第二話:別れのような再会のような
この物語はフィクションです。
工事が終われば、名前も知らない例のあの人を見る機会なんて無くなる。
これで縁も切れた。もう会うこともないだろう。
元々、遠くで見てるだけの人。縁もなにもあったもんじゃなかった。
「工事、終わっちゃったね」
「……うん」
寂しそうに沙知が言う。私の返事も、寂しそうに思えた。
「また、会えるかな?」
「無理じゃない?」
言葉を交わすどころか、目が合ったことさえなかった人だ。
次会えたとしても、挨拶すらしないと思う。
そう、思っていた。
再会は、思いの外早かった。
いや、まだ、出会ってすらいなかった。
一度顔を見たからか、既に会っていた気分だった。
実際のところ、あの人は、私の顔も分からないだろう。
だってさ、声掛けたわけじゃないんだ。分かるわけないじゃん……。
高校から一番近いショッピングセンター内の、街で一番大きな書店。
目の前で、お気に入りのマンガ本の最新刊、その最後の一冊が拐われた。
こういうのは早いもの勝ちなので、恨みとかあるわけじゃない。
ただ、目の前に、居たんだよ。名前も知らない例のあの人が。
「あ……」
自然と、声が漏れた。
ちゃんと出会って、話がしてみたい。
そう思ってた人が、目の前に居たわけで。
たぶん、私は今、アホみたいな顔を晒しているわけで。
名前も知らないあの人は、私を見て首を傾げて、レジの方に行ってしまった。
「……はぁ……」
ため息ひとつ。
今回は諦めるしかない。
マンガ本も、あの人の事も。
肩を落として、店を出る。
間が悪いというかなんというか。
もう一度ため息を吐いたところで、
「ねぇ、きみ?」
声が掛けられ飛び上がりそうなほど驚いた。
悲鳴を上げなかった私を、誰かほめて?
「ちょっと、いいかな?」
振り向けば、例のあの人。
「……何ですか?」
内心はパニック。冷静を装ってるけど、実際はどう見えるんだろう?
「これ、あげる」
中身のマンガ本を取り出して見せてから、紙袋ごと差し出してくる。
「……は?」
きっとまた、アホヅラ。
「欲しかったんでしょ?はい、あげる。それじゃ」
私の手に捩じ込むように持たせると、背を向けてさっさとどっか行ってしまった。
手の中のものに目を向ける。
マンガ本なんかより、欲しいものがあったのに。
あの人は、私に指一本触れることなく、どっか行ってしまった。
「……なんなのさ……」
野良犬に纏わり付かれ背中を擦り付けられ、撫でようとしたら逃げられた。そんな気分だった。
わけが分からなかった。
……いやさ、せっかく会えたあの人を、野良犬扱いは無いんじゃない?
そんなことを、呆然と考えていた。




