第一話
なにこれ
すぴんおふを覚えている人間は、幸せである。
心癒されるであろうから。
作者は、この地上に生まれたにも関わらず、
あまりに酷く暗い本編に苦しめられる性を持たされたから。
それゆえに、プ・リオーの語る次の物語を伝えよう。
***
新星歴5世紀を経た現代。
人類はなんとか協力して、宇宙エレベーターを取り付けられた!
そこに点在する、空中都市。
地球から最も近い、第二の階層都市。
ポツンと、巨大な学園都市があった!
名前は「アネフト」
立ち並ぶ家々の中に、特に白くて青いラインが入ってるお家がありました!!
マップを操作するように、そのお家はロックオン。
勝手に拡大されていくのであった。
白く、妙に小綺麗にされた部屋。
その理由として考えられるのは、おそらく家政婦の
ジーネン・スレーズさんが清掃してくれたからだろう。
アダム・ヴァレン君。
キラキラネームである。
両親は仕事にかまけて、このアダム君の実質的な母親はジーネンであった。
アダムは、食事を用意して、清掃もしてくれる彼女には感謝しているし、母親と思う努力もした。
でも、無理であった。28歳のお姉さんであったから。
白く簡素な扉、アダムを囲う壁には、一面のポスター。
アダムの最もお気に入りのアイドル、
ジェナ・ジェイミールちゃん。
その横には、悪魔系アイドルグループ「インペネス」のユナ・エイジールちゃんがいた。
「このポスター、見たんですか。」
扉に立っていて、掃除道具を抱えたジーネンを見据える。
朝から掃除をしてくれていたのはありがたい。
しかし……
「そうよ。」
最悪である。
後戻りが出来ないと感じた。
「人権はないんですか?」
部屋に勝手に入られたことを咎める意図があった。
「あんなルール、家族の内でしか適用されないわよ。
第一、私は貴方にこんな趣味があるなんて……」
ジーネンは家政婦と言いながらも、服装は母親のそれで、色香はあるのだろうが、母親として馴染んだ彼女にそれは感じられなかった。
「そんな自分勝手な理由で!」
ジーネンを押し退け、おトイレに駆け込む。
外で、この家の近くを散歩するおじいさん達が談笑する声が聞こえた。
この人達も、朝のラジオ体操のついでの談笑で、
どうやら浮ついているらしい。
「ハウスダストのためよ。」
埃を掃除したかったと言えば良いものを……
あと、トイレの扉の前に立たないで欲しかった。
ジーネンのお小言が炸裂する。
おトイレの便座のハンドルを仰角させる。
水が流れ、その濁流の音に全てが消えていった。
10分後、まだおトイレの前でジーネンはいるようだった。どうしようもなく、アダムは個室を飛び出した!
小綺麗にされている真っ白な廊下、その様子がさらにアダムの神経を逆撫でする。
スリッパがツルツルと滑り、掃除が行き届いているッ!
談笑をしていたおじいさん達は、朝からドタドタと音を鳴らす一軒家を見つめ、コソコソと何かを話している。
廊下でイブに鉢合わせた。
「……!アダム何をしているの?」
「お前こそ、なんで家にいるの!?」
押しのけて、リビングのドアを力一杯に閉める。
この程度の反抗しか行えないからさらに腹が立つ。
あと恥ずかしかった。アイドルポスターを見られたのが。
このイブ・ナティアはどうやら幼馴染であるらしい。
顔は可愛らしく、少し大きめの制服に身を包んでいた。可愛いが、自分はジェナちゃんが好きだ!
それであるから今家に入って欲しくなかった。
そして、なぜ家にいるのだろう。
ジーネンは急いでアダムのリビングに向かう。
沸かしたお湯がそのままであったから。
インターホンが鳴り響き、それは廊下の全てを包んだ。
玄関にはナーケル・ヨーガがいた。
株式会社ガベル。
配送会社である。
受け取り人不在の場合、何も指定されずとも置き配をしていく。半分テロリスト、半分気を遣えるエリートである。
「ヴァレンさん!お届け物です!」
ナーケルは叫んだ。
「ご苦労……」
玄関から現れたジーネンより遥かに背丈の高いナーケルは、とてもわかりやすく表情を歪め、目元に溝を作る、その少し出っ張った眉をひそませた。
受け取り人が、普段の青年ではなかった。
綺麗なお姉さんであったからだ。
不味いと、ナーケルは感じた。
なぜなら、あの青年。
自分達のガベルを利用するときは、決まってアイドルグッズの配送であるからだ。
彼女が姉であれ、母親であれ、尊厳破壊はまのがれなかった。
「印鑑お願いしますー。」
しかし、ナーケルは受け取り人の前で置き配をすることはできなかった。
許せ、青年。
「どうも。」
印鑑を押し終え、受け取ったダンボール。
デカデカと「悪魔系アイドルインペネス」と書いてある。
物陰からイブが顔を出す。
「え、これって……」
「大丈夫よ。大丈夫な筈よ。」
何が大丈夫なのか。
言い聞かせであった。
ダンボールの封を二人でペリペリと剥がす。
「ユナ・エイジールちゃんグラビア特集」
「ユナ・エイジールちゃん水着特集50分」
「ユナエイジールちゃん等身大マウスパッド」
呪物呪物、最後に至ってはスケベなマウスパッド。
ジーネンはイブを自分の子供にするかのようにそっと抱く。
その妙な距離感を配達員のナーケルは不思議に思った。
なぜこんな場所に来てまで、この女の家族ごっこを見せつけられなければいけないのだ。
いや本当になんなのだ、これは。
玄関をそっと閉じた。
青年の低い声で「ワ、ワァッ!」
という叫びが聞こえ、ナーケルはトラックの扉を強く閉めた。




