21 二人のはじまり
結婚式が行われる一年前、イザベラ・スチュアートは侯爵とともに王宮に訪れた。
「陛下はいらっしゃいますか?取り急ぎ返事をするように仰せつかっておりますが。」
イザベラは人気のない応接間を見渡して不安になっていた。もしかしたら、あの手紙は誰かのいたずらで、今日訪ねるのは少し軽率な行動だったのかもしれない、と考える。
けれども、次の瞬間勢いよく扉が開くと、彼の髪と同じ漆黒の軍服に身を包んだランヴァルドが現れ、その疑いは杞憂だったとわかる。
「待たせたようですまない。・・・お辞儀などしなくてよいから座ってくれ。」
席に着き、一息吐いてから彼は真っ直ぐ正面の緑色の目を見た。
「手紙の件、考えてくれたか?」
「あの、その、心の準備というものがありまして、・・・なぜ、私と結婚を?」
「イザベラ⁉」
隣で悲痛な声を上げる侯爵は、てっきり二人は知らないところで恋仲なのではと思いこんでいた。ので、娘が嫁ぐのは淋しいが、ここでこの反応をする娘の心理を理解できず、ハラハラした気持ちで行方を見守り始めた。
「ははっ。反応は何となく予想できたが、こんなにストレートに返されるとはな。まあ、ゆっくり話そう。・・・俺は今即位して間もないが、この国を統治し、さらに発展させる必要があると感じている。」
イザベラは真剣な表情で語り始めたランヴァルドを見て、考える。
(この顔は、いつもの国王陛下としての彼のときだわ。)
「その中で重要なのは、第一に他国にこの領土を取られないこと、第二に国内の安全を確保すること、第三に、後を継ぐ者を育てること。この3つは絶対だ。」
「・・・それで、女性には困らないでしょう貴方が、なぜ私を?」
「国内の安全という点ではまず、妻にはある程度の由緒正しい家柄が必要だ。そして人魚の住む海中都市の保安ができれば理想的だ。」
「・・・。」
「イザベラはスチュアート家の一人娘であり、そしてなんと人魚にも好かれている。」
「・・・本当にそのような理由で?コホン。しかしながら、陛下、私は体が弱いのですよ。」
「それは承知している。母上も、身体が弱かったが、俺は無事に過ごしているから大丈夫だ。」
「・・・。」
「・・・それと、理由はそれだけではない。ただ、今のところの理由はこれで十分だろう。おまえに何か言う奴は俺がきっちり対処するから、心配する必要はない。・・・結婚してくれないだろうか?」
イザベラは少し考えるふりをしたのちに、実はもう決まっていた答えをする。
「わかりました。こんな私でよろしければ、よろしくお願いいたします。」
どうせ体が弱いのだから、ほかに結婚を申し込んでくれる貴族は少ないだろう。そう考えていたイザベラは、社交界デビュー後に届いていた数多の手紙が、隣の今にも倒れそうな人物によって燃やされていたとは知る由もないのだった。
こうして、決してロマンチックとは言えない婚約は、あろうことか破られず実を結んだのだった。




