125.それだけは
「……いきなりやってきて、仲間として受け入れる? 全然、意図が掴めないわ」
「言葉通りですよ。私達は能力のある者を常に歓迎しています。ルーテシアさんと、クーリさん――二人とも、『魔究同盟』が求める自在ですから」
ルーテシアだけではなく、狙いにはクーリも含まれていた。
それは当然だろう――元々、クーリは『吸血鬼』になることを望まれていた。
その素質があったから、彼女もオルキスの実験台にされていたのだから。
『吸血鬼』――あくまで、伝承にしか存在しないとされている。
血を操り、不死に近い能力を持っているとされる者達。
ディグロスやレイエルもまた、吸血鬼としての能力を持っていた。
ハインやクーリから、『魔究同盟』の狙いについてはすでに聞いている――素質のある者を残すという考えが、ルーテシアやクーリに当てはまるのだろう。
「貴女達が求めているから――はい、分かりました、なんて言うわけないでしょう。私は、貴女達がしてきたことは許せない」
ルーテシアの表情は、明らかに怒っていた。
――目の前の女性、フィルメアは『魔究同盟』の盟主を名乗っていた。
すなわち、彼女はその組織を束ねる者だ。
ディグロスの異常な強さを考えれば、彼女もまたそれに近しい――あるいは、それ以上の能力を持っている、とも考えられる。
ルーテシアだって、理解しているはずだ。
その上で、彼女の誘いをはっきりと断っている。
「納得するとは思っていません。あなたの言う通り、私達は『リンヴルム王国』に大きな打撃を与えました。本来は、もっとスムーズに事が運ぶ予定ではあったのですが」
そう言いながら、フィルメアはちらりとシュリネに視線を送る。
感情が読み取れない――シュリネにどういう感情を抱いているのか、フィルメアは笑みを浮かべるだけで、何も分からなかった。
「もちろん、何もメリットを掲示せずに『魔究同盟』の仲間に受け入れるつもりなどありませんよ」
「何を言われたって――」
「『サヴァンズ要塞都市』との同盟――これを可能とさせましょう」
「!」
フィルメアの言葉に、ルーテシアを含めてシュリネやクーリすら驚きの表情を浮かべた。
要塞都市との同盟――完全に拒絶されたばかりのこと。
なのに、彼女はそれを可能するという。
「まさか、この都市にも何か仕掛けるつもり……?」
「いいえ? 私は『ヴァーメリア帝国』の使節団としてもここに来ていると言ったでしょう。帝国と要塞都市は同盟を結ぶことになっています。その同盟に、『リンヴルム王国』も加えて差し上げる、ということです」
「……っ!」
別の国との同盟――以前の会合で聞いていた話だが、『ヴァーメリア帝国』と話を進めていたようだ。
今、ルーテシア達が直面している問題を解決してくれる、と言っているのだから、条件としては破格に違いないだろう。
ルーテシアが『魔究同盟』に入るだけでいいのだから。
「……私が『魔究同盟』に入れば、要塞都市との同盟を組める――それで、頷くとでも?」
ルーテシアの意思は固い。
確かに、同盟は必要なことだ――だが、この都市にいるノルもまた、おそらくは『魔究同盟』の人間。
この話には確実に裏がある――本当にルーテシアを仲間に引き入れるつもりなら、要塞都市が同盟を断った件も、このためではないのか。
思考を巡らせるルーテシアに対して、フィルメアはさらに一言付け加える。
「では、もう一つ――あなたの護衛のその腕、元に戻して差し上げましょうか?」
「――」
それだけは、不可能だと分かっていても――ルーテシアがどうしても叶えたい願いであった。