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127.訂正しよう

「――向こうの話し合いは終わったようだ。君はそろそろ戻っても大丈夫だろう」


 キリクはそう言うと、踵を返してその場を去ろうとする。


「! まさか、本当に警告をしに来ただけ……なのですか?」

「そう言っているだろう。警告――もとい、忠告でもある。おそらく、盟主はルーテシアのことを勧誘しただろう。結果はどうなったか分からないが、君はしばらく目立たないようにしていた方がいいだろうね」

「……」


 キリクの本心が分からない――彼にとって、ハインは紛れもない裏切り者だ。

 それなのに、盟主と顔を合わせないように配慮したり、リネイに関する情報を提供したりと、どちらかと言えば協力的だ。

 元々、本心を掴みにくい相手ではあったが。

 ただ、ハインとしてもこれ以上――キリクと共にいるわけにはいかない。

 ルーテシアにはシュリネがついているとはいえ、『魔究同盟』の狙いはクーリだけではないということが分かった。

 ハインもすぐに戻ろうとしたところで、


「――こんなところでこそこそと、何をしているんですか?」

「っ!」


 姿を見せたのは、護衛の騎士の一人であるカーラだった。

 彼女はルーテシアの傍についていたはずだが、ハインの姿が見えないことに気が付いていたのか。


「ハイン・クレルダ――抵抗はしないようにお願いします。事情は後ほど聞かせてもらいますので」

「待ってください。これは――」

「お兄さんも、動かないでくれる?」


 キリクの前方――姿を見せたのは同じく護衛の騎士であるミリィだ。

 ルーテシアの傍に盟主がいるのであれば、シュリネも彼女達に意識を向けている場合ではなかっただろう。


「その顔は覚えがありますよ。『七曜商会』の長――いえ、元をつけるべきでしょうか。キリク・ライファ……王国ではあなたは手配犯です」

「ここは王国ではないよ、カーラ・ベルス」

「! 私の名を知ってしましたか」

「騎士団の情報については知っているとも。そちらはミリィ・デイルベッド――いずれも、エリス・フォレットの忠実な部下」

「あらら、あたしのこともバレてるみたい」


 元々、キリクは情報を武器にする男だ。

 王国内に潜伏させていた部下から得られた情報は、全て把握しているはず。

 シュリネのようなイレギュラーのこと以外は、情報として持っている。

 だが、カーラやミリィの実力までは把握していないだろう。

 それはハインも同じであるが――


「お二方、彼に手を出してはいけませんっ!」


 ハインは必死に、彼女達を止めようとする。

 だが、カーラは剣を抜き放つと、ハインの首元にあてがった。


「動くな、と言ったはずです。あなたの事情は理解していますし、エリス様からは何かあったとしても穏便に済ませるように、と言伝をもらっています。ですが、これはその『何か』を逸脱する行為――キリク・ライファとの接触など、到底認められるはずもありません」

「……っ」


 カーラは本気だ――彼女の言う通り、ハインの立場はかなり悪いと言わざるを得ない。

 呼び出してきた相手のことを把握していなかったとはいえ、こうしてキリクと接触しているのは事実だ。


「手を出すなって言われても、これがあたし達の仕事だかんね。でも、ここでキリクを捕らえられたなら、間違いなくお手柄だよねぇ」


 そう言いながら、ミリィが構えたのはハルバードだった。

 華奢な身体つきに対して、得物は随分と大きいもの――だが、それを軽々と振るって見せる。


「確かにここは王国じゃないけど、別にあんたもこの国の人間じゃないでしょ? 捕らえる分には何の問題もないはず」

「君の言う通りだ。それで、僕と戦うつもりなのか?」

「大人しく捕まるって言うなら、戦う必要はなくなるけど」

「そうはいかない。――とはいえ、こちらとしても騒ぎにするつもりはないのでね」


 キリクはミリィを無視して立ち去ろうとする――当然、それをミリィは止めようと動いた。


「このまま逃がすわけないでしょうがっ!」


 渾身の力を込めて、ミリィはハルバードを振るう――だが、キリクは軽々とそれを指だけで掴むようにして止めた。


「……っ!?」


 ミリィだけでなく、カーラも驚きの表情を浮かべた。

 キリクは大柄というわけではないし、筋肉質というわけでもない。

 仮にそうだったとしても、ミリィの振るうハルバートはそれだけでも重厚であり――片腕で止めるのは到底、人間業ではない。

 どころか、ミシミシとハルバートの刃先が音を立てる。


「く……この……!」


 ミリィが距離を取ろうとする。

 だが、掴まれたハルバードはピクリとも動かない。

 両腕に渾身の力を込めても、片腕のキリクに全く歯が立たないのだ。


「戦うつもりなのか――そう聞いたが、一つ訂正しよう。僕と君では戦いにすらならない」


 そのまま、キリクはミリィを思い切り蹴り飛ばした。

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