第一話:気になる人?
実際にあった話が混ぜられています。
見つけられるでしょうか?
「何?美香、またあの人っぽい人のこと見てるの?」
授業の合間の休み時間、窓の外を眺めていると、クラスメイトで友人の一人の女子から、そんなことを言われる。
私は、上原美香。この春高校に入ったばかりの女子高生……なんだけれど。
おしゃべりに夢中な友人グループを尻目に、窓の外を眺めている。
会話の内容なんて上の空。
けれど、クラスに馴染めていない訳じゃない。
自慢じゃないけど、友達は多い。
入学から一ヶ月半も経てば、仲良しなグループは大体決まる。
私は、グループ同士の調整役みたいな立場で、あちこち話してるうちに大体の人と連絡先交換できる程度には仲良くなっている。
どこのグループにいっても、邪険にされる事なんて無い。
ただ、今はちょっと事情があって、一時的に一人になっているんだけど。
「……あの人っぽい人って、誰さ?」
友人の沙知の顔も見ずに返事する。今ちょっと話しかけないでくれないかな?
「ほらあの、いつもあっちこっち行ったり来たりしてる人」
五月から、敷地の外で道路工事が始まったけど、校舎の三階からだと工事の様子がよく見える。
さすがに距離があるから、工事してる人の顔までは分からない。だから沙知は、っぽい、なんて言うんだ。
「……うん」
何してるかは分からないけど、ヘルメットにラインが入った人が一人だけいて、その人は、なんかいつも怒られているっぽい。
分かんないから、気になる?どうなんだろ?分かんないや。
私の席は窓際だから、授業中も外が見える。
例の、あの人っぽい人をボーッと見ていて、先生に叱られてしまった。
だってさ、はたかれてるのを見たら、気になるじゃん?
昼の時間は、校舎の外に出て弁当を食べる事にした。
父と弟の弁当を作らなければならないので、三人分ともなれば、ちょっと面倒。けど、弟の通う中学は給食がないようで。
生意気で可愛くない弟のために、仕方なく用意するようになったら、父からも要求されるように。
我が家は母が既に他界しており、家事は私の担当。
弟はというと、宿題!と言って部屋に引きこもる。
ズルい、と思ったところでなにも変わらない。もう諦めた。
外部からの視線を遮るために植えられたという木立は、工事現場のすぐそば。初夏の今の時期、木陰にいれば、直射日光の差す教室よりは涼しい。
わざわざ外に出て来たのも、例のあの人をちょっと近くで見ようかと思ったからだけど、工事もお昼休みの時間。当たり前だけど、誰もいなかった。
「……バカみたい」
で、視界に入ってくるのは、近所のコンビニから戦利品を引っ提げてくる沙知。
昼休みの時間に高校の敷地から出るのは禁止されている。けれど、守ってる人なんかいやしない。なんせ、先生が昼御飯を買いに行くくらいだから。
「もんまもも……こんなとこでなにやってるの?」
うっさい。私にもアイスよこせ。お金は払うから。
ちゃりん、毎度。なんてやり取りしながら、棒アイスを受け取る。
「……別に」
溶ける前に、アイスに噛みつく。
シャクッとした食感と、チープな甘さと、しっかりとした冷たさ。
思わず目を細めてアイスを堪能していると、呆れたような表情の沙知と目が合った。
「……何さ?」
「少しは時間とか考えなさいよ。工事の昼休憩が終わるの、一時だよ?」
三十分以上先の話だ。そんなことも分からないまま、近付くなって言われてる工事現場のすぐそばまで来ていたのか。
ほんと、バカみたい。
結局その日は、時間ギリギリまで粘って、例のあの人の顔を確認するに至った。なんて事無い、どこにでもいそうな普通の人だった。




