─9─
朝目が覚めて顔を洗うと寝癖を直し、歯を磨く。
制服、と言っても夏服なので白いYシャツ一枚にスラックスを履くだけだ。御鏡第二の象徴であるチェック柄のネクタイだが特に締めなくとも、夏期講習の時期だけで言えばそこまで教員達から注意も受けなかった。一応鞄には突っ込んでおく。
朝9時を回れば直ぐに外気温は高くなる。連日の猛暑がまさにうんざりだった。学生鞄を手に持ち颯爽と階下へ駆け降りる。
と、そこで隣りに住まう東山譲二の出勤に追いついた。今日、龍世は朝に彼へ挨拶をしておきたかった。
「おはようございます」
「音羽君か、おはよう。これから夏期講習かい?」
東山は襟元にアクセントの入った高そうなビジネススーツ用のYシャツを羽織っていた。サンガ荘から駅までは龍世と同じ徒歩だ。
車は関東に持って来れなかったらしいが、会社の支部に行けば代車が何台もあると言うので不便はそこまででもなさそうだった。
「少し、聞いてもらいたい事がありまして」
「何かな?」
龍世から話しかけられ意外という表情をする。
東山の龍世への初見の印象では、自分からはあまり他人に絡まないような、気後れした少年にこれまでは見えていた。
「俺、御鏡大受けようと思って」
「へえ、何科を専攻するのかな?」
龍世が東山から視線を外し庭先のアップルミントに目をやる。
「理学部に建築学科があって、建築いいなって」
少し照れ臭そうに、
その鼻を甘い爽やかな香りが突いた。
「そうか建築科か。なら困ったら私に何でも聞きなさい。これでも学生の頃はかなり勉強して来たからね」
東山がまるで自分のことのように嬉しそうに言った。




