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120.魔導の技術だけ

「――本当にこれでよかったのか?」


 ルーテシアが去った後、ゲルドはノルに尋ねた。

 彼女はというと、ソファに寛ぐ様子を見せ――まるで、その立場がゲルドよりも圧倒的に上であるかのようだ。


「もちろん、アタシの提案があるでしょ? 『ヴァーメリア帝国』――極寒の地域で、あそこにはまだ魔石が豊富に取れる山間があるの。資源についてもそう。リンヴルムは、あんな小娘を寄越すくらいに人材不足でもあるし。それこそ同盟を結ぶメリットなんて、ないでしょ?」

「使者に年齢は関係ない。それに、あの態度はいいものではない。我々は争いを望んでいるわけではないのだから」


 ゲルドが注意をするように言うと、ノルはにやりと笑みを浮かべた。


「キヒヒッ、我々? 争いを望んでいないのはアンタの個人的な都合でしょ? アタシはそれに協力してあげてるだけ。アタシとアンタは対等――分かってるよね?」

「無論だ。帝国からの使者も、ここに到着していると聞いているが」

「大事なのはそっちとの話ってわけ! リンヴルムの御一行にはちゃっちゃと帰ってもらって、アタシ達は次に進まないとね」


 そう言って、ノルは席を立つ。

 だが、ゲルドにはまだ気になることがあった。


「待て」

「なぁに、これからやることあるんだけど」

「妹が死んだという話、あれは本当だったのか」


 少し前に、ノルから話は聞いていた。

『リンヴルム王国』にはオルキス・テルナットという名の医師がおり、彼女の妹だった、と。

 だが、何かの事件に巻き込まれたのか――そこで、オルキスは亡くなったのだという。

 ノルは普段から冗談めかして話すタイプであり、ゲルドは彼女の話が本当であるかどうかまだ判断できずにいた。


「本当のことだよ。私の妹――オルキスちゃんは、もうこの世にはいないの」

「……そうか。それは――」

「あ、なんか気を遣った言葉とかは言わなくていいから」


 ゲルドはその言葉で、思わず押し黙る。

 本当のことだろう――妹が亡くなったのは、たぶんそれほど過去のことではない。

 あるいは、王国側に対してその件で不服に思っていることがあるのではないかと、そうゲルドも考えていた。

 だが、彼女は違う――


「ちょっとした復讐心とかさ、そういう人間らしいことはアタシは考えないんだ。アタシが愛してるのは、魔導の技術だけだからね」


 心底、楽しそうな表情を浮かべながら、言い放った。

 ノルは根本的に人とは何かが違う――それは、出会った時からよく分かっていることだった。

 だが、ゲルドは彼女と協力関係を結んだことに、何一つ後悔はしていない。

 その意向に従え、というのであれば――これからも拒絶することはないだろう。

 ゲルドにとっては、それが唯一残された道なのだ。

 ノルが去った部屋で、ゲルドは一人、外に視線を送る。

 ルーテシアとシュリネ――先ほどの少女二人が、建物から出て行くのが見えた。


「まだ若いというのに、毅然としていたが、さすがにあの話を受けることはないだろう」


 ゲルドも把握している――娘のリネイがしようとしていることを。

 こうして他国の者が訪れると、彼女は必ず行動に出る。

 そのたびに後日、使者からその旨を知らせる話を聞いていた。

 リネイはここを出たがっている――だが、それは叶わない望みだ。


「……リネイ、お前は私の後を継ぐ者だ。私に従ってさえいればいい」


 リネイが何をしようと――きっと、彼女を手助けしようとする者は現れないだろう。

 それが分かっているからこそ、あえて直接伝えることはしない。

 ただ、時が来れば全てを話す必要はある――リネイは、決してこの都市から出ることはできないのだ。


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