2.確かな笑顔
聴波 章 17歳 高校3年生
校則が自由なこともあり髪色はダークブラウンで染めていて、身長も平均より少しだけ高いくらい。
特別イケメンというわけではないが、容姿でからかわれたりしたことは無い。
適度に友達付き合いをしているし、クラス外にもそこそこ友人はいる。
まあまあな学園生活を送れていると自負している今日この頃、興味があるとすれば最近隣の席になった彼女の事だろう。
語部 文香、教室の中で清楚な女子生徒ランキングを開催すれば間違いなく1位を獲得するであろう彼女は人と話をしないことで有名だ。
声を掛けられても立ち止まり、ただ話すことなく次第に声を掛けた側から気まずくなり離れていく。
こんな様子を繰り返し高校生活を過ごしている。
目下、俺の目標としては彼女が話さない理由を解明して、何とか会話をしてみたいという好奇心に駆られていた。
とはいえ、気軽に話しかけたところで今までの生徒と同じ流れを繰り返すだけだろう。
まあ、個人的に気軽に女子生徒とお楽しみトークなんて出来る自信がないだけなのだが。
だから、彼女の学校での一日を観察することにした。
朝、彼女が学校へ登校する時間が分からないので適当に部活動の生徒が通学している7時30分頃を目安に教室に到着。
こんなに早起きして登校するなんて、中学の部活動でサッカーをしていた頃以来ではないだろうか。
眠いし髪型だって遅くなりそうで寝ぐせ直しくらいしか出来なかった。
寝起きで重たい体を動かしながら登校してみるとまだ彼女は登校していなかったので一安心。
約5分後に彼女は教室にやってきた。
いつもは自分が最初の生徒なのだろう、教室の照明を付けようと素振りを見せるが俺が先に付けていたので大きな瞳が僅かに更に見開かれた。
早すぎだろ登校。
部活動に加入しているなら教室に来ることは無いから日頃この時間なのだろう。
早起きは三文の徳というが、俺は三文払って寝たい。
「おはよう」
「……」
挨拶を投げかけると彼女は通りすがり様に小さく会釈をした。
……こういう反応はするのか。
朝のホームルームが始まるまではカバンから小説を取り出し読書に没頭する。
そして、それ以降は授業を真剣に受けて、休み時間は席を立つか窓の外を眺めていることが多かった。
昼休みは教室で持参した弁当を食べて、残った時間は読書。
午後も同じサイクルで過ごしていた。
「なーんもわかんね……」
一日なんてあっという間に終わってしまい最後のホームルームで思わず呟いた。
分かったことは成績が優秀ということくらいだ。
何度か教員から問題の回答を求められていたが黒板でスラスラと回答するのを素直に賞賛したくらいしか俺が分かったことは無かった。
人と話をしないで相手の人となりを理解するのって難しいんだな……。
よく漫画やラノベで話してもいない相手のことを理解できている描写があるが、やはり物語補正なのだろう。
俺は全く分からなかった。
というか、彼女自身の動きが少なすぎて情報がペラペラだ。
体を後ろに倒し、椅子を前後にギコギコ音を立てて担任教師の話を右から左へ流す。
似たように教室の中では放課後のことをコソコソ相談する姿も散見する。
おそらく、語部は即帰宅だろうなと横目で彼女の顔を見ると、視線が黒板でも外でもない方向へ向いていた。
その先を辿るように顔を向けるとそこには女子生徒同士がメモ用紙を上手に折り畳み可愛い形にしてちょっとした文通まがいなことをしていた。
あれ、女子よくやるよね。
授業中も何度か経由してあげたことあるし、スマホでこそっと連絡なんて出来てしまう世の中でも、スリル間やお手製ってのが良いのだろうか。
きっと、この後の予定とか何気ない会話だとしても楽しいのだろう。
そんな光景を俺よりも、語部はじっと眺めていた。
当の本人たちが交換を終えても、その机の上に置いてある手紙を彼女はじっと見つめていた。
翌日、俺は一つの思い当たりというか手当たり次第というか試すことにした。
クラスの中でも中が割と良い部類の女子生徒に声を掛けて昨日見た手紙の折り方を教わる。
「簡単だよ、これを半分に折って、更に半分にしてから……」
「ゆっくりな、俺この手の作業苦手だから」
紙飛行機とか、折り鶴とか本当に苦手なタイプなのよね。
指が細いからか、女子はこの手の作業って好きだし早いので最後まで追いつくのに軽く周回遅れされたのは内緒だ。
休み時間で一番簡単な折り方を教わり授業中に本当になんてことない短文を書く。
なるべく丁寧に教わった通りに折りたたむと、先生や他の生徒に絶対にばれないタイミングを探る。
経由だけしていた時は感じなかったが、確かにこれは少しドキドキする。
お気軽にメッセージ送信とは違った見つからないようにという緊張が楽しさを際立たせるのかもしれない。
彼女はどこか上の空で、外を眺めているそのタイミングで俺はお手製メール便を彼女の机の上に投げ入れる。
小さく、パタッ音を立てて机の上に落ちるとその音で語部は視線を戻す。
机の上に落ちた視線はその瞬間に固まり、勢いよく上に持ち上げられると驚いたような表情をこちらに向ける。
彼女の前に座る女子生徒が渡すのなら体の動きで絶対に気が付く。
音で気が付いた時点で俺だと判断したのだろう。
横目で見ていた俺の視線と彼女の視線が交錯し、想像していたクールビューティーな印象とは異なった反応だけに少しだけ面白くなりニヤッと口角が上がる。
……傍から見たら絶対、キモイだろうな俺。
女子の机に手紙を投げ入れてニヤニヤしてるって。
可能性として突き返されるか無視されることも考えていたが、彼女は意外にも折りたたんだ手紙を隠れるように開くとその内容を確認した。
『小説はなに読んでるの?』
俺が書いた彼女に向けた初めての言葉。
色々悩んだが、最初は当たり障りのない内容にとどめた。
そもそも、このやり方を選んだのには理由がある。
単純明快、昨日の彼女の表情が羨ましそうな顔をしていたからと感じたからだ。
あれだ、おもちゃコーナーに佇む少年少女のような眼差しとでも表現すればいいのだろうか。
手紙を送りあう友人関係になのか、手紙なのかは分からないが試したくなった。
別にラブレターを送るわけでもないのだから大した緊張ではない。
手に汗握って喉が渇いたくらいだ。
少しだけ心拍数も高いまである。
彼女は何度か俺と手紙に視線を移して、先生にばれない程度にカバンに手を入れる。
頭を動かして覗き込んでいる様子から小説のタイトルでも確認しているのだろう。
それから、カバンから俺が渡したノートの切れ端で作成した手紙ではなく、女子用のメモ用紙みたいなものをこっそり取り出してペンを走らせる。
……あんなものカバンに用意してたんだ。
授業で使ったりするのかな?
彼女は書き終えたメモ用紙を俺とは違い花のような折り方で作ると、同じく誰にも見つからないタイミングでこっそりと俺の机に投げ入れる。
文豪の作品か、マイナーな作品か、今ならラノベだってあり得る。
少しだけ期待に胸を膨らませて丁寧に開くとそこには
『爆笑必死フリートーク塾Vol.3 です』
面白い女、これが俺の最新の語部文香の印象にアップデートされた。
その日は、各授業で一度ずつだけ手紙を作り彼女に渡した。
語部はそれに答える形で返事の手紙を書き、同じように俺に渡す。
内容なんて本当にシンプルだ。
朝何食べた、勉強は得意なの、普段テレビとか観るの……なんて、正直どうでも良い内容かもしれないが語部は希薄な表情の中でも前のめりで文字を書き記していた。
そしてホームルームが終わると生徒達が一斉に教室から出て行く中、俺も荷物をまとめて立ち上がる。
「じゃあ、また明日」
まだ、荷物を片付けていた語部に一声かけて教室を後にする。
なんだか達成感に満ちた中で一日を終えることが出来そうだ。
ただ、明日の世界史の小テストは諦めよう。
まったく聞いていなかったから。
さらに翌日
今日テストがあることを思い出して憂鬱な気持ちで登校を余儀なくされると、教室には既に語部が自分の席でいつも通り本を読んでいた。
……あればVol,1だろうか、2だろうか。
そんなことしか考えられないくらいに俺はあの本に夢中だ。
クラスメイトに程々に挨拶を交わして自分の席に腰かけると、若干語部がソワソワしているのに気が付く。
もしかして朝から手紙の受け入れ態勢万全ってことかなと思いながら、机の中に今日の授業の教科書を入れようと手を突っ込むと指先に引っかかりを感じる。
覗いてみると、昨日彼女が使っていたメモ用紙が綺麗に花形に折られて入っていた。
取り出して、開く前に彼女に視線を向けると少し、ほんの少しだけだが確かに笑っているように見えた。
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