表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/153

123.警告

 ――ハインは一人、行動に出た。

 今回、彼女の単独行動については基本的に許されていない。

 だが、明らかに彼女を呼び出す意図のある気配――人気のない路地裏に入ったところで、その人物は姿を見せた。


「やあ、久しぶりだね、ハイン」

「――キリク」

「呼び捨てかい? まあ、僕はもう君の主ではないからね」


 目の前の男は、ハインとクーリを苦しめた張本人。

 どうしてここにキリクがいるのか、わざわざハインを呼び出した理由は何なのか――思考を巡らせるが、ハインは一度小さく息を吐き出すと、


「何のつもりですか?」

「つれないな。僕は君のために警告をしに来たんだ」

「……警告?」

「市長の娘――リネイ・エイジスには関わらない方がいい」

「――」


 ハインは驚きに目を見開く。

 この男から、その名前を聞くことになるとは思わなかった。


「何故、あなたがその名を?」

「僕がここにいる理由はある程度、察しはついているだろう? 『魔究同盟』――ノル・テルナットに僕は協力している。実を言うとね、リンヴルム王国の一件で僕は責任を取る形で両腕を失った」

「!」


 思わず、ハインは身構える。

 それはつまり、ハインの裏切りによって責任を負わされた、ということだ。

 両腕を失った――という割には、彼の腕はどちらも義手などではなく、きちんとそこにある。

 彼らが裏切り者を許すとは思っていない――いずれは、こういう時が来るのではないかと思っていた。

 だが、そうなると彼の発言に少し気になるところはある。


「私に報復するために、ここに来たのではないのですか?」

「――報復? 僕はそれを価値のあることだとは考えない。起こってしまったことは仕方ないのだからね」


 キリクの意図が掴めない――ハインはいつも、この男が何を考えているのか、ずっと理解できなかった。

 底知れない男であり、実力はあのディグロスと互角レベルだということだけは、理解している。

 仮にハインが一対一で戦ったとして、勝てる可能性は限りなく低い。


「そう警戒することはないよ。これは僕の善意だからね。ノル・テルナットの下に僕はついたが、彼女に従うつもりなど毛頭ない。だから、警告なんだよ」

「……それがどうして、リネイさんに関わるな、という話になるのですか?」

「『魔究同盟』の本質は君も知っているだろう?」

「……優れた者を選定し、導き手とする。より魔力と技術のある者だけを残す思想、というように認識しています」

「そうだね。その思想においては、ハインやクーリ――君達は生き残るべき人間だ。そして、リネイ・エイジスはノル・テルナットが選んだ者」

「! それは、つまり……」


 彼女はクーリと同じだ。

 吸血鬼――その素質があるから、クーリはずっと閉じ込められていた。

 ハインもずっと、脅される形で協力させられていた。

 そうなると、リネイもまた、クーリと同じく素質のある者ということか。

 確かに、彼女はこの都市に閉じ込められるような形になっていて、逃げ出そうとしている。

 もしも、リネイを逃がそうとするのなら――それは『魔究同盟』との敵対を意味する、ということだ。

 王都での一件のようなことが、ここでも起こるということ。

 キリクの警告の意味が、理解できてしまった。

 今は敵対しないが――リネイに関われば、敵対関係になる、ということだ。


「あなたが私に警告など……」

「君達は生き残るべき人間だと言っただろう? もっとも、『魔究同盟』としてはクーリのみを求めているようだが、僕は違う。君は誰より優秀だった――今もこうして、生き延びているのがその証拠だ」

「……私一人の力ではありません」

「ああ、シュリネ・ハザクラか――彼女は『魔究同盟』としては、もっとも不要な存在に位置づけられるからね。ちょうど、盟主がルーテシア・ハイレンヴェルクに会っている頃だとは思うが、果たしてどうなることか」

「!?」


 その言葉に、ハインは目を見開いた。

 盟主――すなわち『魔究同盟』を束ねる者が、ここに来ている。

 すぐに戻ろうとするが、


「やめておいた方がいい。君をここに呼び出したのは盟主と合わせないためだ。僕の腕のように、責任を取らされるかもしれないからね」


 そう言いながら、キリクは袖を捲る。

 明らかに、切断された痕がそこには残っていた。

 息を呑む――ここでハインが戻れば、あるいは殺される可能性だってある、ということだ。

 だが、ルーテシアのこともある。

 ここで戻らないという選択肢は、ハインにはない。


「ルーテシアのことなら、盟主は手を出すつもりはないから安心していいと思うよ」

「……どういうことですか? 何故、ルーテシア様に会う必要が?」

「彼女――自分の身体を自動で治す魔法を会得したそうじゃないか。それは『吸血鬼』とよく似たものだよ」


 キリクの言葉に、ハインは顔を顰めた。

 ――クーリだけではなく、ルーテシアも『魔究同盟』にとっては必要な存在、ということだからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ