124.盟主
「こうして顔を合わせるのは初めてですね、ルーテシア・ハイレンヴェルクさん」
カフェで声を掛けてきたのは、長い銀髪の女性であった。
その美しい様相に、ルーテシアは思わず目を奪われてしまうほどであったが、
「私は『魔究同盟』の代表――盟主と呼ばれております、フィルメアと申します」
同時に放ったその言葉に、目を見開く。
すぐに動いたのはシュリネであり、女性――フィルメアに向かって刃を向けようとするが、それを止めたのは、すぐ近くに待機していたオールバックの男だ。
「っ!」
ほとんどシュリネと互角。
否、わずかにシュリネより早く、彼女の首元に剣をあてがう。
両目は閉じているように見えるが、この一瞬のやり取りだけで、この男の強さを推し量るには十分であった。
「ロラン、剣を下ろしなさい」
すぐにでも斬り合いが始まってもおかしくない状況であったが、フィルメアの一言に従って、男――ロランは剣を下げる。
「……シュリネ」
心配そうに、ルーテシアが声を掛けた。
シュリネもまた、それに応じて刀を納める。
――もし、ここでシュリネも引き下がらなければ、ルーテシアにも危害が及ぶと判断してのことだ。
近くにクーリもいたが、全く反応できずに、ただ困惑した様子でこの状況を見ていた。
――騎士達はカフェの外で待機している。
ルーテシア達を気遣ってのことだろうが、この状況に騎士までいたら――どんな風になっていたか分からない。
ある意味では少数で助かった、というべきか。
見るに、フィルメアは護衛として連れているのはロランという男一人だけのようだった。
「そう警戒なさらずに。私も、ここには使者として来ているんですよ?」
「……使者? それは、どういう?」
「『ヴァーメリア帝国』の使節団――その代表が私です」
「!」
『ヴァーメリア帝国』――北方にある国の名だ。
だが、彼女はその前に『魔究同盟』の代表であるとも名乗っている。
「……『魔究同盟』の盟主であると、さっきは言っていたわよね?」
「ええ、この都市には使節団として来ましたが、ルーテシアさん――あなたには、『魔究同盟』の盟主としてお話に来たのです」
どういうつもりなのか――目の前にいるのは、王国を破滅へと追い込もうとした元凶。
たった二人でルーテシアの前に姿を現したのも、戦力はそれだけでいいという自信の表れか。
彼女はそのまま席に着くと、
「まずは、飲み物を頼みましょう? せっかくカフェに来たのですから、ゆっくりとお話でもしながら、ね?」
随分と落ち着いた様子で言い放つ。
ルーテシアは困惑した様子を隠せないながらも、その言葉に従って座った。
「あなたも座りなさい」
「え……?」
フィルメアは声を掛けたのはクーリだった。
突然、声を掛けられて、クーリはどうしたらいいか分からず、ルーテシアを見る。
「こっちにいらっしゃい」
ルーテシアもまた、クーリを促して座らせる。
シュリネとロランは相対したまま、動かない。
どちらも互いを見張っている――だが、ロランの方が幾分か余裕があるように見えた。
「身構える必要はない。俺はフィルメア様の指示がない限り、動くつもりはないのでな」
「……ふぅん、両目を瞑ったままなのは、余裕のつもり?」
「元より、俺の両目は見えていない――お前のように、誤魔化す必要もない」
「!」
シュリネの左目が義眼であることも、すでに見抜かれているようだった。
そんな張り詰めた空気の中――フィルメアは一人、飲み物を注文して、一息ついてから話し始める。
「さて、早速ですが本題に入らせていただきましょうか」
「……あなたは、私に用があると?」
「その通りです。物凄く分かりやすく言うとですね。ルーテシアさん――あなたを『魔究同盟』の仲間として受け入れたいと考えています」
「…………は?」
さすがのルーテシアも、フィルメアの発言に驚きを隠せなかった。