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107.気分転換

 朝食の時間――仕える者は主人の食事が終わった後で、ということはハインから教わり、準備を終えて時間になった。

 ルーテシアは少し遅れてやってきたが、明らかに空気が重い。

 席について食事を始めても、あまり進まないようですぐに食べる手が止まってしまう。

 しばらくそんな状態が続いた後、


「……ごめんなさい。今日は食欲があまりなくて」

「承知しました。お部屋で休まれますか?」

「ええ、そうするわ」


 結局、ほとんど朝食も食べないで部屋を後にする。

 ハインは特に何も言わず、黙って食器を片付け始めた。

 クーリは、ハインに問いかける。


「ねえ、お姉ちゃん。ルーテシア様、大丈夫かな?」

「口を動かす前に手を動かしなさい」

「うっ、だって、今の様子は明らかに変だったよ……!? 朝食だって、こんなに残すところ初めて見たし!」

「……まあ、そうですね。もったいないから、と好き嫌いせずに何でも食べる方ですし。よほどのことがあったのかと」

「よほどのことって?」

「クーリ、まずは片付けをしてから。私達の朝食もまだでしょう」

「あ、そうやってはぐらかす……。あたしを除け者にするの?」


 少し怒ったようにクーリが言うと、ハインは小さく溜め息を吐く。

 片付けは続けながらも、ハインは口を開いた。


「おそらく、シュリネさんとのことでしょう」

「シュリネのこと?」

「彼女は以前のようなポテンシャルを発揮できていない。当たり前のことですが、それが彼女にとって大きな負担になっている――だから一度、ハイレンヴェルク家の客人として迎えるように進言したんです。ルーテシア様から直接、お話されるということでしたが」

「……それが上手くいかなかった、ってことだよね」


 ようやく、クーリにも状況が理解できた。

 朝のシュリネとハインの手合わせの記録はクーリがつけており、結果は全て記憶している。

 シュリネの態度を見るに、そこまで気にしているようには見えなかったが――二人の前では隠していた、というところだろう。

 ハインは気付いていたようだが。


「お姉ちゃんから話はしないの?」

「私では却って拗れる可能性もありましたし、何よりシュリネさんが契約を交わしているのはルーテシア様です。初めは成り行きであったとしても、二人で話すべきことではありましたから」

「でも……」


 ハインの言葉も理解できるが、クーリは少し納得がいかない様子だった。

 ――というより、ルーテシアが落ち込んでいるのも見ていられないし、シュリネがそれほどまでに悩んでいるのだとしたら、力になりたいという素直な気持ちだ。

 ただ、クーリにできることがあるのか、考えても答えは出ない。


「……キッチンに二人分の朝食が準備してあります。持ち運びもしやすいように包んでありますから。たまには一緒に食べてきては?」

「二人って――あ」


 すぐに、ハインの言葉の意味が分かって、頷いた。

 キッチンに向かうと確かに二人分用意されていて、クーリはそれを持って屋敷を出る。

 すると、ちょうど戻ってきたシュリネと出くわした。


「あ、ちょうどいいところに!」

「あなたも、わたしに何か用?」


 ルーテシアとは違って、シュリネは少し不機嫌そうであった。

 普段から明るいというわけではないが、今のような態度は珍しい。

 クーリは怯むことなく、手に持った包みを差し出す。


「どこかであたしと食べない? 気分転換、的な」

「気分転換、ね」


 しまった、と思わず表情に出してしまうクーリ。

 気分転換などと言ってしまえば、気を遣っているのがバレバレだ。

 否、どのみちこのタイミングに誘ったのであれば、どうあれ意図があるのは間違いない。

 断られたら、素直に引き下がろう。


「いいよ、どこで食べる?」


 意外にも、シュリネはすんなり提案を受け入れてくれた。


「えっと、それじゃあ……庭園に椅子もあるし、そこは?」

「遠くに行く必要もないし、いいんじゃない」


 シュリネが頷いて歩き出し、クーリを後を追う。

 結局、屋敷のすぐ近くであるため気分転換になるかは微妙なところではあるが、今更場所を変えよう、とも言いづらい。

 二人で向かい合うように席について、包みを開ける。

 パンに肉や野菜を挟んだサンドが入っていた。

 これを準備していたということは、ハインはあらかじめクーリにシュリネと話をさせるつもりだったのだろうか。

 ちょっとした疑問もあるが、今はシュリネのことだ。

 シュリネはルーテシアとは違って食欲はあるようで、サンドを口に運んでいく。

 ただ、会話は一切なく、視線も庭園の花を見ているのか、どこか気力のない様子であった。

 どう切り出したものか、クーリが迷っていると、


「クーリは、護衛の仕事に興味ある?」


 不意に、シュリネがそんな風に問いかけてきた。

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