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第1章 2

 FORTUNE試験

 次世代シークエンサーを用いた先進的腫瘍遺伝子検査の有用性に関するデータベース構築研究


 まだ保険承認される以前のパネル検査を医療として実施する上で、首都医科大学病院の倫理委員会が臨床試験として承認した試験の名称である。

 医療として何らかの治療や検査を行なうには、当然その行為の有効性と安全性が十分保証されていなければならない。

 それらが十分に確立された行為であれば、適応になる病名のついた場合に健康保険の範囲内、すなわち保険診療の範囲内で実施することができる。

 一方、先進的な検査や治療は十分な有効性・安全性の情報が確立されておらず、健康保険の適応になっていない場合があり得る。

 これらの検査や治療を医療行為として施行することを正当化するには、原則的には臨床研究という枠組みの中で行なわれることが望ましい。


 もちろん、医師の裁量権の中で行なわれる自由診療という選択肢も考えられなくはないが、十分な裏付けのない検査・治療を適切な体制も整えずに行なうということは、医療倫理上大きな問題を抱えることになる。

 効果が検証されていない検査や治療を医療行為として実施し、あまつさえそれに対する多額の対価を請求するというのは、詐欺であると後ろ指を指されても言い逃れができない行為なのである。

 どんなに効果があると信じてその医療行為を行なうのだとしても、結果的に効果が得られなかった場合にはそもそもその医療行為そのものに効果がなかったのと変わりがない。

 ましてや、その医療行為で副作用や合併症が発生してしまったとしたら、誰がどう責任をとるのか。


 だからこそ、大学病院という大きな施設でパネル検査を実施するには臨床研究としての十分な体制作りが必要不可欠だった。

 対象となる症例を明確にし、その検査そのものの限界もはっきりと説明し、十分に理解をしてもらった上でなされた同意に基づいて行なう検査の手順を仔細に至るまで定義した。

 遺伝するタイプの変異、すなわち生殖細胞系列の変異が見つかった場合の対応についても、明文化して規定した。

 結果の取り扱い方法、検査を受けるにあたって必要な費用の負担、研究を実施する上での研究費の透明性、企業等から受ける支援の有無。

 臨床研究として申請するには実に様々な項目について膨大な記載が必要な研究計画書を作成しなければならないが、鷲尾はそれを実に数週間で完成させ、大学の倫理審査委員の承認を得ていた。

 こうして、個別化医療部門ではパネル検査が実施可能になった。


 実施するパネル検査の種類についても、その選択は慎重に行なった。

 実臨床の一環として行なう検査であるならば、それ相応の信頼性が必要である。

 有り体に言ってしまえば、検査そのものの精度が臨床使用に耐えるものでなければ、検査結果に基づいた治療選択などできない。


 だからこそ、国際的な基準を満たしたラボで行なわれる検査のみを実施する検査候補とした。

 日本国内で開発された腫瘍組織を用いたパネル検査。

 すでに海外を中心に、その再現性が確認されている血液を用いたパネル検査。

 原則的には腫瘍組織を用いた検査を優先するとして、手術が行なえない、組織の採取ができない、という状況では血液を用いた検査、リキッド・バイオプシーを選択する。


 検査の結果は、担当医、個別化医療部門、腫瘍内科医、病理医が中心となって構成されるエキスパート・パネルで議論される。

 このエキスパート・パネルでの議論を元に、パネル検査の結果に基づいた治療の候補とその妥当性が評価され、最終的な治療方針が患者に提案されることになる。

 この議論の内容から、治療の効果及びその後の経過情報も含めて、FORTUNE試験データベースに登録される。


 実臨床の現場に則した、いわばリアル・ワールドのデータに基づいたデータベースを独自に構築することが、この試験の目的である。

 試験開始からすでに半年以上が経過した。

 試験開始直後は体制作りが優先され、症例数も伸び悩んでいたが、現在では着々と登録症例が増えてきている。

 試験開始時は原則として院内での治療症例が対象となっていたが、先日の卵巣癌症例のように、他病院からの紹介症例も受け入れる方針となったことも症例数増加の一因になっていた。

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