137.要塞都市脱出作戦
行動制限が設けられてから二日――その間も、ルーテシアを含めた使節団の面々に対し、聴取が行われた。
どこか別の建物に連れて行かれる、といったことはなかったが、相変わらず自由は与えられていない。
だが、いよいよを以て動かなければならない時が来た。
「ルーテシア・ハイレンヴェルク様、ノル・テルナット市長代行がお呼びです。ご同行いただけますか?」
武装した兵士達が、ルーテシアの部屋にやってくるなり言い放った。
当然、シュリネはルーテシアについていこうとするが、
「護衛の方はこちらで待機いただけますか?」
そう言って、シュリネの動きを制止する。
明らかな殺気――下手に動けば、この場で殺すことも厭わないという対応。
ちらりと、シュリネはルーテシアに視線を送る。
ルーテシアはやや迷った表情を見せながらも、小さく頷いた。
「――行動開始だ」
言葉と同時に、シュリネは腰に下げた刀を抜いた。
そして、目の前にいた兵士達に一撃を加える。
シュリネの素早い動きに反応できる者はおらず、あっという間に兵士達はその場に倒れ伏した。
「殺しては……いないわよね?」
「刃のない方で叩いただけだからね。当たり所が悪いと死ぬかもしれないけど」
シュリネは冗談めかして言ったつもりだが、ルーテシアの表情は引き攣っている。
――これは強硬手段だ。
シュリネとルーテシアは行動するための条件をいくつか定めていた。
一つはノルからの直接の呼び出し――これに関しては、シュリネの同行が認められる場合には、拒絶しない。
何かあったとしても、シュリネがすぐ傍にいれば対応ができるからだ。
だが、シュリネの同行も認められず、ルーテシアだけが連行される場合――これは認めるわけにはいかない。つまりは、
「結局、シュリネの案が採用されることになったわね……」
そう言いながら、ルーテシアは暗い表情を見せる。
残念ながら、ここはすでに敵地だ――武力行使に出たということは、すぐにでも知られることになるだろう。
すでに部屋の外は騒がしくなりつつある。
「一先ずハインとクーリの二人と合流しよう。それと、護衛の騎士も助けないとね」
「『護衛の騎士を助ける』、なんて言えるのは貴女くらいだと思うわ」
「実際、この作戦はわたしとルーテシアでしか話してないわけだから、行動できる人間は限られ――」
「ぐあああっ!?」
話している途中で、外から悲鳴にも似た声が響く。
シュリネは即座に反応して部屋を飛び出すと、
「やはり、あなたでしたか」
そこにはハインの姿があった。
周囲には兵士が倒れており、シュリネも思わず苦笑いを浮かべる。
「やはりって……よく兵士に手を出すなんてことできたね」
「あなたに言われたくありません。おそらく、騒ぎが起これば――あなたが何かしらの行動に出たと考えるのが道理でしょう」
「……わたしの行動は予測されてたってわけね。まあ、話が早くて助かるけど」
「クーリ、部屋から出てください。ここから脱出します」
「う、うん」
ハインに促され、クーリも姿を見せた。
――さすがはハインと言うべきか。
ルーテシアだけながら、おそらくこういった行動に出ることはまずあり得ないが、シュリネがいれば話は別。
事前に、ハインも動くつもりだったのだろう。
「ハイン!」
「ルーテシア様、ご無事ですか?」
「私はシュリネと一緒にいたから。ハインとクーリも、何かされなかった?」
「あたし達はずっと部屋に閉じ込められてただけです。それよりも、脱出するなら急がないと……!」
クーリの言葉に頷き、行動に出た。
――すでに、騒ぎは広まっている。
駆けつけてくる兵士は、シュリネとハインの二人が対応する。
「まだ義手は出来上がっていないようですが、問題ありませんか?」
「ない物ねだりはしない主義だからね。一先ず、このまま護衛の騎士達と合流しよっか」
「承知しました。私が援護します」
「いらないよ、目の前の相手だけに集中してなって!」
シュリネは刀を逆刃に、ハインは武器すら持たず、格闘術のみで武装した兵士を相手取る。
――彼らが訓練されていることはよく分かる。
武装も特殊であり、持っている棒状の武器は魔力を変換して電撃が流れる仕様となっているようだ。
つまり、制圧用――当たれば気絶させることも容易だろう。
だが、二人に当たることはない。
次々とやってくる兵士達のことごとくを倒し、突き進む。
――要塞都市脱出作戦は、こうして始動した。