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111.人数としては十分

 ――『サヴァンズ要塞都市』は王国から西方、『マーローズ平原』を抜けた先にある。

 平原と言っても、一部は荒地と化しており、これはサヴァンズに対する進軍が何度か行われたためと推察される。

 この平原も含めてサヴァンズの領地とされているが、要塞都市として実際に使われているのは、平原の先にある断崖絶壁である。

 鉱石の加工で作られたその巨大な扉と、魔導の技術を用いた武器――それらが要塞都市と呼ばれる所以だ。

 この平原にもかつては魔導列車を運用するための線路もあったが、こうした他国からの侵略行為もあってか、今は使われていない。

 そのため、平原の手前辺りまでは魔導列車で移動し、その後は馬車を使ってサヴァンズへと向かうことになる。

 今は、ちょうど魔導列車で終点まで向かう途中であった。


「見て、お姉ちゃん! 大きい湖がある!」

「クーリ、あまり騒がないこと」

「はーい」

「せっかくの個室なんだし、少しくらいは平気だと思うわ」

「ルーテシア様、クーリをあまり甘やかさないでください」

「いいじゃない。移動中くらいは貴女も羽目を外してもいいのよ?」


 ――魔導列車には一部、車両に個室を用意しているものがある。

 今回は使節団として他国へ向かっている――念のため、一般車両の利用などは避けて移動していた。

 使節団として向かっているメンバーはルーテシアは当然として、ハインとクーリはルーテシアの身の回りの世話を。

 護衛としては部屋の外で待機しているシュリネに加え、数名の騎士が同行していた。

 フレアとしてはエリスを同行させようと考えていたらしいが、彼女は女王直下の護衛部隊の隊長であり、フレアの傍を長期で離れることはほとんどない。

 初めはルーテシアも騎士の護衛については断っていたが、さすがにルーテシアを含めた四人だけを向かわせることを心配したフレアによって、護衛部隊が編成された。

 騎士が同行するもう一つの理由としては、護衛以外にもハインとクーリの監視、という体裁面で必要性がある。

 ハインは現状、シュリネの名において自由を許されているが、まだ一部の貴族からはその処遇について不満が消えていない。

 クーリもまた、公にはされていないが吸血鬼という特異性――本来立場的には、どちらも軟禁という形になってもおかしくはないのだが、シュリネが全責任を負う、という約定とフレアの派遣した騎士が監視しているという名目を加えて、ルーテシアの傍にいることができているのだ。

 ただ、形だけというわけにはいかず、ハインとクーリについては特に行動制限は大きくつけられている。

 故に、護衛という部分で特に重要な役割を果たしているのは騎士達だろう。

 中でも、エリスが認める実力を持つ少女騎士の二人が、個室の扉の前に立って警備をしている。


「シュリネ様も中に入られては? 警備は私達にお任せを!」


 桃色の髪をした笑顔の似合う明るい雰囲気の少女、ミリィ・デイルベッドはシュリネに向かってそう言った。

 ちらりとシュリネはわずかに視線を向けて、


「様、はいらないよ。わたしは別に偉いわけでもないし、あなた達と同じ護衛だからね」

「我々護衛部隊の任務は、ルーテシア様を含めた使節団の護衛です。シュリネ様も使節団のメンバーに含まれていますから」


 シュリネの言葉に答えたのは、ミリィの隣に立つ無表情の少女、カーラ・ベルス。

 肩にかかるくらいの水色の髪をしており、ミリィとカーラは今回の護衛部隊の隊長と副隊長という立場にあった。

 年齢的にもまだ十代というところか――だが、エリスが信頼を置くだけはあるのだろう。

 常に周囲への警戒を怠ってはいない。


「あなたも様付け? いらないって言ってるのに」

「あなたは国を救った英雄ですから」

「そうですよ! エリス様からも失礼がないように言われてますから!」

「ふぅん。まあ、いいけど」

「それより、シュリネ様も部屋の中で待機されては?」

「わたしは――いいよ。今はこっちの方が落ち着くから」


 シュリネはあくまで護衛としてやってきている――だが、ハインやクーリも含めて、きっと今のシュリネには気を遣う部分もあるだろう。

 それに、ルーテシアの傍にはハインがいる。

 護衛という面では、シュリネは外にいた方が何か都合がいいのだ。


「……」


 カーラは静かに、シュリネの左腕を見据えていた。


「何か気になる?」

「いえ――」

「片腕でも護衛ってできるんですか?」


 カーラの言葉を遮ったのは、隣に立つミリィだった。

 無表情だったカーラの眉がわずかに動き、小さく溜め息を吐いたのが分かる。


「……ミリィ、失礼がないようにとエリス様が言っていたでしょうに」

「え――あ、ご、ごめんなさい! その、好奇心というか……」

「うちの者が失礼を」

「気にしなくていいよ。護衛を名乗るなら、それくらいのことは気になるだろうし」

「我々はあくまで我々だけで護衛を完遂できるように編成してあります。ミリィは少し配慮に欠ける面がありますので、どうかご容赦を」

「だから、気にしなくていいって。まあ、わたしが護衛として役目を果たせるかどうか――確かめたいって言うなら、相手してあげてもいいけど」

「え、本当ですか!?」


 シュリネの提案に、思った以上に食いついたのはミリィだった。だが、


「ご提案については嬉しい限りですが、任務がありますので。ミリィ、隊長命令です。しばし口を閉じていなさい」

「うっ、承知しました……。せっかくの機会なんだし、少しくらいお話しさせてもらっても……」

「ミリィ」

「……」


 一応、カーラが隊長でミリィが副隊長――ミリィの方はどこか子供っぽい雰囲気も感じられるが、あくまで騎士という立場から逸脱することはないようだ。

 この二人以外の騎士は別の車両で待機している。


(……確かに、護衛の人数としては十分なのかもね)


 ルーテシアが特段、狙われているというわけではない――だからといって、シュリネは手を抜くつもりもなかった。

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