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130.任せることにした

 部屋に戻り、改めて集まったのはリネイを含めた五人だ。

 彼女はシュリネの魔導義手を作るための素体や道具を準備してきており、先ほどの言葉に偽りはないようだ。


「ええっと、まずはある程度のサイズの目星をつけたいので、右腕を計らせてもらっても……?」

「その前に――どうしてわたしの義手を作る気になったの?」


 シュリネはリネイに問いかけた。

 ――彼女はルーテシアに亡命を依頼してきており、その交換条件が義手の制作であったはずだ。

 ハインの話では、リネイはノルが『選んだ者』だという。

 それはつまり、『魔究同盟』が必要とする存在だ。

 ――果たして、彼女に吸血鬼としての才能があるのか、どこまで知っているのか。

 何も分からない状態では、警戒することも仕方ないだろう。


「……あれから、ずっと考えていて」


 リネイはそう、小さな声で切り出した。


「交換条件つけて義手を作らない、みたいになっちゃったけれど、本当はそういうこと、したらいけないんだなって。ボクは母と約束しましたから」

「お母様と?」


 反応したのはルーテシアだ。

 リネイはこくりと頷いて、


「ボクが子供の頃に死んじゃって。でも、その時のことは覚えてるから。困っている人がいたら、助けられる人になりなさい――それが、ボクと母の約束だから」


 一瞬、どこか迷ったような表情を浮かべながらも、リネイは言う。


「だから――ボ、ボクに任せてくれたら、必ずあなたの腕の代わりを作ります!」

「こっちはあなたの亡命を手伝う保証はないし、わたしは反対してるよ」

「ちょっと、シュリネ――」


 ルーテシアが何か言おうとするが、それをシュリネは手で制止する。


「義手を作ってもらうのはわたしだからね。それでも、あなたは作るって言うの?」

「……亡命は、その……できたらしたいと思ってます。でも、難しいってことも、理解してますから。義手の件、色んな人に聞き込みをしていたのは、聞いてます。そこまで必要としている人に、無理難題を押し付けて作らないのは違うと思っているので……」


 話している間にも、何度か表情はころころ変わっているが――彼女は本気のようだ。

 シュリネは終始、リネイに協力することには反対している。

 亡命の手伝いなど、どう考えてもリスクが大きく――現状、『魔究同盟』がこの都市に絡んでいる以上は、長居することが危険なのだ。

 だが、怪我人もいて、ルーテシアもまだ帰るつもりは微塵もない――シュリネはリネイに向かって口を開く。


「まあ、最悪はわたし一人だけ残ればいいだけの話だから――いいよ。わたしの腕は、あなたに任せることにした」


 ――義手を作るだけでなく、それを扱える期間も含めての返答だ。

 シュリネの言葉を受けて、リネイは少し嬉しそうにしながら、


「で、では、早速サイズの調整をします……!」


 そう言って、シュリネの右腕を計り始める。


「右腕と左腕って長さが同じとは限らないと思うけど」

「完全に一致はしないかもしれないですが、大体の長さは把握できます。細かい調整は後にして、まずは長さと重さでシュリネさんが最も扱いやすい義手の型を作ります」

「ふぅん……義手って見た目も選べるの?」

「しゅ、種類は色々ありますよ。まあ、あんまり奇抜なものにすると調整は大変ですけど、色とかは塗装でどうにかなるので……」

「わたしはかっこいい方がいいかな」

「か、かっこいい……? えっと、具体的には――」


 そうして、気付けばシュリネとリネイは二人で義手作りの話題で盛り上がり、ルーテシアを含めてハインやクーリは置き去り状態となっていた。

 ――けれど、そんなシュリネの姿を見て、ルーテシアは安心したように笑みを浮かべる。


「……ここに来て、ようやく一つ、得られるものがあったわ」

「そうですね。問題は山積みではありますが――シュリネさんの義手ができれば、間違いなく大きな前進です」

「……」


 少し離れたところで、クーリは神妙な面持ちだった。


「クーリ? どうかしましたか?」

「あ、うん……何でもない」


 誤魔化すように言っているが、ルーテシアとハインは察している。

 リネイの立場や状況はクーリに似ていて、彼女は初めから――リネイのことをどうにかしたいと考えているからだ。

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