第八十七話 西園寺綾の電話
「プリュリュリュリュ」
電話が鳴った。
「綾ちゃん……」
莉奈がその電話の前で神妙な顔をする。おそらく俺がさっき携帯で西園寺綾をブロックしたから、莉奈にかかってきたのだろう。
「俺が出る」
「だめです。そうするんだったら私が出ます」
そして莉奈が出た。
「……」
「……」
「……」
三〇秒間ほど、無言の時間が続いた後、莉奈が「優斗くんは渡しませんから」と、言った。その言葉を契機に莉奈は電話を切ろうとしたが、その時、
「あなたはまた人を不幸にするの?」と、そうスピーカーにしてある莉奈の電話から聴こえた。低い声で、まるで考え込んでいるような声で。
「あなたは、人を自分のエゴに巻き込んで、自分の価値観を押し付け、挙句の果てには行動の自由すら奪おうとする。そんな人間でしょ? あなたは」
「……」
莉奈が涙目になった。これではだめだ! と、すぐに思い、莉奈の持ってる電話に向かって、
「俺にとって莉奈はそんなことはない。莉奈は確かに少しあれなところもあるが、でも俺は大事に思ってる。だからもうお前は引っ込んでてほしい。俺たちの関係に口を出さないでほしい。さっきは俺が悪かった、莉奈の彼氏ということを隠して会っていたんだから。……竜輝君は俺の家に来てもいいが、君はこないでくれ。これ以上言うんだったら……」
「私は……あの時に君の姿を見て一目ぼれしたの。だから、その子を捨て……」
そして俺はスマホの通話ボタンを消した。最後まで西園寺綾の話を聞かないで。
「俺は、もう莉奈を裏切らないから」
「優斗くん!!」
そして莉奈は抱き着いた。
「私は信じてもいいんですよね。優斗くんのことを」
「ああ」
「じゃあ、お土産食べましょう」
と、莉奈がそばを取り出してきた。
「これ美味しかったから優斗くんに食べてもらいたかったんですよ。まあ、そう思ってたらあんなことがあったんですけどね」
「それは悪かったって」
根に持ってるな。
「じゃあ、ゆでてきます。とは言ってもすぐに出来上がるので、ゆっくりしてください」
「あ、ああ」
そして莉奈がそばをゆでに行き始めた。
「……優斗くん」
その間に莉奈のお父さんに話しかけられた。もしかして怒られるのではないか、その恐怖感が俺を襲う。
「莉奈に聞こえていない今だから言う。私は君が今回とった行動は賢明ではなかったと思う。それは分かってるな」
「はい」
「だが、どうやって彼女に会ったんだ?」
「……俺の妹と、彼女の弟が一緒の学校だったんです」
「それは妙だね。なんで距離があるのに一緒の学校なんだろうか」
「それは俺も思いました……でも、あの時はそれところじゃなくて」
「……思うんだが、もしかして引越ししたんじゃないかな」
「引っ越し。莉奈と同じ理屈でってことかもしれませんね」
「互いに距離を取るために引越ししたという可能性だ。しかも聞いた話によると、彼女は君に求愛してるじゃないか」
「そこが謎なんですけどね。いつどこでそんなことになったのか……単に莉奈に対する対抗心かもしれませんけど」
「まあ、だが、今となっては彼女は君たちとは関係ない。あの時は私が軽率に名前を出したのが悪かった。もう彼女のことは忘れなさい。莉奈を傷つけないためにも」
「はい」
そしてそんな会話をしていると、莉奈がそばを持ってきた。
「はいどうぞ!」
と、莉奈が持ってきたそばを見て俺は「美味しそうだな」と呟く。
「だってそりゃあ信州そばですから」
と、莉奈が自慢げになる。
「なんでそんな偉そうなんだよ」
「だって……優斗くんはわたしに貸しがあるんですから」
あ、これ一週間くらい言われそうだ。
「うまいな」
早速そう言った。そばの麺がいい具合の固さで食べ応えがよく、だしも味がちょうどよく、美味しい。
「まあ、この私が買ってきたやつですから」
そう、莉奈が調子に乗る。が、俺には何も言うことが出来ない。
そして莉奈たちはそばは食べ飽きたのか、別の料理を食べる。
そして食事中に。
「そうだ、優斗くん。今日はお泊りしてもらいますからね」
と言われた。
「なんで?」
「罰としてです。今日は私を満足させてください」
「ああ、そういう事か」
「ええ、そういう事です」
罰として莉奈にお泊りを命じられた。まあ、仕方ないことだが、むしろ今の俺にとってはむしろボーナスかもしれない。莉奈と過ごしたいし。
そして食後、
「優斗くんゲームしましょう。キングカートを!」
そう言われ、莉奈の部屋でゲームをすることになった。久しぶりのキングカートのオンライン対戦だ。
どうやら莉奈は俺が知らない間に買っていたらしい。
「じゃあ、行きますよ!!」
そう莉奈が言ってレースが始まる。
「結局優斗くんはそのカートですか」
俺の車を見ていった。
「まあ、いいです。腹いせに優斗くんをボコりますから」
「腹いせって……」
「だってそうですよね。優斗くんが私を裏切ったんですから。私は傷つけられた分の痛みだけ、優斗くんに言い続けますからね」
「はいはい、分かってますって」
そしてレースが始まった。莉奈は並み居る敵を見事に抜かしまくり、見事に一位になった。その後のプレイイングも見事で、一位の座を明け渡す気はないようだ。一方俺は、最下位付近を走っていた。
「優斗くん、本気出したらどうですか? あ、もしかしてそれが本気ですか?」
一位の莉奈は俺を煽りまくる。くそ、由依と、竜輝君との対戦を思い出す。今日も煽られるとは、しかもストレスたまっているようで、だいぶ嫌な感じの煽り方だ。
「ここからだ、俺は」
「まあ、最下位になったら困りますもんね」
そして俺は上手く周りの車を抜かしながら四位まで抜け出た。
「まあ、本気出したらそれくらいは行きますよね。でも、それで私は抜かせませんよね」
「っく」
「まあ私は強いですからね」
「まだ、負けてない」
そう言いつつも、調子に乗った莉奈はかわいいと思ってしまう。ムカつくけれど。
「さて、そろそろ三週目ですね。そろそろ私を抜かさないとだめですね」
「分かってる」
もう後がない。俺は今三位だ。そろそろ仕掛けなければならないと。
一瞬お詫びという感じでわざと負けるべきかと思ったが、莉奈はそう言うの望まないと思った。
そして俺は上手くジャンプ台に乗り、ショートカットを目指す。ジャンプにより、本来減速するダート地点を原則なしで乗り越えようということだ。
そしてその目論見は成功し、俺は一気に莉奈の真後ろに躍り出た。
「あ、ショートカットはずるいですよ」
「俺はそれでもやってやる」
「なら」
と、莉奈はアイテムボックスを取った。すると加速アイテムが出た。
「なんでそれが一位で出るんだよ」
そのアイテムが一位で出る確率なんて一パーセント以下だと聞いたことがある。これも莉奈の強運が生み出すものなのだろうか。そして気づいた時には莉奈はそのアイテムを使い、ダート地点を上手く原則なしで乗り越え、俺にかなりの差をつけた。
「これは……」
「私の勝ちです。これは裏切られたヒロインに神様が手渡したものですよ」
と、決め台詞的なものを放った莉奈がそのままゴールした。
「あー、悔しいな」
「ふふ、これが私の実力です」
そう一得t莉奈は誇らしげに笑う。まるで魔王のように。
「……調子に乗りすぎじゃないか?」
「だって、裏切られた復讐ですもの」
「返す言葉がねえ。まあでもリベンジさせてくれ」
「もちろんです!! まあ何度来ても叩き潰してみせますけど」
「おう、……莉奈、まるで本物の魔王みたいだな」
「ええ、つまり私は優斗くんよりも強いという事ですよ」
「でもまあ、運だけでは勝てないということを教えてやるよ!!」
そして次のゲーム。……俺が九位、莉奈が七位だった。
「私の勝ちですね。また」
「いや、トン繰りの背比べだろ。最後混戦だったし」
「え? 言い訳ですか? 勝ちは勝ちですけど」
「むむむ。次だ!!!」
そして次も負け、次も負け、次も負けに負け続けた。それはもう、精神がおかしくなりそうなほどに。
「もう無理だ。このゲーム」
「ふふふ。完全勝利という訳ですね」
「ああ。そう言うことだ」
「なら。もう満足です!! さて、いつも恒例のあれ行きましょうか」
「あれ?」
「混浴です」
なるほど。確かに恒例ののあれだな。




