8 イザベラの友達
「まあ、ルシア嬢は本がお好きなのね!」
「ええ!良かったら次の機会におすすめをお貸ししますわ。」
スチュアート邸で開かれた茶会では、コマス伯爵家の末娘ルシアが来ていた。
他にも何人か令嬢が来ていたのだが、イザベラはインドアな趣味が合う彼女を特に気に入った。
ルシアは淡褐色の髪にいたずらそうな緑色の目をしており、一見活動的な様子をしているが、意外にも気の弱い部分があるようだ。
ルシアとしても、これまで社交界でなかなか見つけられなかった友達ができて嬉しいと感じており、この機会に仲良くなりたいと考える。
「もしイザベラ様が嫌でなければ、私と一緒に陽炎祭に行きませんか?」
「…陽炎祭?商人たちが街に出て踊る祭りでしたっけ?」
「ええ。勿論それは有名だけれど、それだけではないのよ。お互いに花で染めた色水をかけあったり、路上にお店が並んだり…」
「まあ、それは知らなかったわ。」
「一番の見どころは陛下が執り行うパレードね!毎年派手な馬車が海辺の町から城下まで通るのだけれど、陛下は馬車の装飾花に埋もれそうになっているの!」
「…縁起が悪いわ。」
「怖そうな陛下がお花に囲まれていておもしろいのだけれど。まさか本当に亡くなってしまわれて…。今年はランヴァルド様になるのかしら。」
一通り話し終えてルシアは乾いたのどを潤すために、紅茶を上品にすすった。
「それでは、私あまり気乗りしないのよ。何といっても、この間陛下に目をつけられた気がするのよ。」
イザベラは首を振って力なく目線を落とした。
「まあ、パレード中は人が多くて誰かわからないわよ!向こうは目立っているでしょうけどね。」
結局、ルシア・コマスに勧めれるがままに、陽炎祭で会うことを約束してこの茶会はお開きになったのだった。