あるね。でも、こうして表立って抵抗された以上、アタシもやることやらないとね」

「市長代理、お下がりください。ここは我々が――」

「いいんだよ、アタシがやる」


 兵士の言葉を遮って、前に出たのはノルだった。

 シュリネは少し驚いた表情で彼女を見る。


「……へえ。あなた、戦えるんだ」

「舐めんなよ、小娘ガキ。アタシがただの技術者だと思ったら大間違いだからね」


 そう言いながら、ノルは前に出た。

 本気でシュリネと戦うつもりなのだろう――兵士達はノルの言葉に従い、仕掛けてくる様子はない。

 ならば、先手必勝――先に動いたのはシュリネだ。

 ノルとの距離を詰めると、彼女に向かって刀を振るった。

 シュリネの動きに気付くのが遅れたのか、ノルは回避行動を取るのではなく――素手でシュリネの刀を受け止めようとした。

 当然、シュリネは構うことなく振り切る――通常であれば、掌を両断することになるだろう。

 だが、ノルはシュリネの刀を素手で受け止めた。


「!」


 シュリネは驚きに目を見開く。

 すぐに、耳に届いた音で気付く――刀を完全に握られる前に、シュリネは後方へと距離を取った。

 見れば、ノルの掌は肌が少し破れている。


「……魔導義手」


 シュリネは呟くように言った。

 ――わずかに見える灰色の質感と、刀が接触した時の金属が鳴り響くような音。

 ノルの腕は魔導義手になっているのだ。


「キヒヒッ、いい代物だろ? 強度も十分――こういう芸当もできる」


 ノルはそう言うと、着ていた白衣のポケットからいくつから鉱石らしき物を取り出す。

 それを握ると、軽々と粉々にして見せた。

 仮にシュリネがすぐに下がらずに刀を握られていれば――刀身をへし折られていたことだろう。


「魔導技術に傾倒してるからね。アタシ自身は戦えない――そう勘違いされることもあるけどさ、アンタの細い首をへし折るくらいはアタシでもできるのさ」

「ご説明どうも」


 シュリネはそう言うと、刀を腰に下げた鞘に納めた。


「! まさか諦めるつもり? それはちょっと拍子抜け過ぎるね」

「冗談言わないでよ。あなたみたいなタイプは――速さで勝負するのが一番だと思って」


 言葉と同時に、シュリネの姿が消えた――周囲の者達にはそう見えただろう。

 ノルもまた、シュリネの姿を追えていない。

 最初の一撃で分かったことだが、ノルはやはり技術者であって戦闘が得意ではないのだろう。

 魔導義手によってシュリネの一撃を防ぎ、安易に近づけばシュリネを殺すことは難しくはない――そう自身を強く見せるようにアピールしていた。


「一刀――壊斬こわしぎり」


 強く地面を踏みしめて、その勢いのままに鞘から抜き放った刃で両断する――シンプルだが、両腕を使えないシュリネにとっては、片腕で放つことができる技の中では一番破壊力がある。

 ノルは背後に立ったシュリネの方を振り向こうとするが、


「……?」


 何故か、上半身がゆっくりと回転していく――否、徐々にズレ始めているのだ。


「やっぱり、腕だけじゃないんだね。あなたの妹も全身化け物みたいになってたからさ。同じ感じだと思って」


 シュリネが指摘しているのは、ノルの身体のことだ。

 魔導義手だけではなく、身体もまた人のそれではない。

 魔導義体とでも呼ぶべきか――やはり、『魔究同盟』に属する者達はどこまでも人間離れしている。

 だが、ノルはそれだけだ。

 シュリネにとっては、敵になるほどの相手ではない。


「……キヒヒッ、やるね、シュリネ・ハザクラ」


 斬られたというのに、一層楽しそうにしながら――ノルの上半身は、そのまま地面に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ