第八十六話 仲直り
「優斗くん……?」
莉奈に出会った。まさかのタイミングで。しまったな、全然心の準備ができていない。
よし、弁明しようと、言葉を発そうとするが、
「嫌いです」
そう、言われた。俺が言葉を放つ前に。
「……」
「……」
莉奈が立ち去ろうとするのを、追う。少しずつ、少しずつ。
「何ですか? 前川さん」
「……」
くそ、苗字呼びはこたえるな。
「ストーカーですか? 通報しますよ?」
「いや、通報しないでくれ」
「このまま家までついてくるつもりですか?」
「ついてくるというか、話がしたくて来たんだよ。お前、すぐに出ていったから」
「出て言ったって、言い方悪いですね。誰だってあんなところを見たら出ていくでしょう」
「出ていくでしょうって、俺にも弁明の機会をくれよ」
「弁明の機会と言われても、あれは黒でしょ」
そう言ってさらに莉奈は歩くスピードを上げた。
「おい、待てよ!!」
「待ちません!!」
「おいおい、莉奈。俺と話し合いしようぜ」
「嫌です!!」
「嫌じゃあ、伝わらねえぞ。俺はお前と仲なおりしたいんだよ」
「どうせ……二股したいだけでしょ?」
くそ、埒が明かねえ、かくなるうちは……
「莉奈!!」
「きゃあ」
俺は莉奈の肩をつかんだ。
「そんなことは置いといてさ、俺は莉奈のことが好きだ、大好きだ。だからこそ、仲直りがしたい」
「……私だって本当は仲良くしたいですよ。でも、あの子だけは無理なんです。あの子に私が知らない間に接触していた優斗くんを、私は許せないんです」
「俺は、ちゃんと西園寺綾からの告白を断った。それではだめか?」
「私はその光景を見てません」
「なら、西園寺綾に確かめてみたらいいじゃねえか」
「それは無理です?」
「なんで?」
「会いたく……ない」
その声は心なしか弱々しく聴こえた。
「俺は前の話で莉奈の過去の話はしっかりと聞いているつもりだ。だからこそ、無理に西園寺綾に訊けとは言わねえ。ただ、俺は、誤解を晴らして、莉奈と仲直りがしたいし、莉奈を抱きしめたい、キスがしたい、莉奈の髪の毛を触りたい」
俺は、莉奈に対する気持ちをぶつけた。
「そこまで言うと、もう変態ですね」
そして莉奈に笑顔が戻った。
「まあ、それはいいでしょう。それで、なんであの女と一緒にいたんですか?」
そしてすぐに莉奈の顔は厳しくなった。
「それは……莉奈の言う差園児綾に興味を持ってしまったからだ、どんな人間なのか、どんな感じの雰囲気で、どんな感じのしゃべり方をするのか気になっただけだ」
「それ、浮気してません? やっぱり」
「違う!! それに出会ったのかって俺の妹と、西園寺綾の弟が友達だからだ」
「でも、優斗くんは、私の許可なしで会ったっていう事でしょ?
「……」
何もこれに関しては俺が悪い。俺は莉奈の過去を探ろうとした、莉奈に内緒で。これは文句を言われても仕方がない。
「俺は、それに関してはすまないと思ってる。莉奈の許可を取るべきだった」
「……」
「もう、西園寺綾には会わない。それで許してくれ」
「……絶対ですか?」
「ああ」
「じゃあ、連絡先消してもいいですか?」
「ああ。もちろんだ」
そして俺は莉奈の目の前で、西園寺綾の連絡先を消したもう絶対に彼女とは会わないという意思表明のために。
「優斗くん……」
「……」
「私怖かったんですよ。優斗くんが私の元を離れるかもって。責任取ってください」
「ああ分かってる」
「じゃあ、もう浮気に間違われるような行為はしないでくださいね」
「分かった」
そして莉奈は俺に抱き着いてきた。
「もう、不安にさせないでくださいね」
「ああ」
「もう、私を話さないでください」
「ああ」
「もう、私を……」
そう言って、莉奈は泣き出した。俺はその莉奈の頭をよしよしと撫でる。
「あ、そうだ、優斗くんは私がいなかった理由ってご存じですか?」
「家族でいろいろあるからだろ?」
「実は昨日まで旅行行ってて、そのお土産があるんです。一緒に食べませんか?」
「ああ、食べたい」
「あ、優斗くんともお出かけしますからね」
「莉奈……そう言えば、なんでさっきはファミレスに寄ったんだ?」
「いや、それはその、理由があって」
「理由?」
「はい、家族でお出かけしてたので」
「なるほど」
ということは莉奈の両親にも迷惑をかけてしまったかもしれないな。
そしてそのまま莉奈の家に行った。もう、日は暮れていたが、もう止まってもいい。その気持ちだ。
「莉奈、仲直りはできたのか?」
「はい、浮気じゃないらしいですけど、一応連絡先は消させました」
「なるほど、優斗くん。大体の話は莉奈から聴いているよ。君も大変だったね」
「いや、俺が悪いんです」
「いやでも、興味本位だったんだろ」
「でも……私を不安にさせたのは事実ですから」
「ごめんって」
「ぷりゅりゅりゅりゅ」
電話が鳴った。莉奈の電話だ。
「これは」
それを見たら西園寺綾からのものだった。




