【第33話】臨界点
三日後。
コスメプラザ吉祥寺店。
開店一時間前。
店の前には——
約40人の列ができていた。
「やっぱここだよね」
「整理券もらった?」
「今日は買えるかな」
ざわめき。
だが——異常なのは数じゃない。
“熱”だった。
通行人が足を止める。
写真を撮る。
SNSに上げる。
「また並んでる」
「例のやつ、やばい」
——拡散。
店内。
相沢葵は冷静に状況を見ていた。
「……ちょうどいい人数です」
柚留はうなずく。
(捌けるギリギリ)
ナポレオンが言う。
『いい』
『制御できている』
開店。
整理券順に案内。
混乱はない。
だが——
スピードが異常だった。
「セットありますか?」
「ミニもください」
「ラインで使いたいです」
単品ではない。
“まとめ買い”が起きていた。
葵が小さく言う。
「……単価、上がってます」
柚留は答える。
「狙い通りです」
ナポレオンが言う。
『いい』
『武器を増やしたな』
棚には
・美容液
・化粧水
・ミニサイズ
・限定セット
シリーズとして展開されている。
そして——
消える。
速い。
異常なほどに。
店員が言う。
「残り半分、10分で切りました!」
葵が息をのむ。
「……早すぎる」
柚留はつぶやく。
「回転が上がってる」
ナポレオンが言う。
『違う』
柚留は心の中で返す。
(え?)
『“欲しさ”が上がっている』
柚留は理解する。
(だからまとめて買う)
(次いつ買えるかわからないから)
ナポレオンは言う。
『不確実性は、購買を加速させる』
柚留は小さく笑う。
(完全にハマってるな)
そのとき。
店員が言う。
「帝都の商品、かなり出してきてます」
振り向く。
棚。
帝都の商品が増えている。
だが——
動いていない。
葵がつぶやく。
「……止まってる」
柚留は答える。
「選ばれてないですね」
ナポレオンが言う。
『当然だ』
『比較されていない』
そのとき。
「完売です!」
開店から——30分。
すべて、消えた。
だが——
店は静かだった。
「また来ます」
「次いつだろ」
「今度はセット買う」
不満ではない。
“次への期待”
柚留はその光景を見ていた。
(これが……)
ナポレオンが言う。
『臨界点だ』
柚留は息を吐く。
(ああ)
(完全に超えた)
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その日の夜。
SNS。
「30分で完売」
「セット買い必須」
「見つけたら即買い」
トレンド入り。
ニュースにも小さく取り上げられる。
“話題の商品”
から
“欲しい商品”
へ変わった。
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帝都ビューティー 本社。
神崎玲司は画面を見ていた。
「……回転か」
部下が言う。
「はい。完全に購買速度で負けています」
神崎は静かに言った。
「いいだろう」
顔を上げる。
「ならば」
一拍。
「こちらは“面”で潰す」
空気が変わる。
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店の外。
人はもういない。
だが——
熱は残っている。
柚留はつぶやく。
「終わりじゃないですね」
ナポレオンが言う。
『当然だ』
『ここからが戦争だ』
柚留は笑った。
「了解です」
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戦いは——次の段階へ進む。




